joanne blackeen

「TRING−A−RING」(CHOICE RECORDS INC.CDSOL−46816)
JOANNE BRACKEEN

 このアルバムは、アル・フォスターの「ミクスド・ルーツ」やハル・ギャルパーの「スピーク・ウィズ・ア・シングル・ヴォイス」、メル・ルイスの「メル・ルイス・アンド・フレンズ」、マイク・ノックの「イン・アンド・アウト・アラウンド」……といったまだそれほどスーパースターではなかったころのブレッカーがサイドマンとして大活躍している作品として有名だが、カセットテープしか持ってなかった。今回の廉価CD化でやっと入手することができた。テナー好きはみんな聴いてほしい。それぐらいすごい、というか、すさまじいアルバムなのだ。メンバーもめちゃくちゃすごくて、ドラムがビリー・ハート、ベースがセシル・マクビーとクリント・ヒューストンという……これで絶対中身が悪いはずがない、と聞くまえからだれでも思うであろう人選なのである。ジョアンナ・ブラッキーンはチャールズ・ブラッキーンと結婚していたということで、フリージャズの人脈と思っているひともいるかもしれないが、ここに聴かれるとおり、そんなことはまったくない。70年代ジャズを多くのミュージシャンとともに牽引していた主流派ジャズのバリバリのひとである。いくつものアルバムにその足跡は刻まれているが、本作はなかでもハードな演奏をグーッと貫いたようなかなり挑戦的で、いくところまでいった感じのどえらい演奏である。といって、ひたすらシリアスというわけではなく、普通に聴けば、ラテンリズムの部分もあり、汗をだらだら流して……という感じではない。汗を流して聴くのは、ブレッカーファンとか70年代ジャズファンであって、普通に聴く分には楽しく聴ける。それにしても、たとえば4曲目「ハイチB」にしても、ブレッカーがここまで露骨に自分のルーツとやりたいことをあからさまに吐露したことはあまりないと思う。ひとつのフレーズを繰り返して、それを半音とか一音ずらしていくことで緊張感を醸し出し、それを解決することで落としどころを示すかっこよさ……みたいな演奏があちこちに見受けられるが、それを猛スピードで行うのである。明らかにコルトレーンが開発した手法だと思うが、そういうアイデアを直薬籠中のものとして、臆面もなく(というのは失礼だが)ばりばり使う……というのがこの時期のブレッカーだと思う。オルタネイティヴフィンガリングが駆使したフレーズやや3拍フレーズ的なもの(4拍子系のなかで3拍でアクセントを置くことでポリリズムっぽくする)やマルチフォニックスを使ったクラスター的なもの、伸びのあるフラジオ……などなど非常にわかりやすい凄さだが、このあとブレッカーはもっと深みのある表現へと進化を続けていく(「スモーキン・イン・ザ・ピット」や「スリー・カルテッツ」など)。ラスト6曲目はなんかよくわからんがめちゃむずかしいテーマの曲で全員てこずっている感じではあるが、アルバムのタイトル曲である。ソロに入ると、ぐちゃぐちゃななかで、じつは全然ぐちゃぐちゃではなく4人の奏者はしっかり自分たちがやっていることを見極めながらすごいことをやっている……というまさに「スリー・カルテッツ」並の超絶技巧のぶつかり合いが展開し、あまりにスリリングなのでボーゼンとする。時代を先取りした、という言い方はどうかと思うが、本作においては「時代をものすごーく先取りした」ぐらい言ってもちょうどいいぐらいの先鋭的な内容だと思う。4曲目でのビリー・ハートのソロや5曲目でのクリント・ヒューストンのソロなど、共演者にも十分表現の場が与えられていて、超かっこいい(つまり、本作の価値はブレッカーの参加に尽きる、みたいな意見はあたらないという話)。ボーナストラックの3曲ももちろん悪くないが、オリジナルの6曲だけで十分堪能できる。これが1000円って世の中まちがっとるよ。大傑作。ブラッキーン、えらい。こんな大名盤が1000円て安すぎるやろ! とは思うが、多くのひとにこのアルバムの存在を知らしめるためだと考えれば、しかたないですね。