「BAD BASCOMB!」(DELMARK RECORDS DL−431)
PAUL BASCOMB
これはデルマークの特徴なのか、めちゃくちゃエコーのかかった、おそらくはSP用のレコーディングと思われる演奏が多くて、雰囲気はばっちり。デルマークの「ホンカーズ・アンド・スクリーマーズ(邦題「サックス・ブロワーズ・アンド・ホンカーズ」)にも入っていたポール・バスコムのフルアルバムだ。タイトルが「バッド・バスコム」となっているぐらいだから、そうとうワルだったのかと思ったら、写真をみると、なるほどたしかにワルそうですね(失礼……)。髪型から髪の色(染めてる?)、白いズボンに白い靴という、なかなかの押し出しである。しかし、内容はというと、外観から期待されるような凶悪なホンカー……ではなく、至極まっとうなスウィングジャズである。しかもめちゃ上手い。太い音色で、ときにはグロウルを交えてブロウするが、これぐらいの演奏はこの当時のスウィングテナーならだれでもやる。ライナーノートにはバスコムの経歴がかなり詳しく書かれているが、アルトをずっと吹いていたが、コールマン・ホーキンスのテナーを聴いてテナーに転向したらしい。ホーンキンスの「ボディ・アンド・ソウル」を一音一音コピーした、とあるからかなり真面目な性格だったのだろう。カウント・ベイシーにも加わっていた(ウィキペディアを見ると、1838〜39年で、ハーシャル・エヴァンスの後釜として、となっているから相当初期である。私の知る限りでは吹き込みは(放送録音等も含めて)ない、と思うが……)この実力あるテナーマンはもっと知られてもよいと思う。基本的にはバスコムのテナーに加えて、トランペット、バリトンサックス、それにアルトがふたりという5管編成で、ピアノはデューク・ジョーダンである。全体に、アレンジにも気が配られており、曲ごとに手を変え品を変え、飽きない工夫がほどこされている。曲に簡単に触れると、1曲目は荒くれるトランペットソロが印象的な曲で、管楽器はほぼ全員にソロが回る(アルトは片方だけ)がすごく楽しい。「マンブルズ・ブルース」という曲はアルトのフランク・ポーターのボーカルが楽しい曲。上記「ホンカーズ・アンド・スクリーマーズ」にも収録されていた「ピンク・キャデラック」はバスコム自身のルイ・ジョーダンっぽいボーカルとテナーがフィーチュアされたジャンプっぽい曲。B−1の「インディアナ」はアップテンポだが、バスコムは楽勝でブロウする。B−2の「リザズ・ブルーズ」は「ナイト・トレイン」的なノリの「スローだがノリノリのブルース」という感じの演奏でかっこいい(途中で、だれかが「ギャーッ!」と叫ぶ)。バスコムのソロも定型かもしれないがすばらしいと思う。スウィングジャズとしてはめちゃくちゃ楽しいし、バスコムのソロもすばらしいし、言うことはない。ホーキンスの影響をこれだけ真正面からしっかり受け止めて、そのうえで自分のスタイルを作っているというのはすごいことでしょう。ラストの「ノナ」という曲でのテナーソロは見事としか言いようがない。この演奏だけ聴いたら、たぶんスウィング時代の巨匠の演奏だと思うだろう。それぐらいすばらしい演奏で、この曲は多くのひとに聴いてほしいと思う。かつての私がそうだったように、ホンカー好きのひとには物足りないかもしれないが、よく聴くと本当に最高の演奏が詰まっているアルバム。