「LIVE LIVE JUJU」(RYKO DISK RCD10047)
KING SUNNY ADE AND HIS AFRICAN BEATS
芳垣さんのピアノトリオ「オン・ザ・マウンテン」のライヴを2回観たのだが、2回ともサニー・アデの曲をやっていた。サニー・アデというと私が大学生のときにめちゃくちゃ流行った。「シンクロ・システム」というアルバムが飛ぶように売れ、レコード屋に行くと「ジュジュ」のコーナーがあり、ほかにリンガラやらハイライフやらなにやらのコーナーもある、というワールドミュージックブームが起きていたのだ。「ブラック・ミュージック・リビュー」には毎号ジュジュの記事が載り、私もなんのことかわからぬままそれを読み、レコードを聴いていた。同じころ異常に流行っていたのがサルサだが、私はサルサ方面にはほぼ行かなかったので、いつしかアフリカンポップスも聴かなくなってしまったが、「オン・ザ・マウンテン」の演奏があまりによかったので、久々にサニー・アデを聴いてみっか、とレコード棚を探したが見当たらん(4枚ぐらい持っていたと思う。まあ、どこかにはあるのでしょうが)。しかたなくタワーレコードのワールドミュージックのコーナーに行ったが、かつてはあんなにたくさんのLPが出ていたアデのアルバムは置いていなかった(パパ・ウェンバはあったのだが)。ないとなると一層聞きたくなるのが人情で、専門店に行こうかとも思ったのだが、結局、某レコード市でCDを見つけたので購入(まあ、アマゾンにはいっぱいあるのですが)。それがこれ。いやー、久しぶりに聴くとめちゃくちゃかっちょええですね。伝統的なリズムと現代的なビートの融合、聴き手の身体の各部目がけて突っ込んでくる過激なトーキング・ドラム、シンセが飛び交い、各種打楽器が唸り、コーラスが歌い、アデが吠える。こんなに過激でかっこよかったっけ、と思うぐらい楽しく、スピード感があって、すばらしい。ダンスミュージックだが、ある意味フリーキーで前衛的な部分すらある。基本的には「繰り返し」ということが重要だと思われるが、それはチンドンでもサルサでもなんでも一緒だ。それにしても、ジュジュといわれるとアーチー・シェップの「マジック・オブ・ジュジュ」とかショーターの「ジュジュ」しか知らなかった私が、サニー・アデを聴いてびっくりしたのは本当に昨日のことのようだが、あれはもう35年もまえなのか。ちなみに5曲目の「モ・ティ・モ」と6曲目「マアジョ」は「シンクロ・システム」にも入っていた曲で、あ、これ聞いたことある! となった。でも、演奏自体は全然ちがう。ソフィスティケイトされていた「シンクロ・システム」の演奏に比べ、とことんまでやってる感じ。とにかく、トーキング・ドラムの音とリズムは生理的快感があるなあ。いつまでも聴いていられます。サニー・アデをたくさん聞いたわけではないが、本作は傑作なのではないかと思う。
「SYNCHRO SYSTEM」(ISLAND RECORDS/POLYSTAR 25S−172)
KING SUNNY ADE AND HIS AFRICAN BEATS
学生のころ、ブルースも好きだったので「ブラック・ミュージック・レビュー」という雑誌を毎月購読し、よく知らない世界のことを少しでも知ろうとしていた。その当時、その雑誌がめちゃくちゃ推していたのがこのキング・サニー・アデとジュジュ・ミュージックである。とにかくこれを聴かなきゃ話にならん、みたいな感じで毎号記事が載るのだが、本作はメジャーであるアイランドでの第二弾(第一弾は「ジュジュミュージック」)で、とにかくものすごい作品だ、というので私も心を動かされて、購入した。中村とうようが興奮しまくった感じの筆致でライナーノートですごいすごいと連発しているので、私もそうなのかと思って聴いてみた。なんやねん、これは……というのが第一印象だった。爽やかで、軽いリズムが全編流れる、明るい音楽。トーキング・ドラムが延々とドゥンドゥン言い続け、各種パーカッションがたくさん加わっているにもかかわらず、じつに淡く、あっさりとリズムを刻む。あとはギターが単音でぺけぺけとリフを弾く。リードボーカルが「イラコー」とか「ペンケレ」とか「マージョー」とか歌い、単純なコーラスがつく。フリージャズ以外ではサン・ハウスとかテキサス・アレキサンダーとかハウリン・ウルフとかを聴いていた私はかなり驚き、ちょっと引いた。「キング」というのだから、もっとエグい感じかと思うわけだが、その反対で、軽い。風船のように軽い。しかし、高い金を出して買ったからには元を取らねばならない。毎日のように聞いたが、やはりよくわからない。中村とうようは、これはボブ・マーリーよりずっとすごいのだ、みたいなことを書いていて、ほんまかなあ、と思いながらも聴いていた。当時、私の知り合いもけっこう本作を買っていた。あのころはサルサがいちばん流行っていて、ブラック・ミュージック・レビューはほとんどジュジュとリンガラとサルサとメレンゲとカリプソ……そういったものが中心だった。先輩たちはみんなサルサのレコードを買っていた。私はフェラ・クティとかミルトン・ナシメントとかエルメット・パスコアールとかは大好きだったが、サルサとジュジュとレゲエとリンガラはどうしてもぴんとこなかった。ジャズ以外は、ブルースだけを聞いていたような気がする。それも、R&Bとかソウルとかはしっくりこなくて、古いブルースばかり。ところが今このアルバムを聴くと、なるほど……と思う。軽くない。ビシビシと心臓や鳩尾に来るトーキング・ドラムはたしかにヘヴィだ。そのうえに軽い曲調のメロディを載せている。この凄まじいトーキング・ドラムのまるで生き物のように四方八方からずどんずどんと効いてくる感じが当時はわからんかったのだろうな。この、ある意味アフリカにおいても「古臭い」という感じであったであろうトーキングドラムを引っ込めることなく前面に押し出し、それを利用して新しいロックとして再構築した、というサニー・アデの才能はすごいと思います。とにかく「踊るための音楽」なのに、ジャズみたいに鑑賞用の音楽と思って聴いた私が間違っていたのだ。こういうのはすべてダンスミュージックなのである。そして、当時の私は……今もかもしれないがダンスミュージックがすごく苦手なのだ。しかし、このジュジュが心地よい、すばらしい演奏であることは今ならちゃんとわかる。そして、今ならリンガラもサルサもめちゃくちゃすんなり聴けるし、かっこいいこともわかる。これは(かなりまえのことだが)やはり「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」にはまったのが原因かもしれない。民族音楽は大好きなのだが、今のそういった国々のポピュラーミュージックもだんだん好きになってきた。ハワイアンとかも好きだ(これはタジ・マハールのおかげ?)。というわけで、話は戻るが、本作やその後のアデの作品を聴くと、なんとも楽しいので、このアルバム、買ってよかったなあと40数年ぶりに思うのであります。こういう音楽にはものすごく深く聴いているファンがたくさんいるのだろうと思うが、表面を撫でただけの私も楽しく聞かせてもらってます!