cris biscoe

「GONE IN THE AIR」(TRIO RECORDS TR578)
CRIS BISCOE QUARTET THE MUSIC OF ERIC DOLPHY

 クリス・ビスコーというアルト吹きがトニー・コフィというアルト吹きとともに作り上げたドルフィー・トリビュートの世界。これがなかなかいいのである。どちらもサックス奏者、クラリネット奏者としてたいへんな腕を持っているうえに、ドルフィーがめっちゃ好き……というのがひしひし伝わってくる。そんじょそこらのトリビュートアルバムとは一線を画した、きちんとドルフィーのフレーズその他を研究したうえでの満を持しての試みのようだ。ドルフィーというひとは、コルトレーンのように、フレーズは真似してませんがその精神性を見習いました的なトリビュートではまったく歯が立たない相手であって、その異常な個性の発揮されたフレージングをコピーし、自己薬籠中のものとしなくてはトリビューションにならず、意志をついだともいえない、というやっかいな音楽であるが、その点、このアルバムのふたりは立派なものだ。しかし、唯一、ああ、ドルフィーとはやはり似て否なるものなのだなあ、と思わせるのは、某所の連載エッセイにも書いたが、ドルフィーの演奏におけるもっともドルフィー的な要素……あの切迫感、もうこの演奏の後私は死にます、みなさんこれが最後の演奏です、さようなら……と言っているようなあの切迫感が希薄なのである。