「THE HEALING」(DISK UNION AVAN 069)
BRUCE ACKLEY TRIO
ROVAのソプラノ担当のブルース・アックリーのリーダー作。ソプラノに徹したトリオで、ドラムがジョーイ・バロン、プロデュースがジョン・ゾーンというのだから、これは聴きたくなります。1曲目はモンク的というかレイシー的な曲だが、ハービー・ニコルズの曲を参考にしたコンポジションらしい。アックリーのソプラノは、それこそレイシーのような音使いで真摯にフレーズを積み重ねていくのだが、けっこうたどたどしく、そこがまた真面目さを痛いほど感じる。2曲目はマイナーの曲。3曲目はブルースなのだが、ソニー・シモンズに捧げたもの。アックリーのソプラノはドルフィーっぽいというか、アクロバティックな音の跳躍を聴かせるフレーズを中心に吹きまくるが、なんかこう硬い感じ。ジョーイ・バロンのドラムが圧巻。4曲目はROVAのスティーヴ・アダムスと一緒に書いた曲で、ビリー・ストレイホーンをイメージしたらしい。テーマはあるのだが、内容はフリーなリズムでのかなり自由度の高いインプロヴィゼイション。だが、ベーシックなコンポジションがちゃんとあって、その進行で演奏されているような気がする。テンポも自在に変わっているようだが、じつはなんらかのルールがあるのかも。5曲目はジョン・チカイに捧げた曲で、「アセンション」でのチカイのソロでスタートするとアックリーによるライナーに書いてあるが、そのあたりは聴いてもよくわからん。超アップテンポで、ほとんどパルスのようなスピードでの演奏だが、ジョーイ・バロンの凄さが光る。アックリーは真面目な対応でさまざまな技を繰り出して応戦するが、このバロンに対抗するにはもうちょっと暴れてもいいような。6曲目はアンソニー・ブラクストンに捧げられた曲だそうで、なるほどマーチリズムでユーモラスで諧謔的でもあるテーマが奏でられたあと、内省的なフレーズが積み重ねられていく。おもしろい。7曲目はベースの弓弾きではじまる。ベースがアルコでリズムを刻みだして、バロンのいきいきしたリズムが加わり、ソプラノサックスが個性的なフレーズを吹きまくる。本作の白眉ともいえる、すばらしい演奏。アックリーのソロも、いちばん独特で個性的なものになっていると思う。中盤からハーモニクスを激しいリズムに乗せて繰り出し、ノリノリで盛り上がるが、もちろんストイックさは忘れない。こういうソロをほかの曲でももっと展開すればよかったのに、と思ったりして。バロンの躍動的なドラムソロもすばらしい。この一曲のためだけでも皆さん(て誰?)に聴いてほしいと思う。8曲目はギターのダック・ベイカーの曲(本作には参加していないが、アックリーの友達だそうだ)で、メロディアスな曲。ベースのグレッグ・コーエンのゆったりした4ビートのベースソロが大きくフィーチュアされる。9曲目は、セシル・テイラー、コルトレーン、エルモ・ホープなどにインスパイアされた(と本人が書いている)曲で、このひとのコンポーザーとしての才能もよくわかる(ベースとドラムの扱いがいい)。ソロはあいかわらず、ドルフィー、レイシーなどを連想させる跳躍の大きい、60年代ジャズ的なものだが、かなりぎくしゃくしており、そのあたりが妙に心にひっかかる。最後の曲は「IVAN’S BELL」というタイトルで、これはビル・エヴァンスのアナグラムだそうだ。そして、録音当時5歳の、アックリーの娘(?)IVANに捧げられた曲でもある。アックリーのソロは吹き伸ばしが多いが、自由で、本作のなかではいちばん好き勝手な即興になっているのではないかと思う。3人のインタープレイもめちゃくちゃ密で、そのあたりもビル・エヴァンスっぽい? とても気に入った。というわけで、ソプラノのみのピアノレストリオということで、どんなもんかなあと思っていたら、ベースとドラムの快演にも助けられ、主役のアックリーの真面目さが滲み出るような内容だった。すげーっ! という感じではないが、聴けば聴くほど染みてくるよ。