gene ammons

「LEFT BANK ENCORES」(PRESTIGE PRCD−11022−2)
GENE AMMONS & SONNY STITT

スティットファンにはおなじみのレフトバンクジャズソサエティでの、スティット〜アモンズのいわゆる「ボステナーズ」チームのライヴ。73年という、アモンズにとっては晩年に当たる時期で、どうかな〜と思いながらきいてみたが、うーんなるほど、この時期にしてはけっこう快調ではあるが、やはり全盛期にはほど遠い。アモンズの「音」はしっかりあの「音」なのだが、フレーズが出て来ない、というか、指がまわらないというか、その分を気合いでカバーしているような、ある意味痛々しい演奏なのだが、多くのアモンズファンはこのころの演奏をもすばらしいといって持ち上げる。でも、私には、かなりつらい。とにかく「ホス・イズ・バック!」以降の、復帰後のアモンズはたいがいどれもつらい。あれだけ吹けていたひとが、あれだけ多彩なフレーズに感情をこめまくってブロウしていたひとが……という思いが強い。とにかく私はアモンズはめちゃめちゃ好きだ。好きだからこそ、痛々しいアモンズは、なるべく聴きたくない。こう書くと、晩年のアモンズの良さがわからんか、とか、晩年のアモンズを愛してこそ真のアモンズファン、というような声が聞こえてきそうだが、いやいや、さすがに私も70年以降のアモンズの良さをわかってるつもりだし、心情的にはどの時代もずーーーーーっと好きです。でも、あのデクスター・ゴードンとのバトルを収録した「ザ・チェイス!」のゴードンのあまりの快調さにくらべて我等がアモンズはよれよれでバトルにならん……というあの悲しさは味わいたくないのである。アモンズの名盤として「グッドバイ」とか「ボス・イズ・バック!」を推薦している評論家がときどきいるが、たしかに気持ちはわかる。でも、そういうことは『ライヴ・イン・シカゴ』や『ボス・テナー』(コンファメーションやってるやつ)や『ボス・テナーズ』や『ウーフィン・アンド・トウィーティン』を1000回ずつ聴いてからね、と付け加えておかねばまずいのではないか。だって、たとえば、チャーリー・パーカーのアルバムでどれを押すか、といわれて、いちばんに「プレイズ・コール・ポーター」というひとはやっぱりおかしいやん? さて、本作は「ザ・チェイス!」に比べるとアモンズ自身の調子はまあまあいいが、それでも絶好調のスティットを向こうにまわすと、悲しいかな、敵ではない。ヴァーブの「ボステナーズ」のころは、技術のスティットに対して気合いのアモンズという対照の妙で、頭ひとつアモンズの勝ち、みたいなところがあったが、このアルバムなんかだと、その対照の妙が行き過ぎてて、勝負にならん感じ。でも、アモンズにも見せ場はたくさんあって、そういうところを拾っていくと、なかなかおいしい。残念だが、このころのアモンズって、自分のかつてのフレーズを自己コピーして、しかも指がまわりません、みたいな場面も多く、そういうのを聴くとやっぱり悲しい。リズムセクションは、シダー・ウォルトン、サム・ジョーンズ、ビリー・ヒギンズという最高のメンツで、ゲストのエタ・ジョーンズの歌もすばらしく、聞きどころの多いライヴである。いや、アモンズもがんばってるし、これだけの味わいは凡百のテナーにはぜったいに出せないのはわかってる。それだけに、アモンズをあまり聴いたことのないひとには、カムバック以前のアルバムをいろいろ聴いてから、この晩年の姿をじっくり噛みしめるように味わってほしいと思う。それがいいたいのです。ご静聴感謝。なお、スティット、アモンズ対等のリーダー作だが、先に名前が出ているアモンズの項に便宜上いれた。ほかのアモンズ・スティットのアルバムも同様とする。

「BOSS TENORS」(VERVE MV2577)
GENE AMMONS/SONNY STITT

 アルバムジャケットには「STRAIGHT AHEAD FROM CHICAGO AUGUST 1961」の文字がある。シカゴ録音なのだ。紫色の、スティットとアモンズがテナーのマウスピースかリードについて談義している写真も非常に印象的だ。このアルバムは、ほんとに死ぬほど聴いた。A面1曲目の「ノー・グレーター・ラヴ」はテーマの吹きかたからブレイクからソロから丸コピーしたし、3曲目の「枯葉」はコピー譜を持っていたので、それで練習した。B面の「ブルース・アップ・アンド・ダウン」も完コピーした。もっともコピーしたといっても、スティットが16分とかを吹きだすと、コピーはしても実際には吹けないのだが。だから、このアルバムの曲がたとえばお好み焼き屋とか居酒屋の有線でかかったりすると、曲の最初から最後まで、ソロもずっと口ずさんで、同行者に嫌がられるのだ(実際にそういうことが何度かあった。このアルバムって有線でかかる率が高くないですか?)。しかし、ほんとに名盤だと思う。たとえば「枯葉」で、アモンズがブリルハートの濁った音色で単純なブレイクをしただけで、一瞬で世界がアモンズ色に染まってしまうあたりとか(テーマの吹きかたも二者二様である)、そのあとスティットがシャープで硬質な音で吹きまくって、アモンズ色になった空気を払拭しようとがんばるあたりとか、あるいは「ブルース・アップ・アンド・ダウン」で、それぞれに自分の得意技を繰り出してブロウしまくったあと、ピタッとアレンジに戻るあたりとか、聞きどころ満載である。「ウーフィン・アンド・トウィーティン」に入ってる、オリジナルバージョンももちろんすばらしいが、私としてはやはり、こちらのLPでの長尺バージョンのほうが好きかも。サイドマンは、年期の入ったジャズファンならたぶん知っているのだろうが、私は知らんひとである。たぶんシカゴのミュージシャンだろう。テナーバトルというのは、ふたりがそれぞれに違った個性を持っていないとおもしろくないし、なおかつ、あまりにスタイルが違い過ぎていてもダメなのだ。その点、このふたりのコンビネーションは絶妙だった。いやー、何べん聴いてもいいですね。なお、アモンズ〜スティットの録音に関しては、便宜上、全部アモンズの項にいれた。

「BOSS TENORS IN ORBIT」(VERVE MV2577)
GENE AMMONS/SONNY STITT

 あの大傑作「BOSS TENORS」から一年、あっちはシカゴ録音だったが、たこれはニューヨーク録音でしかもオルガン(ドン・パターソン)入りなので、いかなる死闘激闘が繰り広げられているかと期待して聴いたが(といっても20数年まえのことだが)、うーん、なぜだかわからないが前作にくらべるとかなりテンションが低い。「ウォーキン」とか「ジョン・ブラウンズ・ボディ」とかバトルにふさわしい曲がフィーチュアされているにもかかわらず、なぜか前作のような凄味がない。たしかにレベルは高くて、それなりに楽しめるが、ポテンシャルがぐーっとさがった感じ。スタンダード中のスタンダードで、なんでいまさらここでこんな曲を……と思ったラストの「バイバイブラックバード」がいちばんエキサイティングかも。

「DIG HIM!」(ARGO LPS697)
GENE AMMONS/SONNY STITT

 61年の録音で、しかもシカゴ録音だというから、あの「BOSS TENORS」と同じ年、同じ場所の作品なのだが、なぜか軽い。かなり聞きどころも満載で、悪くはないのだが、軽い。じつは、アモンズ〜スティットの醸しだすこの軽さも好きなのだが、やはり彼らには重量級のアルバムを作ってほしいという気持ちが強い。だって、アモンズはひとりだとあれだけ凄まじく重いものを作るんだから、バトルならもっと……と思うでしょう? 一曲目の「夕陽に赤い帆」とかめっちゃ渋くて昔から好きなんだけどなあ……「ニュー・ブルース・アップ・アンド・ダウン」は、リフのアレンジが変で、演奏はいいんだけど、「こんなの『ブルース・アップ・アンド・ダウン』じゃないやい!」と思ってしまう自分が情けない。

「UP TIGHT!」(PRESTIGE LP7208)
GENE AMMONS

 プレスティッジのアモンズ作品としては比較的マイナーなほうかもしれないが、これがめっちゃよい。軽い曲、重い曲、いろいろ入っているが、どれもよい。とにかくアモンズの引き締まった音色と、固くぽきぽきしたノリのフレージングが聴こえてくるだけで、全身興奮状態になる。晩年のカムバック後のアモンズは、ブリルハートのラバーの濁った音色はさほどかわらないが、引き締まった、というより、少しだらっとした感じになるし、指が回らなくなって、このノリが微妙に変わってしまう。やっぱりこのころが絶頂期だよなあ。ほんと、どの曲もよくて、聞きほれる。ラストの「レスター・リープス・イン」など、たぶんいい加減に選曲して、いい加減にヘッドアレンジして演奏してるだけなのだろうが、それがまた凄くて、当時のアモンズの持つマグマのようなポテンシャルをひしと感じる。「ボス・テナーズ」でも使ってるフレーズとかでてきて、ほほえましいです。

「GENE AMMONS ALL STAR SESSIONS」(PRESTIGE LP7050)
GENE AMMONS

「ウーフィン・アンド・トウィーティン」というアルバムタイトルでも知られている。A面はおなじみアモンズのオールスタージャムセッションだが、B面がアモンズ〜スティットの「ボス・テナーズ」チームのオリジナル録音がSPから収録されている点が、ほかのオールスタージャムとちがうところ。A面のセッションもレベルは高いし、けっして悪くないが、やっぱりジャムセッションはジャムセッションだし、アルトのルー・ドナルドソンはさすがにめっちゃうまいのだが、音色がなあ……私の好みとしてはぴーぴーした細い感じであまり好きくない。やはり本盤の白眉はB面のバトルですな。一曲目の「ブルース・アップ・アンド・ダウン」から興奮のるつぼ。ヴァーブの「ボス・テナーズ」より10年以上まえの録音だが、そのポテンシャルもフレーズもチェイスの妙もたがいの個性も、このときにすでに確立されているのがわかる。演奏時間は短いが、テナーバトルのお手本のような演奏がぎゅっと詰まっていて、感動である。別テイクは途中でぶつぶつ切れて終わるけど、まあ、そういうB級感覚も含めて楽しめる。3テイク目など、すごくかっこいい演奏なのに、ラストテーマの途中でなぜか終わってしまう。なんでやねん! しかし、ドラムがジョー・ジョーンズとはなあ……。つづく演奏はどれもよいが、「ニュー・ブルース・アップ・アンド・ダウン」のほうは、ラッパとボントロが加わっていて、タイト感に若干欠けるが、それでもいい演奏である。

「BOSS TENOR」(PRESTIGE LP7534)
GENE AMMONS

 うちにあるレコードは再発盤で、アモンズの村上ショージに似た下手くそな絵がジャケットのやつなのだが(なんで写真のままにしておかなかったのか、理解できんわ)、とにかく中身は凄いのひとこと。もう、めっちゃ好きなアルバム。チャーリー・パーカーの曲というのは、もちろんアルトで吹くために作られているわけだが、それをテナーでやると、曲のかっこよさが際立つことがある。たとえば、グリフィンが吹いた「ビリーズ・バウンス」とか、ブレッカーが吹いた「ムース・ザ・ムーチェ」とかのことなのだが、本作の「コンファメーション」も、最初に聴いた瞬間に、そのテーマの吹きかたにビビビッと身体に電撃が走った。めーーーーーちゃかっこええ。アモンズには、私が偏愛するアルバム「ライヴ・イン・シカゴ」での「スクラップル・フロム・ジ・アップル」という傑作もあって、あれも、ぽきぽきしたノリの、硬質なテーマの吹きかたが好きなのだが、本作の「コンファ」……ええなあ。こんなにもドスのきいた「コンファメーション」を聴いたことがありますか! とにかく全曲好きなアルバムで、一曲目の、どスローブルース「ヒッティン・ザ・ジャグ」も、だるーい雰囲気で演奏されて、最高! アモンズをどれか一枚……といわれたら、「ライヴ・イン・シカゴ」か本作を推薦すると思うなあ。「マイ・ロマンス」のムーディーな歌いあげも凄いが、なんといっても「カナディアン・サンセット」からどブルースの「ブルー・ジャグ」を経て、上記の「コンファ」を経過し、最後に「サヴォイでストンプ」で終わるB面を、私は愛聴しまくってます。ほんま、ええから聴いてみて! まさしくタイトルどおり、シカゴの大ボスが本領を発揮したアルバムである。本作に関してよくいわれるのは、サイドのトミー・フラナガンの好演であるが、いやいや、正直いって、アモンズだけを聴いてりゃいいんです。コンガが入ると、ノリがツッカポッコ、ツッカポッコとものすごくノーテンキにダサくなる場合があるが、本作に関しては邪魔にはなってないと思う。音色といい、人生といい、ぽきぽきしたノリといい、豪快さといい、いつ聴いても六代目松鶴を思いださずにはおれぬアモンズの大傑作。

「THE GENE AMMONS STORY:THE 78 ERA」(PRESTIGE HB6082)
GENE AMMONS

 プレスティッジにおけるアモンズ初期の78回転盤用セッションを収録した二枚組。ジューク・ボックス用と思われ、収録時間の短さだけでなく、内容にもそれが反映されていて、キャッチーなテーマ、コンパクトにおさめられたソロ、きちんとしたアレンジ、ボーカルフィーチュア、バラードのいやらしさ……などは明らかにマーケットを意識したつくりである。でも……それがいいのです! ほとんどが50、51年の録音だが、51年の「ウォーキン」はこの作品のオリジナル録音だそうで、マイルスの54年バージョンが、アレンジもまったくそのままであることがわかる。原題は「グレイヴィ」だそうだ。どの曲も、少なくともアモンズに関しては文句のつけようがない。たとえば1枚目のB面2曲目「ワウ!」での倍テンになったときの圧倒的な畳みかけるようなソロからテーマへ戻るところなど、当時のジュークボックスで聴いていたらどれだけ興奮しただろうか。また、それにつづく「ブルー・アンド・センチメンタル」では、ハーシャル・エヴァンス以来のテキサステナーの伝統がアモンズにも受け継がれているのではないかと思わせる、豪快かつ叙情的なソロが聴ける。「ボス・テナーズ」などというが、この一連の録音ではスティットがずっとバリサクを吹いていて、やはり当時はアモンズ>スティットという関係だったのだろうなーと思わせる。なんせシカゴのボスですから。メンバーをみても、スティットをはじめ、マシュー・ギー、ベニー・グリーン、セシル・ペイン、デューク・ジョーダン、ジュニア・マンス……といった連中がきら星のごとく名前を連ねているが、とにかくこういう78回転ものは、リーダーにつきる。リーダーががんばるかどうかなのだ。その点、アモンズは、凄すぎるといってもいいぐらいのレベルの高さを見せつける。スタンダードでもブルースでもポップチューンでもバラードでも、完璧にこなしたうえで自分のオリジナリティをカバのマーキングのようにこれでもかと見せつける、という、ジャズとしてはこれ以上ないような理想的な演奏を30曲にわたって繰り広げてくれるのだ。アモンズファンにとってはお宝としかいいようがない珠玉の演奏である。

「THE CHASE!」(PRESTIGE PR10010)
GENE AMMONS & DEXTER GORDON

 かつてのビリー・エクスタイン・バンドでのテナーバトル(といっても、ワーデル・グレイとの「ザ・チェイス」も選曲されている)を再現した企画なのだが、アモンズにとっては晩年であるが、ゴードンにとってはまだまだこのあと現役バリバリ生活が続いたわけで、年齢的にはともかく(ゴードンのほうが2つうえのはず)この時点での実力的には両者のあいだにおもいきり隔たりがある。アモンズが完全にジジイで、それをいたわるゴードンみたいな、逆転した関係に聴こえる。アモンズもけっして悪くないし、がんばってはいると思うのだが、いかんせん指のもつれをはじめプレイはもう気息奄々で、ゴードンがこのライヴ時にあまりに絶好調であることも手伝って、めちゃめちゃ格差があるように聴こえて、ワンホーンならここまで感じなかったと思うのだが、ほんとアモンズには不利である。すぐにブロウ系のフレーズに走ってそれなりに盛り上げるのだが(これも、調子の悪いアモンズではあるがブロウ魂は健在だ、という風に良いほうに解釈することもできるわけだが)、いやいや、アモンズの凄さはこんなもんではなかったはずだ。ひとによっては、この時期のアモンズのほうがいい、というひともいるようだが、それは絶頂期のアモンズのアルバムを全部聴いたうえでの、情の部分における感想であって(私ももちろん心情的には晩年のアモンズを愛しています。なにしろこのひとは六代目松鶴なわけだし、松鶴の晩年と同じく、気合い一発の境地に達しているのです)、真にアモンズのあの音、フレーズ、ノリを愛しているファンなら、そういうことは言いにくいのではないかと思う(私も、松鶴の絶頂期のあのすばらしさがあってこその晩年だと思っているので)。そういうわけで、本作品はゴードンのあまりにもすばらしい絶好調ぶりを聴くべきアルバムで、対等のテナーバトルとしては成立していない。どちらの項目にいれるべきか迷ったが、ここはやはり先に名前の出ているアモンズのほうにいれておきましょう。シカゴのホテルでのライヴだそうだが、メンバーが興味深く、ベースにクリーブランド・イートン、ルーファス・リード、そしてドラムになんとスティーヴ・マッコールの名前が見える。シカゴの闇は深い。でも、この時期に、絶頂期のゴードンとの2テナー作品を残せたことはアモンズにとって幸せだったと思う。

「LIVE! IN CHICAGO」(PRESTIGE PR7495)
GENE AMMONS

 これは、アモンズの数あるアルバムのなかでもっとも私が偏愛している一枚。それまでにもスティットとの「ボス・テナーズ」とかいろいろ聴いていたのだが、このアルバムを聴いて、もう完全にアモンズを神と思うようになった。ギターもいない、ベースもいない、ベースラインとバッキングをオルガンだけにたよったトリオだが、その求心性、その開放感、そのドライブ感、そのド迫力……は筆舌に尽くしがたい。ライヴというのが信じられないほど、「荒っぽく聞こえるのにじつは全然荒っぽくない」という理想的なライヴ。アモンズのフレージングがいかにこまやかにコントロールされているか、歌心にあふれているか、ブルースまみれか……ということに気づくと、「このおっさん、すげえっ!」となるのだ。一曲目の「スクラップル・フロム・ジ・アップル」からガツンとやられる。もともとアルトで演奏されることを念頭に置いたパーカーナンバーをテナーで演奏するということが、名手の手にかかるとどれだけかっこいいかを実証したようなテーマの吹き方だ。アモンズといえば「ボス・テナー」の「コンファメイション」も死ぬほどかっこいい。こういう「テナーがワンホーンでパーカーナンバーを吹く」というかっこよさにはじめて目ざめたのがアモンズの上記「スクラップル……」であったり、グリフィンの「ビリーズ・バウンス」であったり、デクスター・ゴードンであったりワーデル・グレイだったりすくわけだ。なぜ、パーカーの曲をテナーでやるとかっこいいか。それはおそらく、もともとアルトの音域で書かれているため、テナーでやると、すごい低音部やかなりの高音域を使ってむりやりテーマを吹かねばならない。こうした名手たちが吹くと、そういった無理さ加減が逆に良さになり、引き締まった低音部やハイノートを完璧に吹きこなしてパーカーの複雑なリフを吹くというのが一種新鮮で倒錯的な魅力になっているのではないか。まあ、そんなややこしいはさておき、本作は冒頭の「スクラップル……」をはじめ豪快で歌心あふれ、しかも煽りまくり煽られまくりの快演ぞろいなので、晩年の指が回らなくなったアモンズに比べ、いやー、めちゃめちゃうまいなあと本気で唸ることうけあいの演奏内容である。さっきも書いたが、これだけの破天荒で起伏のあるドラマチックな演奏をたった3人で、しかもライヴで……いやー、すごすぎる。よく、ボス・テナーズなどで、テクのスティット、気合いのアモンズ……的に評されるが、いやいや、テクのアモンズですよと言いたくなるほど、超アップテンポでも自在に吹きまくっている。そしてアモンズをアモンズたらしめているのはその音色ももちろんだが、あの「カクカク」した四角いノリで、アモンズを聴くたびに私は六代目松鶴師匠の語り口を思い出す。どちらも、ノリが四角い(意味がわからないひとは、実際に音源を聴いてもらいたい)。そのノリは、どんなにテンポが速くなっても同じで、ずっとカクカクしているのだ。これがいいんですね。そして、どちらも晩年は口調(演奏)がヨレヨレになっていったことも共通している。これも、いいのだ。もちろん、衰えないにこしたことはないが、フツーのミュージシャン、フツーの噺家が衰えたとしてもそれはただのマイナスだが、これだけ実績があり、個性があり、凄まじいパフォーマンスを繰り広げていた名手なればこそ、衰えも「味」に転化されるのだと思う。まあ、とにかくこの絶頂期のアモンズを聴いて、皆さん、腰を抜かしてください。

「GENE AMMONS IN SWEDEN」(ENJA & YELLOWBIRD RECORDS CDSOL−46407)
GENE AMMONS

 めちゃくちゃまえに聴いたことのあるアルバムだが、内容をまったく覚えていなかったので、廉価盤で出たのを機会に聴いてみた。アモンズ晩年のヨーロッパでのライヴ。バックはホレス・パーラントリオでベースがなんとレッド・ミッチェル。アモンズは、指のもつれからかややフレーズがへろへろっとしている箇所もあるが、この時期にしてはしっかり音も出ている。しかし、やはり全体的に覇気がないというか、昔取った杵柄で演奏してますというか、長いアドリブはしんどいというか……全盛期のアモンズとは遠い。もちろん音色といい、カクカクした固いノリといい、「おお、アモンズや!」という要素はふんだんに感じるので、このとき聴いていた聴衆にとっては垂涎の演奏だったと思うが、こうして録音されて再聴されてしまうと、けっこうつらいものがある。とくに「ボステナーズ」という、タフガイで売った剛腕テナーなのでよけいにそういう感じがある。4バースとかでもけっこうそういったところが気になって純粋に楽しめないというか……。アモンズ自身のアナウンスかどうかわからないが、2曲目が終わった時点で、つぎはホレス・パーランの「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーン・ビームス」だと言っているが、そのあと「ラヴァーマン」と言っていてよくわからない。実際には「ポルカ……」をピアノトリオで演奏する。そして、その流れからピアノが「ラヴァーマン」に導く。アモンズはおそらく長いフレーズを維持することができなくなっていて、吹き伸ばしなども短く切ってしまうが、アモンズらしいフレージングはたっぷりと味わえるし、正直「がんばっている」感じがあって、本当にすばらしい。麻薬で収監されなかったら、どれほどの名演を残してくれただろう……というようなことを思わずにはおれない。一期一会のジャズの世界において、7年間の獄中生活(求刑は15年!)はきつい。ラストの「オーフス・ジャズ」という曲はようするに「アイ・ガット・リズム」なのだがそのことにはライナーは触れていない。全盛期のアモンズならば楽勝でぶわっーとつなげていくところを、必死でつぎが途切れないようにがんばっている感じがけっこう厳しいが、パーランなどの共演者の盛り立てもあって音楽としては十分楽しめるクオリティを保っている。最後に逆順になるところなどは、(相棒だった)スティットなんかもそうだが、本当に楽しそうに吹くよなあ……と思ったりしました。まずは全盛時のアルバムを聴いてほしいが、そのあとならば(このアルバムを聴くのは)楽しい体験になると思います。〇十年まえにはじめて聞いたときと同じ感想を抱いたなあ。

「PREACHIN’」(PRESTIGE RECORDS PR7270)
GENE AMMONS

 アモンズのゴスペル集、しかもオルガン入りということで、もうコテコテのやつかと思っていたら、まったくそういうことはなく、非常にあっさりした、淡々とした演奏。讃美歌というのは、一般に思われるているゴスペルの、汗だくになってギャオーッとシャウトし、天国にも届くような倍音が噴火のようなエネルギーをともなって天井をぶち壊す……みたいなものとはちがって、こんな具合にしみじみと演奏されるのが基本なのではないかと思う。アモンズも、いわゆるバップ的なアドリブをほぼ封印していてテーマを歌うことだけを心掛けているようだ。我々(はいうか私)はテナーのゴスペルというと、ヒュースト・パーソンのあれとかアルバート・アイラ―のあれとか、デヴィッド・ウェアのあれとかベン・ブランチのあれとかを連想するのだが、たぶんアモンズはこういう演奏を「素材」としては取り上げていないるのだろう。こういう感じの、メロディを大事にしたあっさりした宗教歌集があってもいいですよね。1曲1曲が短く、11曲も入っているのに全部で35分ぐらいしかないが、ここでのアモンズが、ゴスペルとか讃美歌をアドリブの素材として考えていないということではないか。テーマをしみじみ吹いて、それで完結する世界なのだ。それはなかなか我々にはわからんのである。淡白なようだが、オルガンのバッキングもあって、十分盛り上がるし(6曲目とか最高)、メロディがいい曲が多いので、それを最大限に魅力的に見せるためにはこういうストレートすぎるぐらいストレートな吹き方もありだと思う。それでも、アモンズらしさはびんびんに感じるのだから、アモンズというひとは凄いよねー。ほかのひとなら、こういう吹き伸ばしのところは音で埋め尽くしているはずである。それを歌手が歌うようにただただメロディを歌う。正直、ときどき間違った音を吹いている箇所もあるが、全然気にならない。二度目の投獄直前の演奏ということでいいのかな、まだバリバリに吹ける時期の録音である。まだ30代でこの抑制された表現は渋いです。