soji adebayo

「LIVE WITHOUT FEAR」
INFINITE SPIRIT MUSIC

 この一枚しか作品を残さなかった、インフィニティ・スピリット・ミュージックというグループのアルバム。リーダーはピアニストのソジ・アデバヨ。グルーヴミュージックだが、かなりアフリカ色が強く、めちゃくちゃかっこいい。メンバーにカヒール・エルザバーとテナー〜ソプラノのヘンリー・ハフが参加しており、どちらも重要な働きをしている。また、カテッタ・エイトン(と読むのかな)という女性ボーカルも超強力。しかし、彼らをまとめあげ自分色に染め上げているのはリーダーの凄さだろう。この世界観ははまる。パーカッション3人というのもいいなあ。1曲目は3拍子系でエレピの幻想的なイントロにはじまり、ベースとエレピがオスティナート的なラインを反復しはじめ、サックスがモーダルなテーマを繰り返す。サックスのソロにスピリチュアルな女性ボーカルがねっとりとからみつく。まさに70年代ブラックジャズの世界。こういうブラックミュージックでソウルでグルーヴな系って、モードジャズであることが重要なカギだと思う。女性ボーカルは、アフリカンな歌い方だが、じつはバップスキャットもめちゃめちゃうまいこともわかる。2曲目は、もっともっとアフリカ。パーカッションや笛のプリミティヴなポリリズムに、(たぶん)カヒールのネイティヴな感じのボーカルが乗る。そこに女性ヴォイスがからみつき、カヒールが叫び、いやーなんともいえまへんな的な呪術的快楽空間が展開する。いつファラオ・サンダースやアリ・ブラウンが出てくるのか、と期待してしまうほど。3曲目はフェイドインではじまる。いきなり4ビートでテナーがゴリゴリ吹きまくる。かなりの力技で押しまくるソロでけっこう同じことを繰り返しているわけだが、汗を流して吹いてる感じが伝わってくる。このソロも、70年代コルトレーン的根性吹きテナーの一典型だと思うが、かっこいいです。パーカッションが最初のほう、ずっと3拍フレーズを刻んでいたり、エレピのバッキングが妙に心地よかったりする。後半はパーカッションの競演になり、ここも聞かせどころ。みんな踊れ踊れ! そこにエレピが入ってきて、好き放題に弾きまくる。パーカッション軍団、強力やなあ。最後はサックスが入って、またフェイドアウト。セッションみたいな感じか。4曲目は手拍子やパーカッションに載せてアフリカ風の歌詞をみんなで歌う、ほんまもんのアフリカの現地録音を聴いているような演奏。いやー、ブラックジャズ。いやー、70年代。いやー、アフリカ。こういうのが一番しっくり来るなあ。アフリカ音楽の専門家にいわせたら、こんなもん……ということになるのかもしれないが、みんな本気だし、楽しそうだし、かっこいいし、しかも深いと思うよ。なにを言ってるのかはさっぱりわからんけど。5曲目は本作でいちばん長尺。2ビート的なゆったりしたグルーヴのコンガ+αではじまり、ベースとサックスが入る。ピアノもブンチャチャブンチャ的なコードしか弾かない。ハフのソプラノは、かっこいいとか上手いとか凄いとかいうのとは無縁で、どっちかいうともっさりした感じで、それもいかにもこのころのひとという雰囲気でナイス。そういえばカヒールの競演するテナーって、このひととかアリ・ブラウンとかエドワード・ウィルカーソンとかカラパルーシャとかアーネスト・ドーキンスとか……考えてみたらみんなもっさりしたタイプなのだ。そのあと雰囲気が変わって、ややラフなアンサンブルになったり、ベースソロになったり、よくわからんパートが続いてから、最初のリズムに近い感じでのピアノソロになる。そしてそのままテーマに戻らずに終わっていく。どうやらかなり即興的に音楽を作っていく部分があって、それがこういう雰囲気を生むのだろう。6曲目は、曲というか30秒ほどしかないボーカルとベースのデュオ。7曲目は最後の曲で、カラフルなアフロなリズムに乗せて女性ボーカルとソプラノサックスがユニゾンでテーマを歌い上げる。ここでのハフのソロは非常にすばらしく、大きな広がりのある演奏になっていて聴きごたえ十分。そのあとのピアノソロはかなり過激です。最後はパーカッション勢のソロになり、ときどきヴォイスが演奏をアジテイトしたりして、熱狂のうちに終わる。ええなあ。最近、このアルバムを気に入って、ことあるごとに聴いているのだが、全体のサウンドやボーカルは大好きだけど、サックスがファラオやシェップやガトーだったらたぶん呑気に聴いていられず、一緒になってスピーカーの前で吠えていると思う。でも、本作はサックスがもっとまじめ(といったら語弊があるが)なタイプなので、平常心で聴けます。