「THEM DIRTY BLUES」(LANDMARK RECORDS VDJ−1598)
THE CANNONBALL ADDERLEY COLLECTION VOLUME 1
キャノンボールに関してはいい聴き手ではなく、すごいすごいとは聴くたびに思うのだが、アルトなのでいまいちちゃんと聴いていない。ビル・エヴァンスとの「ファットなんとかミーン」というのも「ライブ・イン・サンフランシスコ」も「イン・ジャパン」も「イン・シカゴ」も「シングス・アー・ゲッティング・ベター」も持っていない(どれももちろんジャズ喫茶とかで何度も聴いたことはあって、全部好きだ)。「サムシン・エルス」すら持っていない。しかし、本作はどうしても手元に置いておきたいと思ったアルバム。冒頭を飾るボビー・ティモンズの「ダット・デア」(2曲目は別テイク)は、学生のころにコンボで演奏した記憶がある軽快なのにずっしりと重い手応えのあるファンキーチューンでめちゃくちゃかっこいい。アレンジも完璧でこれ以外考えられないぐらい。ダイナミクスもすばらしい。もちろんソロもいい。キャノンボールのソロが傑出しているが、ナットのソロもいいし、作曲者であるティモンズのきらきらと輝くようでいて落ち着き払ったブルージーできらきらしたソロはすごいなあと思う。3曲目はサム・ジョーンズの「デル・サッサー」で、学生のころ、知り合いのアルトとトランペットがジャムセッションになるとかならずこの曲でバトルしていたなあ、と思い出す。それにしてもサム・ジョーンズってコンポーザーとしてもええ曲を書きますね! 後世に残るような名曲であります。4曲目はミディアムテンポでスウィングする曲でナット・アダレイのテーマ提示とコルネットソロのあと、キャノンボールのスピード感はあるけど落ち着いたバップソロがフィーチュアされるが、もうすごいとしか言いようがないため息が出るほどの見事な演奏。ベースソロもええ感じ。5〜6曲目はおなじみ「ワークソング」なのだが、なぜかピアノが異なる。5曲目はティモンズなのだが、6曲目はバリー・ハリスに変わっているのだ。5曲目のティモンズのソロはずっしりと重いファンキーの塊をぶつけられているような演奏だが、6曲目のハリスのソロは端正で軽快ななかにもブルースを感じるような演奏。どっちもいいですね。7曲目はこれもおなじみデューク・ピアソンの「ジーニン」で、このクインテットにぴったりの選曲だと思う。キャノンボールは自分がプロデュースしたバド・パウエルの「キャノンボールの肖像」でも取り上げている(本人は未参加)。8曲目は私の好きなバラード「イージー・リヴィング」で……あ、私の好みとかはこの際どうでもよかったですね。でも、さらりと吹いているようでテーマの崩し方とかめちゃくちゃかっちょいいです。流麗で歌心あふれまくりのアルトソロも最高……としか言いようがない。ラストのタイトルチューン「ゼム・ダーティー・ブルース」はミディアムテンポのこってりしたブルースだが、先発のキャノンボールのブルースのツボを心得まくったソロがあまりに上手すぎ、美味しすぎてひたすら感心してしまう。キャノンボールはあらゆる意味で最高なアルトなのだが、同じような最高なアルトであるスティットやソニー・クリスがものすごく上手くてすばらしいけど破綻がない、という意味合いにおいて、チャーリー・パーカーのような「リズムや構成上の破綻を恐れない奔放さ」があるような気がする。ジャズ的なスリルと言おうか……(どちらが良いということではありません)。デヴィッド・サンボーンが「バップアルトの最高峰はバードを別格として、キャノンボールである」と発言したというのを聞いた覚えがあるが、さもありなんと思う。つまり天才なのだ。