han bennink

「打、打」(ちゃぷちゃぷレコード POCS−9351)
ハン・ベニンク & 豊住芳三郎

 めちゃめちゃおもろい。何度聴いてもおもろい。ベニンクの演奏は、生で接しないとなかなかその本質というか凄さがわからないと思うのだが、本作はこの音源だけ聴いて想像力を膨らませることによって、ベニンクの全貌のかなりの部分が味わいとれるような、ライヴの楽しさ、危うさ、一期一会のもろさ、かっこよさ、シニカルなユーモア……などがきっしり詰まっていて、そのいきいきとした演奏には「参りました」というしかない。正直、どこがベニンクでどこが豊住さんなのかわからんところも多々あるが、そんなことはどうでもよい。この、リズム楽器だけで構築された音楽……というか音、というかパフォーマンスというか……うーん、「ドラマ」みたいなものをみんな味わってほしいのです。こんなおもろいものはなかなかないよ! ベニンクの演奏をはじめて観たのはICPのときだが、いやー、ぶったまげました。「こんなんでええのか!」と思ったもんなー。フリージャズといっても真剣に、シリアスに、くそまじめに、しかめつらで演奏しなくてもいい。フリージャズはエンターテインメントの側面もあるのだ。そうだ、ほかの音楽とまったく同じだ。フリージャズは楽しいし面白いし笑えるしかっこいいし……すごいっ……と思ったのはベニンクやミーシャがきっかけだった。もちろんそれまでにも生活向上委員会とかドクトル梅津バンドとか山下さんの寿限無とかアートアンサンブルとかのライヴに接して、そうじゃないかなーとは思っていたのだが、ベニンクを見てマジで目からうろこというか一種の「悟った」状態になったのだ。「フリージャズはおもろくてもいい!」ということだ。このアルバムにはそんなベニンクのアホさが詰まっている。もちろん、たいへんな技術や音楽性に裏打ちされた「アホさ」なのだが、聴くほうはそんなことは気にしなくてもいい。このアホなドラムおじさんの楽しすぎるパフォーマンスを全身全霊で味わえばいいのだ。こういう演奏はきっと小学生とかにもウケるにちがいない。こどもにジャズを……とかいうけどじつは一番しっくりいくのはフリージャズではないかと思えるほど、ベニンクはわかりやすく、ユーモラスで、エンターテインメントだ。豊住さんはここではベニンクとの差別化のためか、かなりシリアスな演奏に徹しているが、それでもいつものユーモアも滲み出ていて最高である。ドラムデュオなんて、ドラマー以外だれが面白がるねん、と思っているひとがいたら、そんなことはまーったくないです、と言いたい。即興で、かつ打楽器デュオなのに、ほとんどダレるところがないというのも驚異だ。わくわくとドキドキとかっこよさにあふれてる。とにかく聴いてもらえれば一目というか一耳りょうぜんなので、ドラマー以外のひとにもあまねく聞いてほしいアルバム。傑作だ!