「LEMURIA LIVE」(UNIT RECORDS UTR 4384)
VEIN FEAT.DAVE LIEBMAN
VEINというのはスイスのピアノトリオで、ドラムのフロリアン・アルベンスがリーダーらしい。ピアノはたぶん兄弟のマイケル・アルベンス。ベースはトーマス・レンス(と読むのか?)。すでにたくさんのアルバムをリリースしており、グレッグ・オスビーを加えたものもある。今回は、デイヴ・リーブマンとのツアーを行った際に録音されたライヴで、正直、このバンドになんの知識もなかったので、買うのをためらったのだが、まあ、リーブマンがきっとがんばっているだろうと思い、思い切って購入。表ジャケと裏ジャケは原始猿(アイアイとかシファカとかロリスとかキツネザルとかそういったやつ)の絵なのだが(これはタイトルにもなっている「レムリア」に関係するのだと思う。キツネザルはマダガスカル島にのみ生息しているが、インドから化石が見つかっており、インド洋を挟んだ地域に近縁種がいる。そのため、かつてはそのあたりを覆い尽くす大陸が存在したのではないかという仮説があり、キツネザル(レムール)からレムリア大陸と仮称された。えーと音楽に関係ない話ですいません)、ライナーにはライヴ時の写真が載っており、リーブマンは椅子に座って吹いているのだ。なーんか弱々しいというかジジイになったなあというか、そういう印象で、もしかするとけっこうしょぼいのかも……と思って聴いてみると、なんのことはない、リーブマン、鬼のブロウじゃん。ピアノトリオもすばらしいし、いやー、めちゃくちゃ凄い。音楽性も高く、興奮必至の傑作ライヴでした。1曲目「イン・ユア・アウン・スイーツ・ウェイ」(リーブマンの愛奏曲だ)のテーマの吹き方からして、もうかっこよすぎる(ソプラノ)。2曲目はピアノのマイケル・アルベンスが作った表題曲の「レムリア」だが、これがシリアスなジャズロックという感じで非常にええ曲なのである。テーマを聴いてるだけで燃える。そして、リーブマンのソプラノが炸裂しており、ひえー、すごいすごいとのたうちまわっていたら、作曲者のピアノソロがこれまたすばらしく、そのあともう一度リーブマンが登場して、今度はさっきを上回る大噴火のソロをぶちかまし、ピアノとの過激かつ露骨なインタープレイも最高……というとんでもない演奏なのであった。うひゃー、これは買ってよかったぜとほくほくしながら聞き進めると、3曲目はテナーに持ち替えた「アイ・ラヴ・ユー・ポーギー」。中音域のサブトーンを駆使した、ずるずるのバラードプレイで、これもいい。4曲目はリーダーでドラムのフロリアン・アルベンスの曲でグルーヴする4ビートにややこしめのテーマが乗るが、テーマ部分もリズムが消えたりして、けっこう凝った構成の曲。テーマ後はいきなりベースソロになり、ドラム、ピアノが加わって、スウィング感はあるのだが非常に内省的なトリオ演奏になる。5分50秒ぐらいして、やっとリーブマンがフリーな感じで絡んできて、そこから速い4ビートになるが、リーブマンのソロはかなりフリーでかっこいい。ドラムソロのあとテーマ。ええ曲や。5曲目はリーブマンの曲で、相当自由度の高いピアノのイントロからピアノトリオになり、リーブマンが出てくるのは4分ほど経ってから。めちゃかっこいい。ちょっと初期クエストあたりのサウンドを連想する浮遊感と、そのなかにある芯の通ったエグい王道のジャズ感。すばらしい。最後は「サマータイム」で、個性的なベースソロからはじまり、8ビートっぽくアレンジされたテーマがやたらかっこいい。リーブマンのソロはめちゃくちゃ自由で、ほとんどフリージャズ。いずれにしても、最近のジャズに特徴的な「ライヴなのにライヴとは思えぬ完成度」の演奏ばかり。それが悪いことでは絶対にないと思うがライヴ特有の荒さがまったくない、こういう演奏を聴いていると、このぐらいのレベルのライヴが当たり前になっている昨今、いやー、ジャズミュージシャンもたいへんだなあとは思う。傑作です。