「ABOVE & BEYOND:AN EVENING IN GRAND RAPIDS」(JUSTIN TIME RECORDS JUST208−2)
BILLY BANG QUINTET FEATURING FRANK LOWE
2003年2月のライヴ。フランク・ロウはこの年の9月に亡くなってしまうので、ラストレコーディングに近いと思う。ジャケット裏にはテナーをブロウするロウの写真が載り、ライナーの最後には「フランク・ロウに捧げる」の言葉がある。ビリー・バングとは「ワン・フォー・ジャズ」というアルバムを作っており相性はバッチリ。本作はドラムが中谷達也であるが、こういうストレートアヘッドでブラックネスのある4ビートもやるのだなあ。で、内容だが、すごくよかった。1曲目は不穏な感じのマイナーチューン。ヴァイオリンの、つややかで伸びのある、しかしどことなく調子はずれの媚びるような音と、テナーの音色が妙に合う。フランク・ロウはフリーキーなブロウもときおり挟み込むが、ほとんどはしっかりと足を地につけた演奏で、ごつごつしたフレーズを真摯に積み重ねていく。考えてみると、このひとがフリージャズ的な荒れ狂うような演奏をしているのって「ブラック・ビーイング」ぐらいで、あとはだいたいストレートに吹いているものが多いのではないでしょうか。それだけの力があるひとなのだ。ベースのアルコのロングソロもダレることなく、4人が一丸となっているのが実感できる。2曲目はちょっと中国風の変わったテーマの曲で、ロウはこれもときどきフラジオ音域での挟む程度であとは曲調を守った歌い上げに終始する。低音の音色も、いかにもテナーという感じのとても好ましい音。うまく音を外しながらフレーズを構築していく知的なピアノソロもいいっすね。3曲目はピアノの自由な無伴奏のイントロ(というか、もう独立したピアノソロ演奏といえるぐらいの尺。5分ぐらいある。めちゃくちゃかっこいい)ではじまり、マイナーキーのベースラインがなんともいえない不穏な感じで入ってくる。そしてヴァイオリンとテナーによるテーマもじつに不気味で、すごくいい曲だ。そのままバングのソロに移行するが、さすがな演奏。シンプルかつ自由に歌っていく、しみじみとした感じのソロ。次第に崩れて行き、フリーキーになっていくが、ピーンと張ったテンションというか気品は崩さない。ピチカートなども入れて、ソロの構成力も感じさせる。上手いよねー。ソロあとに大きな拍手。そのあとに出てくるのがロウで、最初は小さな音で囁くように吹きはじめる。テーマをなぞるだけの部分から、だんだんヴァリエーションを並べはじめるのだが、どれも小さな音で、サブトーンで狂っていく感じ。ダイナミクスと音色の変化などで構築していく。相当の表現力がないとできないソロ。徹頭徹尾小さな音のままロウのソロは終わり、そこから中谷達也のマレットでのソロになるが、これも不穏な雰囲気を持続していくが、途中でほぼ無音になり、ちりんちりんとベルのような音がするだけ……という中谷達也の個性爆発の展開になる。そこからは……まあ自分の耳で聴いてください。めっちゃかっこええ。ベースが戻ってきてピアノが加わったあたりで大きな拍手。これは中谷さんへの賛辞なのであろう。ええ曲やなあ。ラストの4曲目はラテンぽいマイナーキーだがハッピーな曲で、バングのヴァイオリンソロもガンガンいきまくってる。多少のミスは気にしない豪快な演奏が曲調にぴったりである。盛り上げに盛り上げたあと登場するロウは、とてもおとなしくはじめるが、これは病気のせいとかではなく、熱くなったら一旦冷やす、というお約束というやつだろう。本当に真摯で丁寧なソロでこのあと亡くなることを思うと目頭が熱くなる。フリークトーンをまじえつつも、基本的にはリズムを大事にしたソロで、ロウの真面目さが伝わってくる。4曲とも、本当にいいコンポジションで、演奏もよく、傑作といえるのではないか。ロウが最後に残したのが本作で本当によかった。全体にアンドリュー・ベンキーというピアニストがソロにサポートにと光っているように思えた。