「自由(FREEDOM)」(ちゃぷちゃぷレコード CPCD−005)
崔善培(CHOI・SUN・BAE)
韓国のトランペット奏者の無伴奏ソロアルバムで、しかも、タイトルが「自由」とあっては、これは聴かざるをえないでしょう。非常に硬質なソロで、きっちりしていて、レスター・ボウイやドン・チェリーのような「ええ加減さ」がなく、ひたすら金管をきちんと鳴らして、メロディとリズムをつづり、自己表現する、というタイプの演奏なので、これがサックスならきっとまたちがった印象を受けただろうし、トランペット奏者ならべつの受け取り方があるだろうとは思う。何度も聞き返してみたが、毎回発見があったし、なによりもこのひとのきまじめで、真摯な演奏から発するメッセージが、ときどきグワアアアと伝わってきて、そういうところはさすがにラッパ吹きではない私にもわかるのだった。きっとこのアルバムはこのひとにとってはとても重要な作品で、ものすごく気合いをこめて演奏しているのだろうと思った(初リーダー作だそうである。道理で……)。たとえていうと、真剣を持った宮本武蔵が敵に向かって身構えているような、涼やかで、「凛」とした、そして透徹したような印象だ。今回、この稿を書くにあたってもういちど聞き返してみたが、やはり同じ印象で、なんというか、「リズムセクションがバックにあるような」かっちりしたソロなのだ。もっと八方破れな部分もあったらもっとよかったかもしれないが、ちゃんと受け止めることはできたと思う。
「THE SOUND OF NATURE LIVE T PIT INN」(ちゃぷちゃぷレコード POCS−9352)
崔善培カルテット
このひとは名前は有名なので知っていたが、演奏は聴いたことは(たぶん)なかった。本作ではじめて演奏に触れた……と思っていたのだが、よくよく考えるとカンテーファンの「コリアン・フリー・ミュージック」に1曲だけ入っているのだ(カンテーファンのオリジナルトリオのメンバーなのだ)。しかもちゃぷちゃぷレコードからはソロも出ていて、私は上記でちゃんとレビューをしているのだ。すんません。
韓国でまったく独自にフリーインプロヴィゼイションを切り開いていった3人のうちの一人であり、そういうひとはやはり一本芯が通っている。日本の凄腕たちとの共演でも迷わず自分をしっかり出していくその姿はとても好感が持てる。トランペットの吹き方も、すっきりした音で朗々と鳴りまくるようなタイプではなく、へしゃげたような音や息の音を過剰に入れた音などを多用するので、トランぺッターとして上手いのかどうなのかは私にはよくわからないが、そういうところとは無関係な次元で音楽をやっている印象だし、全体から感じる息吹のようなものはつねに心地よい。日本人ミュージシャンは本当に手練ればかりで、梅津和時、井野信義、小山彰太というフリーもできるけど、とにかくなんでもできるつわもの三人なので、このひとにとってはいわゆるアウェイなセッティングなのかもしれないが、とても健闘しており4人がひとつのところを目指して音楽を作っていこうとしている姿勢も伝わってくる。ときにそれが上手く行かない部分やダレる箇所もあるが、そういうことも含めてのひとまえでのドキュメントだし、個々の演奏のクオリティは高い。梅津さんをはじめとして日本人3人は、いろんな引き出しからいろんな技を繰り出してきて、ある意味、プロの演奏という感じだが、崔善培さんのトランペットは、飄々としているようで凛とした侍のような気迫があり、穏やかなようで熱い。井野信義のベースが凄くて、小山さんのドラムもめちゃくちゃ調子がいいのがわかる。もちろん梅津さんは二本吹きも交えての熱演だ。だから、それらを聴くだけでも十分楽しいのだが、どの演奏も崔善培のトランペットを中心に回っていることは明らかだ。何度も聞いたが、一番目立つのは梅津さんですばらしい演奏なのだが、一番感銘を受けたのはやはりリーダーの真摯な姿勢なのである。そういう演奏でした。