louis armstrong

「COMPLETE TOWN HALL CONCERT」(RCA RECORDS/RVC RVJ−6007)
LOUIS ARMSTRONG AND HIS ALL−STARS

  当時、ビッグバンドを率いていたルイ・アームストロングだが、エンターテインメント性は増していたがジャズっぽいスリルは失われていた。そんなルイが周囲の要請に応えて臨時編成のコンボでのコンサートを行った、その全容である。超忙しかったルイは、リハーサルには一度も来ず、当日もリハには参加できず、ぶっつけ本番となったらしいが、それでこの一体感、スウィング感、ドライヴ感である。たいしたもんである。サッチモというひとが目玉を向いてだみ声でスキャットするだけのおっちゃんでないことがひしひしとわかる。ジャズミュージシャンとしてのすごみ横溢のライヴである。メンバーもジャック・ティーガーデンをはじめ、ボビー・ハケット(ニューオリンズジャズの伝統として、トランペットはふたりいることが多かったみたいです)、ピーナツ・ハッコー、ディック・キャリー、シドニー・カトレット……などが揃っており、まさにオールスターズの名にふさわしいが、彼らだからこそルイもリハなしでも安心していたのだろう。各人のソロやアンサンブルでの絡み合いを聴いていると、心技体が充実している状態であることがわかり、このコンサートがこの時期に行われたことに感謝するしかない。このコンサートの成功によって、ルイは恒常的なコンボを結成し、それを中心にした演奏活動をすることに踏み切ったというが、それはそうでしょう。私のようにニューオリンズジャズのことはまったくわからない門外漢ですら、背筋がビリビリッとするぐらい気合いの入った、そして、音楽的にも見事としか言いようがないソロの連発である。もちろんルイのソロも「凄まじい」といってよいぐらいの物凄さだが、ほかの全員が自己ベスト級のソロをつぎつぎと繰り出すさまには驚くしかない。それにしてもルイ……リハなしでこれとはなあ……。私にとっては、こういうニューオリンズジャズのほうが「何度も何度も聴いて、やっと良さがわかる」感じなのだが、このアルバムは学生のころに買って、その後、聴くたびに「?」となりながらもしつこく何度も何度も何度も何度も聴いて、「全部一緒に聞こえる」→「めちゃくちゃすごい」に変わった、というアルバムなので、もう手放せないのである。今となっては、この演奏がエンターテインメントの極致であり、かつ、ジャズ的にもすごい、という絶妙のバランスであることがよくわかる。選曲もよくて、ほんと、いいアルバムですよねー。傑作。

「A PORTRAIT OF LOUIS ARMSTRONG 1928」(CBS SONY 20AP1466)
LOUIS ARMSTRONG

 これも学生時代に買ったアルバム。当時は、「ジャズという音楽を知るための勉強」として「こういうのも聴かなくては」という気持ちから購入したのだが(自分はそういう聞き方をする性格であることは否定しません。小説でもなんでも、興味を持ったものはそのそもそもの最初から知りたいと思ってしまうのだ)、なかなか手ごわかった。だいたいこういうニューオリンズジャズのサウンド自体がなじみがないので、ええのか悪いのかがわからない。そんなことを考えずに素直に聞けばいいのだ、と言われても、だとしたらこれは合わんわー、と思う。しかし、天下の名演ばかり……と言われると、それがピンとこない自分がはがゆかったりして、聴くたびに「うーん……」と唸ってばかりいた記憶がある。しかし、しつこく聴いているうちにこういう演奏に慣れてくるというかなじんできて、やはりルイ・アームストロングのトランペットはすごい、と思うようになってきた。昔、「ウエスト・エンド・ブルース」という長編SFを書いたことがあって(未発表)、そのときにずっと聞き込んでいたのが幸いしたか、同曲の冒頭の無伴奏トランペットのイントロが次第にかっこよく思えるようになったのがきっかけで、どの曲もだんだん面白さ、すばらしさがわかってきて、今ではめちゃくちゃ好きになり、少なくともこの演奏がとんでもない傑作であることぐらいはわかるようになった。メンバーのうち、アール・ハインズはサッチモと並んで天才的としか言いようがないプレイを披露しまくっているが(バカテクでもある)、トロンボーンのフレッド・ロビンソンというひととクラリネットのジミー・ストロングというひとがすごくがんばっているけどときどきコード進行にそったソロができなかったりするあたりは、このときのサッチモの相棒としては役不足であるように思える。しかし、そんなことはかすんでしまうぐらい主役のサッチモとハインズがすべてを持っていく。トランペットソロはときどきあまりのすばらしさに息をのむような箇所がある。油井正一の解説文はさすがに気合いが入っており、わかりやすいが、「ジミー・ストロングのサブトーン・クラ」という箇所だけは、全然サブトーンではないので「?」が頭に浮かんだ。傑作というのもはばかられるような名演ぞろいのアルバム。一曲一曲は短いがあまりに濃いので、続けて聴くと頭がぼーっとしてくる。だから、一度に聴かずに数曲ずつ真剣に聴くほうがよいと思う。