muhal richard abrams

「THE OPEN AIR MEETING」(NEW WORLD RECORDS 80512−2)
MUHAL RICHARD ABRAMS/MARTY EHRLICH

 ジャズ専門店の中古コーナーで500円ぐらいで買ったのだが、はっきり言って、なんでこのアルバムを手放したのか理解できん。私だったら生涯放しません。めちゃめちゃすごかった。最高のデュオ。96年のライヴだが、ふたりともすごいけど、エーリッヒはめちゃくちゃがんばって吹いている感じ。一方、エイブラムスは余裕が感じられる。当時エイブラムス66歳、エーリッヒ31歳。そのふたりのがっぷり4つがここに詰まっている。この演奏、もし目の前で聴いてたら失禁ものだと思う。いやー、すごいですねえ。人間ってここまでできるんだなあ、とロケットの打ち上げを見ているような気分になる。1曲目はエイブラムスの曲でかなり複雑で難解だが、超かっこいい。ふたりの音とリズムがぶつかり合い、火花を飛ばして爆発しているのが目に見えるようだ。一曲のなかで(とくにピアノソロの部分で)ドラマが劇的に展開し、もうコーフンのるつぼである。2曲目はエーリッヒの曲で、なんというか「ふくよかな」曲。エーリッヒはクラリネット。全体にリズムは大づかみで自由な感じなのだが、エイブラムスのピアノ(とくに左手)が強力すぎて、めちゃめちゃリズミカルに聞こえる。あー、極楽極楽。ピアノソロを挟んでクラ再登場。最後ルバートになるところのクラは荘厳で感動的。3曲目と切れ目なく演奏される。3曲目はリズミカルなわかりやすいめちゃええ曲。互いにソロをしあいバッキングしあうがバッキングが強力すぎる! それが次第にからみあっていき、ついにひとつになる。もりあがるー。最後はふたりで一体となって爆走。すげーっ。4曲目はエーリッヒの曲で美しい、ややゴスペル的なメロディを歌い上げる。テーマ部分でのアルトの歌い上げと、ピアノの強烈すぎるサポートがすばらしすぎる。ピアノソロも圧倒的で感動的だが、(曲全体の3分の2ぐらい)たっぷりとソロがあったあとインテンポになってようやくアルトが出てくる構成。ピアノのところとデュオになるところはまったくイメージが変わるので、一種の組曲といえるかも。5曲目はまたしても切れ目なく演奏される。ほぼ一瞬でエーリッヒがクラリネットに持ち替えてはじまるのは彼のコンポジションで、クラとピアノがユニゾンでかなり複雑なテーマを延々と合わせるところを聴くだけでもすばらしい。疾走するふたりの息の合いかたが見事すぎて死にそう。とにかくエイブラムスはどの曲でもひたすら凄くてひたすらかっこいい(曲調的には4曲目と5曲目のタイトルが逆になっているのではないかという気もする)。ラストはアンコールなのか、即興ブルース。いやー、参った。参りました。それにしてもいつも思うことだが、エーリッヒなのかエーリックなのかアーリッヒなのかアーリックなのか。検索するとユーリッヒと書いてあるページもあったし、グーグルで出てくる右横の囲いにはエールリックとなっていて、どれがどれやらさっぱりわからず(エーリッヒ、チェカシン、チェイピンど真ん中世代の某たこ焼き店で私がアーリッヒと言ったら、エーリッヒと訂正されたので、一般的にはエーリッヒなのだろうな)。とにかく本作を中古で見つけたひとは見逃すことなかれ。