rashied ali

「RING OF SATURN」(KNITTING FACTORY RECORDS KFR−232)
RASHIED ALI−LOIUE BELOGENIS

 ラシッド・アリは、ニッティングファクトリーレコードから何枚ものリーダーアルバムを出しているが、これは彼の最近の相棒的存在ともいえる、若手白人テナーのルイ・ベロゲニスとのデュオである。ベロゲニスは、DIWから出した2枚のアルバムでおなじみになったが、これはそれよりもまえの演奏。ベロゲニスは、音色に個性があるタイプではないが、硬質な音による演奏はハードで、アイラー的なところもある逸材だとは思う。だが、このアルバムは、正直いって、75分近くを聴き通すのはしんどい。8曲入っているのだが、どれも似たり寄ったりの演奏で、1曲1曲をとればいいんだけど、ずーーーーっと聴いていると一本調子で、飽きる。それは、ひとえにラシッド・アリの、パワーのない、緊張感に欠けるドラムのせいだと思う。こういうのを聴くと、ああ、ラシッド・アリも歳なのかな、と思ってしまう。テナーは、がんばっているのだ。でも、こういうパタパタいうドラムが、実は共演者にとってはたいへんなイマジネーションの源泉になっている、ということもありうるので、うかつに「いまいち」とは言えないのである。繰り返すが、ベロゲニスはとても好きなテナーで、ここでも見せ場が多いです。

「THE DYNAMIC DUO REMEMBER TRANE AND BIRD」(AYLER RECORDS AYLCD−050/051)
RASHID ALI & ARTHUR RHAMES

 幻の、という言葉は失礼だが、それに近い存在であるアーサー・レイムス。活動がなかなか伝わってこないのである。私も、サウンドスケープのベースレストリオぐらいしか聴いたことがなかったが、ついに、アーサー・レイムスの全てが出たような、超弩級のアルバムが出た。ラシッド・アリとのデュオによる二枚組。曲は、ほとんど超アップテンポ。ラシッド・アリのシンバルにのって、アーサー・レイムスがただひたすら延々と吹きまくる。もう、すごいとしかいいようがない、とんでもない作品である。絶対にフリーにはならず、ストイックなまでに過激なコルトレーンフレーズを吹き続ける。並のテナーマンにはとうていできない芸当である。ものすごい体力と気力と集中力と技術を必要とするはずだからだ。これと比べられるものって、うーん、たとえばグロスマンの「ボーン・アット・セイム・タイム」ぐらいかなあ。とにかくめちゃめちゃすごいし、かっこいい。たとえ、ジャイアント・ステップスやインプレッションズ、モーメント・ノーティスなどが一曲のうちに混在しており、しかも、ソロはコード進行とか関係なくどれも同じだろうが、どの曲もテンポが一緒だろうが(二曲ほどバラードが入っているが)、ラシッド・アリのドラムソロがあまりにしょぼかろうが、演奏の途中でテープがぶった切れていようが、ラシッド・アリの変なボーカルが気持ち悪かろうが、私はこのアルバムを推薦します。しかし、ラシッド・アリって、近年はすごく衰えているように思っていたが、このアルバムでは、アーサー・レイムスのすさまじい演奏にひきずられて、久々にベストを出していると思う(でも、ドラムソロだとよれよれが露呈するのだが)。そういう意味でも、「テナーはいいけど、ドラムがなあ」的なところがなく、おもしろくきける。ほとんどはコルトレーン〜エルヴィン的な演奏だが、一曲だけチャーリー・パーカーに捧げる曲が入っており、それは、超超アップテンポのアイ・ガット・リズム〜チェロキーのメドレーになっているのだが、どーせそれでもソロはモードっぽいフレーズしか吹かないだろうと思いきや、さにあらず。そうか、パップフレーズもちゃんと吹けるのだ。信じられないほどのアップテンポにのってのパップ演奏は、まさにグリフィンみたい。これだけすごいやつがどうしてマイナーな存在なのだろう。ただし、二枚組の一枚目一曲目に、16分にもおよぶラシッド・アリのインタビューを収録している点は超マイナス要素。そんなもん一番最後にしろよ、ほんまにー。ですから、英語のわからないひと(私のことです)は、一曲目はとばして聴くことをおすすめします。あと、アーサー・レイムスのピアノも、マッコイ・タイナー的で実にかっこええのだ。全体的にラシッド・アリが仕切っているようなので、彼の項に入れておきます。
 と書いたら、うっかり最近もレビューを書いてしまったので(ときどきある)、それもついでに載せておきます。
ある意味至高の音楽であり、ぼやーっと聴いていると、頭が天国になる。冒頭、ラシッド・アリによるトーク(?)が延々続いて、それが演奏とかぶるので聞きづらいが、これも含めての「デュオ」なのだろう。コルトレーンとパーカーに捧げるということだが、演奏としてはバップ的なものはあまり感じられず、とにかくトレーントリビュートな感じ。アーサー・レイムスはひたすらゴリゴリ吹きまくるが、フリージャズ的な要素はほぼ皆無で、コルトレーン的なモーダルなフレーズをでかい音でバーッと吹く。それがラシッド・アリのドラムと合っているのです。ラシッド・アリのドラムソロはパタパタした感じであまり重みはないが、このふたりだけで(ベースもピアノもいない)コルトレーンの音楽を再現しているのは、ある意味コルトレーンの音楽の秘密を暴露しているのではないかとも思う。ベースやピアノによるコードチェンジの指定がなくても、サックス奏者がちゃんと吹けばそこにコード進行が生まれ、聴いているひとも納得する。とりあえずえげつないぐらいの音の奔流で、テナーは吹き辞めないし、ドラムもそう。これがコルトレーンの音楽の本質ですよと言われたら、そうかもなあと思うかも。このデュオは、コルトレーンの音楽のある部分をめちゃくちゃ拡大したものだ、というのが正しいのかも。ひたすらかっこいいのは間違いない。こういう演奏で重要なのは、テナーの「音色(ソノリティ)」とアーティキュレイションで、このふたつの要素がちゃんとしていたらいつまでも聴いていられるだろうし、逆にこのふたつのどちらかが耳ざわりだったら途中でいやになるだろう。レイムスの音は、エッジが立っているのにふくよかで、芯がある。アーティキュレイションも心地よい。長尺でかなりぶっきらぼうな吹き方のようではあるが、けっしてオーバーブロウではなく、たぶんへとへとになっているだろうが隅々まで気配りがされた、傑出した演奏……と思う(マウピはラバー。クラウド・レイキーか?)。レイムスというひとは30過ぎで夭折したこともあり、その死因もあって、いろいろ伝説的な扱われ方をするようだが、私はたしかジャズライフ誌に急にやってきて云々という記事を読んだ記憶があり、すごく身近な、生身のひとのように思っていた。ギターやピアノでも才能をすごい才能を発揮していたというから、あのまま活動を続けていれば多くの作品を残しただろう。本当に惜しい。でも、こうやって本作やほかに数枚の記録が残っているだけ幸運なのかも……。とくに本作はレイムスの凄さを体感できる貴重な作品で、レイムスの凄さを知るにはこれを聴くのが一番でしょう。1枚目の演奏が終了したあと、(たぶん)ラシッド・アリが「アーサー・レイムスすごいやろ! わしらはダイナミック・デュオや!」と連呼して、ふたたび演奏がはじまるが、そのときの観客の大拍手と、ふたりの集中力が凄すぎて、今聞いても泣きそうになる。しかしなあ……たしかにラシッド・アリはレイムスにとってすばらしいデュオ相手だったとは思うが、このひとがほかのひとと共演した演奏も聞いてみたかった。それぐらい底知れぬ才能を感じる。2枚目はレイムスはピアノではじまるが、ピアノ(たしかにピアノもめちゃ雰囲気ある!)だとマッコイっぽいのもなんというか潔い感じでいいですね。「至上の愛」まで始まってしまうというなんでもアリな感じだが、デュオだからできる自由さというのもある。「リメンバー・トレーン・アンド・バード」となっているがパーカー関係は11曲目のパーカー・メドレー(「アイ・ガット・リズム」はわかるのだが、メドレーですか?)だけで、あとは徹底的にコルトレーンに捧げた演奏だと思う。それも、ジャイアント・ステップスまでの、コード分解をとことん追求していたトレーンの方法論をベースに、モードジャズ時代のコルトレーンの激しい音色、ブロウぶりで表現した、という感じでしょうか。ラストはテナーを吹かず、ピアノオンリーのパーカー、コルトレーン、エリントンらに捧げられたヘヴィな演奏。レイムスの重い重いピアノがキラキラと炸裂する。たしかにすさまじいピアノで、テナーに匹敵するようなえげつない、輝かしいプレイ。あー、夭折が惜しまれる。突然ぶった切れたりするけど貴重極まりない記録で、レイムスの若い天才ぶりがここにあることを素直に喜びたい。こういうアコースティックでノイジーで血反吐を吐くようなジャズはなかなか聞けません。傑作。

「NO ONE IN PARTICULAR」(SURVIVAL RECORDS SR100)
RASHIED ALI QUINTET

 私の最愛のコルトレーンのアルバムは「インターステラー・スペース」だし、「ヴィレッジ・ヴァンガード・アゲイン」や「イン・ジャパン」「オラトゥンジ・コンサート」などはめちゃくちゃ好きであるが、ドラマーはどれもラシッド・アリである。そして、コルトレーンの息子であるところのラヴィ・コルトレーンは、私は何遍かライヴを観たし、山下洋輔トリオに加わったやつとかも相当好きなのだが、数年前にチック・コリアのライヴに参加しての演奏がなんか大好評だったので、聞いてみると、かなり荒いというか雑なブロウでちょっと「え?」と思ったこともあって、けっこう身構えて本作を聴いたのだが………………えーーーーっ! めちゃくちゃええやん。いや、これはマジでいいっすよ。このアルバムでのラヴィは与えられた役割を完璧にこなすだけでなく、それに多くのものを付け加え、自己主張し、表現している。テナーの音も柔らかいが芯のある独特の個性的な音で私の好きなタイプの音であり、高音から低音までじつにええ感じで伸びやかに鳴っている。しかもフレージングがかなりむずかしいことを楽々と吹いているのだが、音色のせいか、吹き方のせいか、まったくおしつけがましくなく、飛翔するような軽やかさかあってすばらしい。コテコテさ、あくどさなどはないが、決して没個性でも熱くないこともなく、さらりとしているようでツボを押さえたプレイだと思う。そして、ギターのジーン・シモサトというひとは沖縄出身でニューヨークで活躍していたらしいが(今は日本に住んでいるみたい)、このひともめちゃくちゃすごい。ギターソロに、歌心とともに、聴いていて思わず耳をそばだててしまうようなブロウというか説得力があり、リズムもすばらしい。ノリもドスが効いていて、超かっこいい。ピアノのグレッグ・マーフィーも、シカゴのひとらしいが、ラシッド・アリとは21年間も一緒に演奏したらしく、ラシッド・アリ・トリビュート・バンドのメンバーでもある。上手いだけでなく熱いピアノを弾くひとで、たしかにこのバンドにぴったりである。そして、ベース(エレベ)のマット・ギャリソンは言わずとしれたジミー・ギャリソンの息子(面白いノリです)……ということで、このバンドにはコルトレーンクインテットのメンバーの息子がふたりも入っているのだ。こういう「恩返し(?)」的な引き上げはエルヴィンもやっていたわけだが、本作はそれがとても音楽的にも良い形で結実しているのがすばらしい。選曲も、メンバーのオリジナルを3曲(どれもかっこいい!)、そしてショーターの「ウィッチ・ハント」、ジャコパス(!)の「スリー・ビュウズ・オブ・ア・シークレット」、ソネリアス・スミス(ほら、カークの「ブラックナス」とかに入ってるひとですよ!)のモーダルなブルース……なども取り上げていて、いい感じである(「スリー・ビュウズ……」はソプラノのワンホーンでこの曲の良さも見事に再現している)。というわけで、私は全曲気に入りました。傑作。えー、ラシッド・アリ? ラヴィ・コルトレーン? などと食わず嫌いで聴いていないひとがいたらもったいないです。ぜひぜひ(まあ、私も正直、聴くまえはこんなにいい作品とは思っていなかったのですが……)。なお、フリージャズではまったくないので、そういうものを求めてはあきまへん。