「LIVE AT JAZZ INN LOVELY」(JAZZ INN LOVELY KBYK−12603)
QUIETSTORM
正直なところ、秋山一将というギタリストに感心を持ったことは一度もない。今回、本盤を購入したのは、テナーがフロントで、ピアノレスで、ギター二本が入ったライヴ盤で、しかもそのうちのひとりが石渡明廣だという諸要素に興味を覚えたからだ。聴いてみて驚いた。技術的にはもちろん言うことなしで全員すばらしい演奏だが、とくに石渡明廣のギターが良い意味でバンドに刺激を与えており、彼のソロが登場すると聴いていてもニヤッとする。ベースとドラムはどっしりした安定感があるが、ソロイストの好き放題を阻害することなく、理想的なバックアップをしている。そして峰厚介。峰のテナーは、フレーズを聴いていると、本当に自由なのである。そのとき感じたこと、思いついたアイデアを素直に吹き連ねていく。音色とリズムがいいので、奔放な感じにならず、説得力があるが、よく聴くととんでもない自由な、好き放題のソロなのだ。そういう自由なフレーズと、いわゆるモーダルな常套句が交互(?)に現れるのが、今の峰のひとつのスタイルとなっているようだ。気持ちいいっすね。とくに四曲目は峰のショーケースといっていい。で、私はテナー好きなのでつい峰のフレーズに耳がいくわけだが、こういう説得力のある自由さが、じつはこのバンドの全員についても言えるわけで、石渡は言うにおよばず、リーダー秋山のソロも、めちゃいいバランスで、好き勝手ときっちりが同居しており、五人が五人とも、今いちばんやりたいことをやりたいようにやることで成り立っているバンドなのだなあ、と感じた。こういうジャズは、形式的、構造的ではあるが、実際にはフリージャズと精神的にはほとんど変わらないのである。おそらくこういう自由さを与えているのはリーダーである秋山であるわけで(5曲目のフィーチュアリングの曲もすばらしい)、これはとんでもないバンドだと認識しました。
「DR.RAIN」(AKETA’SDISK MHACD−2622)
KAZUMASA AKIYAMA
メンバーを見ても、こないだ出たラブリーのライヴみたいなもんだろうと思っていたので、二曲目でソウルフルなボーカル(秋山一将本人らしい)が飛び出してきたときはびっくりしたが、秋山さんの音楽性を全部ぶち込んだような、一種の自分史的なアルバムのようだ。ボーカルは何曲かフィーチュアされていて、いずれも本格的なソウル〜ブルース系のボーカルだが、ほかのストレートアヘッドなジャズナンバーとの違和感はどうしてもつきまとう。たぶん、そういうあたりを楽しむべきアルバムであって、トータルな音楽性をちゃんと受け止めなければならないのだろう。つまり、ギターを弾いている曲ではギタリスト秋山を、ボーカル曲ではシンガー秋山を楽しむということである。曲もいい曲が多くて、フィーチュアされているテナーふたり(峰厚介と竹内直)もがんばっており、おおっ、すごい、と手に汗握ったあと、急にボーカルが出てくるとちょっと肩すかしになる感もなきにしもあらずだが、これが秋山一将が今やりたいことなのだとすると、もう全然問題ない。こういうごった煮的なもののほうが意外と長く、何度も聞き返すことになりそうなアルバムになる予感がする。