「AHMED ABDULLAH AND THE SOLOMONIC QUINTET」(SILKHEART RECORDS
SHCD−109)
AHMED ABDULLAH
たぶんテナーがデヴィッドS.ウェアなので買ったのだと思うが、トランペッターのリーダー作である。このひとの私のイメージは「サン・ラ・アーケトストラのトランペット」というものであって、リーダー作がけっこう多いひとだという認識はなかったが、調べてみると、アレックス・ハーディングを加えたグループのアルバムはかなりでているようだ。うちには、リーダー作としてはこのアルバムと、同じくシルクハートの「リキッド・マジック」というLPしかないが、そのLPも探したけどどこにしまったのか見つからない(テナーがチャールズ・ブラッキーンだから買ったのだと思う)。本作は、ベースがフレッド・ホプキンス、ドラムがチャールズ・モフェットというオールスターグループで、ギターが入っているのが全体のサウンドを決定づけている感じ。ウェアのソロはどれも、珍しくコード感のあるもので、こういうこともできるんだなあ、と思った(だって、いつもバックと関係なくピーピーギャーギャーとスクリームしてるからね)。でも、かっちょええ。とくに3曲目のソロは強烈もいいとこ。ウェア、凄い! ライナーには、リーダーのアメッド・アブダラーのプレイのことをリー・モーガンとかクリフォード・ブラウンとかファッツ・ナバロを引き合いに出して評しているが、なに書いとんねんこいつ、と思いながら聴いてみると、意外や意外、たしかにこのひとのトランペットはバップなのだった。それもかなりきっちりしていて、うまい(5曲目参照)。音楽的には、基本はやはりモードを主体としたブラックミュージックなのだが、このころのシルクハートの音楽(チャールズ・ブラッキーンとかデヴィッド・ウェアとかいろいろ)に共通する、骨太なガッツと、ニューオリンズもバップもモードも一呑みにするような豪快なくくりがものすごく心地よいのだ。いわゆる「ソロ回し」パターンが多いと思うが、それもジャズの伝統である。バラードなんかも、まるでハワイアンみたいなテイストがあったりして(4曲目参照)、一種のワールド・ミュージックともいえるのではないか。なんというか……これは個人的な印象なのだが、ナット・アダレイにちょっと共通するものを感じるなあ。ずれてますか?
「TARA’S SONG」(TUM RECORDS OY TUM CD 009)
AHMED ABDULLAH’S EBONIC TONES
なにげなく中古で買ったのだが、かっこいいにもほどがある! アーメッド・アブダラーといえばシルクハートの作品でなじんでいたが(ソロモニック・クインテットというやつですね)、本作もクインテットで、しかもピアノやギターではなくビリー・バングのヴァイオリンが入っていて、めちゃくちゃ貢献している点がすばらしいと思う。9曲中、リーダーのアブダラーの曲は2曲だけで、あとは有名曲やフリージャズスタンダード(?)なのだが、この選曲の妙も本作の聴きどころである。相棒はバリトンのアレックス・ハーディングでこのひとも大活躍している。ベースはアレックス・ブレイクで、ドラムは実は知らないひとでアンドレイ・ストロボルトというひとだが、ケン・マッキンタイヤとずっとやってたらしく、スティープルチェイス盤あたりはだいたいこのひとがドラムのようだ。あと白石かずこのアルバムにもすごいメンバーとともに参加しているし、サン・ラやダラー・ブランド、ジャッキー・バイヤード等々と共演暦がある、私が知らないだけですごいひとのようである。そして、ブックレットがものすごく豪華で、分厚いし、カラー写真満載だし、各メンバーのプロフィールや各曲ごとの解説も詳しく、たいへん金のかかったアルバムなのである。で、内容だが、これが驚愕の一枚である。1曲目の「サン・スーシ」というのはジジ・グライスの曲で、何度か録音しているから代表曲のひとつといってもいいかもしれない。ラテンリズムの明るい曲でテンポもミディアムで、そのせいもあってアブダラーやハーディングの個性も素直にわかる。ビリー・バングのヴァイオリンのピチカートがかっこいい。2曲目は、いきなり本作のハイライト来ました! という感じで、ベースとヴァイオリンのピチカートにファンキーなリズム、そしてバリトンのヴァンプ……えっ、こんな「ロンリー・ウーマン」あり? というオープニングから、トランペットとヴァイオリンがチェイスするようなテーマの歌い上げがめちゃくちゃかっこいいアレンジ。先発ソロのアレックス・ハーディングのバリトンは、この曲をエキゾチックな雰囲気の一発ものという認識でフリーキーにブロウしまくっていて、圧巻である。つづくトランペットも鋭い音をびゅんびゅん吹きまくっていて、ドン・チェリーとはちがった世界を作り出している。そして、ビリー・バングのヴァイオリンは終始痙攣しているかのような凄まじい演奏で、ドラムやベースも大暴れする。ヴァイオリンソロからラストテーマのきっかけに移った瞬間など、ぎゃーっ、というほどかっこいいのでこの曲はとにかく必聴でお願いします。3曲目「タラズ・ソング」というのはアブダラーのオリジナルなのだが、ものすごく重い、暗いバラード。本作ではインストゥルメンタルで演奏されているがライナーには歌詞が載っていて、それを読むかぎりではこれがめちゃ明るいラヴソングで、なぜにこんな重々しい曲になってしまったのか不思議だ。もしかするとタラという女の子になにかあったのか、と思わざるをえない。重厚で感動的な演奏である。4曲目はフランク・ロウのあの曲で、それだけでも興味がわく(「ビリー・バングの「アバヴ・アンド・ビヨンド」やロウの「ボディーズ・アンド・ソウル」「ショート・テイルズ」などに入ってる。どれもレビューしたような気がする)。サンバ風の明るい曲で(すっごくいい曲だと思う)、先発のアブダラーがなんというか、人間味あふれるソロをする。きっとええひとなんやろなあ……と思わせるような真摯で丁寧な演奏。そのあとのアレックス・ハーディングのソロも、まったく同じような雰囲気。ベースのノリノリで迫力あるソロは圧巻。5曲目はサン・ラの曲で美しいバラード。スウィングジャズというか、古きよきアメリカンミュージック……みたいな感じ。しかし、ボーカル(アブダラー)が入ると、歌詞が宇宙だの小惑星だの出てきて、あー、サン・ラや、という感じ。面白いですねえ。歌い上げるバリトンソロはすばらしい。6曲目は「ブルー・モンク」で、プランジャートランペット、バリトンサックス、ヴァイオリンが同時にソロを取るニューオリンズジャズっぽい演奏。ガットバケットなアブダラーのトランペットがかっこいい(ガットバケットってトロンボーンにしか使わない表現だったっけ?)。7曲目もサン・ラの曲。ふたりが掛け合いのように歌う。ハッピーな感じの曲。でも、よく聞くと「運命を変えろ」とか歌っているのはサン・ラの曲ならでは。8曲目はアブダラーの曲で、タイトルは「ザ・ケイヴ」。どうやら洞窟のなかで不思議な体験をしたことをもとにしたらしいのだが、どういう体験だったのかはよくわからない。ゆったりしたグルーヴの曲だが、バリトン、トランペットに続くベースソロがかなりかっこよかった。スキャットをまじえながらベースを弾くのだが、ズバズバと大胆に弾きまくり、ド迫力である。そのあと突然ドラムソロから速いテンポの別テーマが出てきて、バリトン〜トランペットとソロが続き、そのあとのエロいといってもいいぐらいなめらかでつつやかでヒステリックなビリー・バングの自在なソロにやられた。ラストはドクター・ジョンでおなじみの「アイコ・アイコ」。ボーカルをフィーチュアしたものすごくストレートな演奏で、ちょっとびっくりした。アーメッド・アブダラーの傑作だと思います。