bob berg

「ANOTHER STANDARDS」(STRETCH RECORDS SCD−9013−2)
BOB BERG

 ちょっと自分語りをすると、ボブ・バーグといえば、私の学生のころは、テナーをやってるものにとってはスーパースターだった。グロスマンやリーブマン、ブレッカーなどはかっこいいけど真似したくてもできない。しかし、ボブ・バーグはシダー・ウォルトングループでフィーチュアされていたせいもあって、4ビートものが多くスタンダードなんかも演奏していたので、より親しみがあった。ザナドゥのリーダー作「ニュー・バース」はみんな持ってたなあ。トム・ハレルとの二管なのだが、曲もアレンジもソロもリズムもなにもかもかっこいい作品だった。「イースタン・リベリオン2」とか「○○セット」といったシダー・ウォルトンのアルバムもみんな聴きまくっていた。しかし風の噂では、ボブ・バーグは金がなく、昼間はタクシーの運転手をしているとかいう話があって、あんなうまいひとが……と言い合ったものだ。そんなボブ・バーグが、なななななんとマイルスグループに抜擢という話を聞いて、我々は大喜びした。これでタクシーの運転手もやめられる、リーダー作もいっぱい出るはずだ。しかし、マイルス・グループでのバーグは、ソプラノばっかり吹かされたり、あまりいい感じにはならなかった。期待したリーダー作も、「ステッピン(イン・ヨーロッパ)」という、顔のでかいアップで、ラバーのマウスピースを吹いてるやつぐらいで、内容も期待したものとはちがっていた(今聴くと、また感想もちがうかも)。ニールス・ランドーキーのライヴで、長尺のソロをゴリゴリ吹きまくっているのがあって、そちらのほうがわが意を得たりという感じだった。その後、マイルスバンドを離れてからは、デンオンやチック・コリアのレーベルなどにフュージョンっぽい作品をたくさん吹き込み、マイク・スターンとの双頭バンドなども人気を得たが、そのころの演奏は私としては今一つのめりこめない点があって、というのは、マウスピースが変わってしまい、マイケル・ブレッカー的な、シャープでエッジのたった音になったからで、やはりボブ・バーグはリンクのメタルの、あの低音から高音までほぼ同じ音色の、ああいう(どういう?)音のときが、聴いていてぞくぞくするような感動があった。といってデンオンのころも内容は決して悪くないのだ。そして、本作はそういうなかでもべつの輝きを放っていて、それはスタンダードをやってるからとかそういうことではなく、とにかく一曲目の「あなたと夜と音楽と」から、もうすごい演奏のオンパレードで、「しっかりとした意味を持つ、適格な音の奔流」とでも言いたくなるような目まぐるしいフレージングが、凄まじい技術で吹きまくられる。技術と一口に言ったが、その音色、太さ、アーティキュレイション、リズムなども含め、サックス奏者としてほぼ完璧なテクニックの持ち主だと思われる。彼が自動車事故で亡くなったとき、ブレッカーが追悼の言葉を捧げているが、そこでバーグの持ち味のひとつにスウィング感を挙げていて、なるほどと思った。ツボにはまったときのバーグのドライヴ感、スウィング感はちょっとほかに比するものがないほどの凄まじいものなのだ。このアルバムでは、バラードなどでも顕著だが、その「音」もより磨きがかかっているし(聴き惚れます)、もとから超馬鹿テクだったが、本作ではそれがよりすごくなって、あまりに上手すぎて、正直、ちゃんと聞いていないとつるつるっと耳を行き過ぎてしまうぐらいになっている(しかし、その凄まじくモダンに聞こえる音列が、じつはちゃんとした具体的アイデアの積み重ねであったり、教則本に出てくるようなアルペジオだったりするのだ)。ほかのメンバーも凄くて、ピアノのデヴィッド・キコスキーやドラムのゲイリー・ノヴァク(大活躍!)のプレイもすばらしい。アレンジも見事。もう、言う事のないアルバムなのだ。2曲に参加しているランディや1曲だけプレイしているマイク・スターンもいいんだけど(とくにマイク・スターンのソロはかっこいい)、ボブバーグのワンホーン部分がすべてをさらっている感じ。一見テクニカルでアウトしているようにも聞こえるボブ・バーグのフレーズが非常にオーソドックスかつ歌いまくっていることがわかる。ソプラノの伸びやかな演奏もすばらしい。傑作だと思います。

「WE MISS YOU」(MEGA DISC)
BOB BERG

 海賊盤のCD−Rだが、ボブ・バーグが不慮の事故で逝去した直後に出されたものらしい。タイトルがそのあたりを表していて痛々しい。しかし、内容はそういうことを感じさせないぐらい最高で、アムステルダムでのライヴ。ピアノはデヴィッド・キコスキ。音質も良好で、ときどきノイズが入ったり、音が一瞬途切れたりするが鑑賞には問題ない。1曲目はサンバで、キコスキーの曲。ピアノソロによるイントロからテーマ後、キコスキーのソロが延々続き、もしかしたらキコスキーがリーダーのバンドの演奏をボブ・バーグ4として追悼の意味で出したのか、と思ったほど。いやー、キコスキーのソロは素晴らしいです。しかし、つづくボブ・バーグも負けじとメカニカル+歌心といういつもの音楽性を遺憾なく発揮して、ときには高音で吠えつつ延々とブロウしまくる。かっちょえーっ! 2曲目は「アイ・クッド・ライト・ア・ブック」で、ボブ・バーグの流暢に歌うソロに耳が釘付けになる。ほんと、いわゆる教則本的メカニカルなフレーズと歌心あふれるフレーズを絶妙に組み合わせて延々と吹き続けることができ名人芸である。つづくキコスキーのソロもやばいぐらいかっこいい。途中テンポを半分に落とすところなどの見事さはしびれまくる。ピアノソロの途中、一瞬音が途切れます。そのあとボブ・バーグとドラムの8バースがこれも延々続く。3曲目はおなじみ「マイ・マンズ・ゴーン・ナウ」のモーダルな解釈で、かなり長いベースソロからはじまり、4分以上過ぎてからテーマが始まるのだが、このテーマの吹き方がもうかっちょええのである。テナーの一音一音に凄みがあり、ほんますごいとしか言いようがない。内省的(?)なピアノソロがあってテーマに。ラストの4曲目は「ジャスト・イン・タイム」で、テンポが倍テンになったり元に戻ったりして一定ではないが、まずはピアノがそのあたりをうまくこなし、縦横無尽のソロを展開。ボブ・バーグのソロになり、同じようにテンポが倍になったり半分になったりしながらも吹いていくのだが、それだけでもすごいと思っていたら、途中(10分半ぐらい)からベースとピアノが消えて、テナーとドラムのデュオになり、ここでボブ・バーグが本領発揮のブロウが繰り広げられる。応戦(?)するジョナサン・ブレイクも凄いが、観客の目はたぶんボブ・バーグに釘づけだろう。ああ、こんなひとがこの一年後事故で他界してしまうとは……かえすがえすも残念である。タイトルの重さを感じる。かなり長めのドラムソロがあってテーマ。ラストのボブ・バーグによるアナウンスでこれがワンセット目の終わりだとわかるが、ボブ・バーグがリーダーだということもしっかりわかる。選曲はもろ「アナザー・スタンダード」とかぶるのだが、時期的にこちらのほうが4年ほどあとである。音途切れとかあるし、海賊盤なので、傑作とは言いにくいが、ボブ・バーグ・ファンやキコスキーファンには全力でおすすめします。

「NEW BIRTH」(XANADU RECORDS/BREAKTIME BRJ−4535)
BOB BERG

 大学の軽音に入ったとき、サックスの先輩たちに「これを聴け」的に強制的に聴かされたなかの一枚がこれ。以来、ひたすら愛聴しているが、プロアマ問わずテナー奏者で本作を愛聴しているひとは少なくないと思う。とにかく一時、めちゃくちゃ流行った……流行ったという言い方はおかしいかもしれないが、日本の多くのテナー奏者にたいへんな影響を与えた作品なのである。スタンダードもオリジナルもアレンジ的あるいはソロ的にボブ・バーグ色に染められていて、徹頭徹尾ボブ・バーグが当時やりたかったことががんがん伝わってくる。これが初リーダー作というのはとんでもないことである。マイケル・ブレッカーよりも4ビートジャズ寄りである、ということで多くのリスナーを獲得したのかもしれないが、マイルス・バンドに入ってから数々のリーダー作を吹き込んだバーグにとって、やはり本作が最高傑作ではないかと思う。小説家としての自分のことを考えると、「デビュー作が最高傑作」と言われると、なんじゃボケ! と思わざるをえないが、シダー・ウォルトン(本作にも参加している)カルテットなどでバリバリの演奏を披露していたバーグにとっては、27歳というちょうどいい時期でのリーダー作だったと思う。トム・ハレルとのコンビネーションも抜群だし、リズムセクションもすばらしいが、とにかく本人の若さと熱気あふれるブロウがすばらしい。当時としてはかなり斬新なフレーズを独特の太い音色でためらいなく吹きまくるバーグは超かっこいいです。フレーズ以外のバーグの特徴として、高音から低音まで均等なやや濁った独特の音色、低音も含めてサックスの全音域を駆使したフレージング、バップが基調なのだがオーバートーンなどを使った斬新なフレーズも使いまくる……という感じでしょうか。親分的なシダー・ウォルトンのソロやバッキングもすごいし、アル・フォスターの貢献もえげつない(3曲目のソロは爆発している)。バーグのオリジナルは3曲目だけだが、まさに当時(1978年)のジャズシーンを反映したモーダルでパワフルな曲・演奏である。70年代のジャズは停滞していたとかいうやつはほんまにアホやと思います。全曲すばらしく、これを傑作と言わずしてどうするのか……というぐらいの傑作であります。このあとバーグがマイルスバンドに入ったとき、我々ファンは喝采を叫んだが、その後の悲劇的な最期も含めて、この初リーダー作を聴くと、当時の「うわー、超カッコいいやん!」という素直な印象がちょっと違った感じに受けとれるが、そういう感傷とは関係なく、本作はとにかくひたすら最高で、70年代ジャズの金字塔として今後も聞き継がれる傑作だと思う。充実しまくりのアルバム。