「MORNING SUN/HARVEST MOON」(ENGINE 2011 E039)
HARRISON BANKHEAD SEXTET
聴いてみるまでどういう音なのかまるで検討がつかなかったが、意外とまとも(?)だった。完全即興っぽい曲からファンク的なノリのいいチューン、ラテン系、4ビートその他、曲によって表情はいろいろだが、基本的にシカゴの匂いがぷんぷんするアルバム。2サックス、ピアノレスというあたりもNRGアンサンブルあたりを想起させるし、実際それっぽいサウンドの部分もあるが、AACM的な黒々とした空気も感じるので、シカゴのいろいろなものを吸収してこういう音になっているのだろうと思う。ジャケットは超ええかげんで、リーダーの名前がBANKHADと誤記されていて、チープきわまりない。私にとってはなんといってもマーズ・ウィリアムズの参加が肝であって、たしかにマーズの演奏もめちゃめちゃいいのだが、ほかのメンバーも皆すばらしい。2サックスのもうひとりであるエド・ウィルカーソンとマーズの対比も成功している。エド・ウィルカーソンというのはカヒール・エルザバーのエスニック・ヘリテッジ・アンサンブルや自己の8ボールド・ソウル、そしてあの超大人数フリージャズビッグバンド、シャドウ・ヴィネッツのリーダーでもあったエドワード・ウィルカーソンのことだが、もやもやしたすっきりしない音色も含めて、いかにもAACMっぽいマルチリードだ。どの楽器に対してもいわゆる遊び感覚というか、これが主奏楽器です、という感じがないあたりもAACM的でそういう「いかがわしさ」も魅力なのだが、マーズは新世代で、同じくマルチリードではあるが、どの楽器も完璧に吹きこなす。最近のひとはみんなそうだよね。アルトはアルトらしく、テナーはテナーらしく、ソプラノもバリトンも、もちろんクラリネットやバスクラもその楽器の専門家と同じぐらいちゃんとした音色でちゃんとしたコントロールで吹ける。これはもちろんいいことだが、旧世代であるウィルカーソンと新世代であるマーズを組み合わせることによって、演奏に深みと幅が出た。全体に混沌としたところがあるのもシカゴの伝統だと思うし、ヴァイオリン(めちゃめちゃかっこいい)が入ってるのもシカゴっぽい音に聴こえる要因だと思う。そして、特筆すべきはドラムで、ものすごい演奏をしている。フレッド・アンダーソンの思い出という副題の曲が入っているあたりも、リーダーであるバンクヘッドだけでなく全員の思いだと感じられる。シカゴフリーはちゃんと受け継がれており、伝統と前衛が融合して、すばらしい音を造りあげているなあ、と感動させる一枚。こんなチープなジャケットではなく、ちゃんと出してくれっ。
「VELVET BLUE」(ENGINES STUDIOS E052)
HARRISON BANKHEAD QUARTET
あいかわらずチープ極まりないジャケットだのう。たぶん1円ぐらいでできてると思う。しかし、中身はすばらしいです。私の好きな「古いフリージャズ」の香りをぷんぷんさせながら、新しい感覚とヤバさが伝わってくる。エド・ウィルカーソン(今、うっかり変換したら「江戸・ウィルカー村」となった。日光江戸村か)のテナーの音は、マーズ・ウィリアムズと同じときに同じ機材で録音したとは思えないぐらい変な音だがどうしてか(丸くて、鳴ってない音というべきか。こんな音のひとでしたっけ?シャドウ・ヴィネッツのひとだよね?)?2曲目の、小物による即興のあと出てくるピアノはだれ? あと、マーズ・ウィリアムズの担当楽器のところにあるカリンバと、ドラムのアヴリーエイル・ラー(と読むのか?)のところにあるサム・ピアノは別物か? 2曲目は、なんだかわからないうちにフェイドアウトするがどうして? などなど、いろいろと謎の多い録音ではある。3曲目でえげつないドラムとサックスとのデュオの場面で、まず、ウィルカーソンのテナーとドラムという組み合わせになり、ここもかなりの聞きものなのだが、そのあとマーズのアルトとドラムというところで演奏のボルテージは最高に上がる。やっぱりマーズはアルトやねえ。このドラムのひと、めちゃすごいなあ。4曲目はカリンバやマリンバ的な音階打楽器によるアフリカ的なインプロヴィゼイション(このあたりカヒール・エルザバーを思い出す)が延々とフィーチュアされる。管楽器がメロディをつむぐが、基本的には打楽器のみの演奏だ。ああフリージャズ。ああスピリチュアル。しかも、まがいものではない、本物だ。バンクヘッドはかなり本気らしい。5曲目も激しい曲。やはりウィルカーソンのテナーの音は、くぐもったような妙な音。個性なのだろうな。マーズはソプラノ。このひとはなにを吹かせてもめちゃめちゃうまい。それが一転してのどかな演奏になる。6曲目は、立体的なドラムソロではじまり、そこにマーズのエグいテナーのブロウがからんでいく。いやー、マーズ・ウィリアムズはやっぱりテナーやねえ(どっちだ)。このエッジの立った音色は、いつ聞いても爽快だ。ちょっといちばん音が個性的だったころのボブ・バーグの音をドスをきかせたような感じか。そこにエド・ウィルカーソンのぐにゃぐにゃで腰砕けのクラリネットが入ってくる。味わいやのう。このふたりの使い分けというか顔合わせというか、バンクヘッドはさすがだと思う。まるで、80/81でブレッカーとデューイ・レッドマンをフロントにしたパット・メセニーのように(ちがうか)。そのあと、ウィルカーソンのテナーソロになるのだが、これがマーズのシャープかつ豪快なソロとは正反対なのだ。しかし、とにかくスタイリッシュ。ものすごーく変態的であり、聞いてるうちに病みつきになりそう。7曲目は「ストラヴィンスキーのスケッチ」というタイトルの曲。マレットで叩かれるドラムの響きがベースになって、そこにアルトクラリネット(バスクラじゃないのかなあ……)やアルトサックスアルコベースなどが乗っかるスピリチュアルな演奏。だれもソロをしようとしない。ちょろっとフレーズを吹いても、それはすぐにほかの3人の醸し出す混沌のなかに溶けていってしまうのだ。途中でフィーチュアされる変な音は、たぶん振ったらキョワキョワした音を立てるおもちゃだろう。かなりいいかげんだが、おもしろい演奏ばかりでした。