「LIVE AT FAT TUESDAYS」(ENJA RECORDS 5071)KENNY BARRON
ケニー・バロンのクインテットによる88年のライヴ。一時はジャズ喫茶でよくかかっていた(適度にかっこよく、適度に猥雑でライヴ感があって、ジャズ喫茶ウケするタイプのアルバムなのだと思う)。リズムセクションが超豪華で、ビクター・ルイス、セシル・マクビーとは凄すぎる面子。ジョン・スタブルフィールドは、豪快といえば豪快、大味といえば大味なひとで、いつも私はバッド・ジョンソンを連想する。ものすごくビブラートがきついので、好みはわかれると思う。1曲目の「ノー・グレーター・ラヴ」ではその大味さがもろに出ているが、3曲目のケニー・バロンの曲(めちゃかっこいい)ではフリーキーに大暴れして、迫力のあるブロウをみせてハマッている。つまり、わかるわかる気持ちはわかる、というタイプのテナーマン。エディ・ヘンダーソンはうまいうえに大向こうウケしそうないつもの演奏。でも、本作に関してはフロントよりもトリオだろう。どの曲でもピアノソロには唸らせられるし、マクビーもビクター・ルイスもすげー。2曲目の「ミステリオーソ」はトリオだけによる演奏で、ケニー・バロンの最高のプレイが聴けます。なんでもできるひとなので、バップっぽいプレイからモーダルにガンガンいくやつもばっちりだが、それを織りまぜてもなんの違和感もないほど、この偉大なピアニストの熟成は凄いのだ。B面に行くと、1曲目は「サンド・デューン」という曲なのだが、これはフランク・ハーバートの「デューン砂の惑星」に捧げた曲なのか? ケニー・バロンはSFファンなのか? それともリンチの映画を観たのか?(映画は84年なのでおかしくはない)曲調は、砂漠の星の様子をイメージしたもの……といわれたら、ああそうですかと答えてもおかしくはないけどなー。一種のバラードです。かなり長尺の演奏。ラストはモードジャズ的な味わいのハードな曲。スタブルフィールドのソロは、やはり技術よりも気合い優先、気分優先の「わかるわかる。気持ちはわかるけどなあ……」という感じ。途中からフリーというのではなく、興奮に任せてのピーピーいう大暴れのあたりは私は好きです。ドスの利いた、迫力のあるソロではある(「ではある」という書き方でどーかご理解ください)。そこへいくと、エディ・ヘンダーソンは音楽的には真面目なひとなのだろう、そういう無茶はしない。真摯な説得力のある演奏ではあるが、こちらにはもう少し無茶をのぞむ。そしてケニー・バロンのソロは圧倒的だ。もちろんセシル・マクビーとビクター・ルイスのバックアップもすごくて、3人が一丸となって攻めまくる。超かっこいいっす。CDは1曲多いらしいが、聴いたことはないのでわかりまへん。
「いもライヴ」(OCTAVE−LAB/ULTRA−VYBE OTLCD2636)
KENNY BARRON
日本の「いもはうす」という店でのライヴだが、なんとなく見覚えのあるメンバーだと思ったら「スフィア」のリズムセクションなのだ……と一瞬思ったが、やはりそうではなく私にとってはウディ・ショウにからんだひとたちという感じなのだった。1曲目はめちゃくちゃ速いブルースだが、バロンがひたすら弾いて弾いて弾き倒すので、聞いている方は息をつくひまもない。しかも、そのフレーズの粒立ちがすばらしいので、圧倒される。ブルースといってもモーダルな感じのゴリゴリのフレーズが延々続く。ロニー・マシューズ、オナージェ・アラン・ガムス、ジョージ・ケイブルス、マルグリュー・ミラー、ラリー・ウィリスといったピアニストたちは同じようなゴリゴリ弾きまくる演奏をしていた。これは70年代ジャズというのがそういう時代だったということだと思う。もっと間を生かせよ、とか、もっとゆったり弾けよ、とかいうのは簡単だが、これこそが当時の最前線の演奏だったのだ。2曲目は黒いオルフェなのでちょっと気を抜けるかと思いきや、バロンのピアノはとにかくガンガン行くので一瞬も気が抜けない。バスター・ウィリアムスのベースソロがドボチョン一家みたいなフレーズを弾くので笑ってしまいました。LPというのは2曲でちょうどええなあと思った。3曲目の「リズマニング」はこれもアップテンポだが、バップフレーズがかなり出てくるのでちょっとリラックスして聴ける……か? ベースソロもすばらしい。最後のドラムとのエイトバースもびしびし決まってかっこいい。ベン・ライリーのドラムはほんとにジ美味しい。ラストの「サム・デイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」は面白いイントロからはじまる演奏だが、これがいちばんバラードっぽいゆったり感を持っているのではないかと思う(バラードではないけどね)。バロンもあまり気負うことなく、歌心を優先させた演奏をしている。三者のからみあいはスウィングしながらも絶妙なコンビネーションで爽快である。よく歌うベースソロ(かなり長尺)も聴きごたえ十分。こうして通して聴くと、4曲で構成というか曲順もしっかり考えられているし、ピアノトリオとしては大成功ではないかと思う。このグレイトなピアノマンの今のレギュラーベーシストが北川さんだというのは本当にすごいことです。