johannes bauer

「ARTIFACT」(OKKA DISK OD12077)
ITI LIVE IN ST.JOHANN

  このITIというグループ、だれがリーダーなのかわからないが、一応トロンボーンのヨハネス・バウアーのリーダー作としておこう。このひと、最近ラック・ホートカンプやバリー・ガイ、ルディ・マハールなどのアルバムでよく聴くけど、昔からブロッツマンやフレッド・ファン・ホーフ、アラン・シルヴァがらみで名前をみているせいか、もっと年寄りだと思っていた。映像を見るかぎりでは、えらい若いやん、と思ったら、54年生まれだからまだ56歳だ。コンラッド・バウアーの兄弟なのかなあ。ヴァンダーマークとは最近よくシカゴテンテットで共演しているが、こうして小編制グループでたっぷり聞かせてくれると、その凄さもひしひしと伝わってくる。ときにパワフルかつ具体的で、ときにアブストラクトかつ幻想的な千変万化のトロンボーンのすばらしさは筆舌につくしがたいが、神経を逆なでするがごときノイズの嵐のなかに突き刺さるように響くヴァンダーマークのクラリネットが、エレクトリックとアコースティックの対決のような融合のような面白さで見事である。とくに、1曲目の32分すぎたあたりからのヴァンダーマークの発狂したような即興リフのつけかたは圧巻。カンザスシティの時代から続く、リフというものの持つパワーの凄さをまざまざと見せつけられる。こうした、アコースティック+ライヴエレクトロニクス的ノイズ……みたいな演奏はけっこう多いが、結局はセンスの問題である。本作のような使い方をされるのは非常に美味しい。収録時間が短いのもよい。今は75分ぐらい入っているアルバムがほとんどだが、このぐらいの時間のほうが集中して聞ける。あまりにおもしろくて、一日中繰り返し聞いていたが、やっぱり即興というのは最終的には「人」だなあと思った。「人」とか「個」というものを殺して、純粋に演奏する、という即興ももちろんありだろうが、完全に個を殺すことはむずかしいし、こういった人間性全開の演奏のほうが聞いている分にはくつろげる。一聴、ノイズが暴れまくる過激な演奏のように思えるかもしれないが、じつは意外なほど聴きやすいし、かっこいいのである。傑作。

「BLUE CITY」(TROST TR155)
JOHANNES BAUER/PETER BROTZMANN

 オーストリアのトロストから、な、な、なんと97年の上新庄「ブルー・シティ」でのデュオ。その名も「ブルー・シティ」! これを快挙といわずなんと言おう。つい数日まえにビッグアップルで観たブロッツマンも凄まじかったが(○十年まえにビッグ・アップルでブロッツマンのライヴを主催して、そのときふたりだけでビールを飲みにいったことを思い出す)、それは76歳という年齢を勘案してのことで、もちろんこの97年のライヴ時、ブロッツマンはまだ56歳である。正直、こないだ観たときは、音はまったく衰えておらず、馬鹿でかい、想像を絶するような凄まじい音ではあったが、息が長続きしないので、フレーズはかなりブツ切れである。それでも凄いことはめちゃくちゃ凄いし、ニルセンラヴの若いパワーに一歩も退けを取らずに怪物のように吹きまくってはいたが、本作などを聴くと、やはり息が長続きしている点が明らかに違うのだ。管楽器ふたりのガチンコ即興だが、ヨハネス・バウアーめっちゃかっこいい。単にパワーだけで押しまくるような演奏ではなく、ふたりが作り出すさまざまな場面のバラエティがものすごくあって、まるで飽きない。そういうあたりを、バウアーはもちろん、ブロッツマンもかなり意識しているのではないかと思う。とにかくえげつない迫力の演奏で、聴きごたえ十分である。バウアーの、口でなにかを言いながら吹く、一種のマルチフォニックスの狂気はそれだけでもすごいのだ。あと、バウアーのユーモアセンスも見逃せないし、ブロッツマンのクラやタロガトーを持ったときの叙情性も。管2本での即興の見本……といったら失礼かもしれないが、そういってもおかしくないほど見事なデュオである。それぞれのソロパートももちろんすばらしい。しかし、ブロッツマンを聴くと、サックスやクラリネットをつねにフルトーンで吹くことやギミックをまじえない奏法での表現の重要性を考えずにはおれない。なお、このアルバムでのブロッツマンの表記がBROETZMANNとなっているのはウムラウトをこういう風に表しているのであって間違いではない。対等のデュオだと思うが、名前はバウアーのほうが先になっているし、ジャケットもバウアーひとりの写真なので、ヨハネス・バウアーのリーダー作という扱いだと思う。傑作。