「LIVE IN KRAKOW」(NOTTWO RECORDS MW960−2)
BARRY ALTSCHUL & THE 3DOM FACTOR
バリー・アルトシュルといえば、サークルとかARCとか、あとブラクストンとかポール・ブレイとかサム・リバースとかとの共演も名高いし、どちらかというと繊細なアヴァンギャルドドラマーだと思っていたが、今回、ディスコグラフィをあらためて見直すと、演奏歴が長いだけあって、そんな単純なものではなく、本当に凄いひとたちと共演を重ねてきたレジェンドのひとりであり、一筋縄ではいかない人だなあ、と思った。え? あのアルバムにも入ってたっけ? と思う作品がめちゃくちゃたくさんあった。ジュリアス・ヘンフィルの「クーン・ビッドネス」や、リーブマンの「ドラム・オード」、ジョン・リンドバーグの「ギヴ・アンド・テイク」、ゲブハルト・ウルマンの「デザート・ソングス」などもバリー・アルトシュルだったそうで、いやー、すんまへんと謝るしかない。バディ・ガイやジュニア・ウェルズとのレコーディングもあるらしい。で、このトリオのライヴだが、ジョー・フォンダとジョン・イラバゴンという重量級のメンバーと組んだ本作を聞くと、そういった繊細なイメージをこの年齢にしてくつがえしまくるようなパワフルなドラミングが聴かれてうれしい。ピアノレストリオという編成を選ぶ時点である種の覚悟があると思うのだが、まず冒頭、いきなりかなり長いドラムソロではじまる。これもかなりの覚悟があってのことだと思う。まるで絶頂期のマックス・ローチのように、正攻法だがその凄まじい迫力のためになにかを飛び越してしまい前衛的に聞こえる……という感じなのだ。もともとサークルやらなにやらアヴァンギャルドなドラマーとしてキャリアを重ねてきた、と思っていたが、ここでの演奏はひたすら真っ向勝負である。1曲(「アスク・ミー・ナウ」)を除いてすべてバリー・アルトシュルのオリジナル。リーダーとしての意気込みをひしひし感じるが、その演奏すべてが気合い入りまくりの素晴らしいものだ。そして、その気合いに見事に応えているのがフロントのイラバゴンで、このひとは以前聴いたソロアルバムでは、キーキーキーキー……とめちゃくちゃなノイズをひたすら吹く、という圧倒的な頭のおかしいパフォーマンスで私のハートを捕えたのだが、普通のリーダー作では、ものすごくちゃんとした「ジャズ」で、これまたびっくりするようなお行儀のいいプレイのものも多くて、とくにサイドメンとしての参加作だと、つるつるーっという風に上手く達者に吹くようなプレイのものもあって、なかなかその実態がつかめない。まあ、ふり幅が大きいひとなのだろう。でも、本作でのプレイは凄まじい。複雑なテーマをバシッと吹きぬき、そのしっかりした音色、アーティキュレイション、ビターな歌心……どこをとっても最高なのだが、声を混ぜた表現やノイジーな技の数々が登場してくると、どれだけ引き出しがあるのかと感心してしまう。イラバゴンが多彩な表現をぶつけてくればくるほど、アルトシュルが生き生きとしてそれをあおり立てるようなドラミングをする。そして、ジョー・フォンダのベースはすべてを飲み込み、ドライヴする(ソロもものすごく普通)。いやー、こんな気持ちいいテナートリオのアルバムはなかなかないっすよ!イラバゴンがひたむきにテナーを吹きまくる場面は、エルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーンを思わせるような汗と熱気を感じるほどだ。4曲目のソプラニーノもいい(ソプラノではない)。イラバゴンの演奏自体は5曲目がいちばんフリーキーになるけど、全体には思っていた以上にストレートアヘッドな演奏だったが、十分満足しました。めちゃくちゃ聴いたけど飽きないなあ。煮えたぎるような熱さを誇る現代アコースティックジャズの傑作です。ああ、このメンバーで生で見てみたいなー。