samuel blais

「FOUR VISIONS」(SUNNYSIDE COMMUNICATIONS SSC1568)
DAVE LIEBMAN/DAVE BINNEY/DONNY MCCASLIN/SAMUEL BLAIS

 凄いメンバーを集めたサックスカルテット。サミュエル・ブレイスがリーダー格のようだが(本作では全編バリトンサックスを吹いている)゛四人ともそれぞれ楽曲を提供し、アンサンブルをばっちり決め、ソロでは自己主張しまくり……と最高の結果を生んでいる(全員、持ち替えはなく、終始ひとつの楽器だけで演奏している)。これはブレイスの人選がはまったのだろう。1曲目はそのブレイスの曲で3連のリズムのうえでアンサンブルが展開していくが、リーブマンのソプラノの個性が爆発していて心地よい。2曲目はデヴィッド・ビニーの曲で賛美歌を思わせるアンサンブルから各サックスが対位法的になったり、ハーモニーを奏でたりするクラシック的な演奏家からヴァンプがあるリズミカルなパートが現れたり、と一筋縄ではいかない曲。作曲者のバップ的なフレージングを感じさせるアルトがフィーチュアされてかっこいい。3曲目は今をときめく(?)ダニー・マッキャスリンの曲で、リーブマンのソプラノがリードを取る感じの、映画音楽的ともいえるアンサンブルからリーブマン、マッキャスリンのバトル(?)が行われるが、これがもう涎が垂れまくるようなすばらしい演奏。そのあとバリトンのベースラインに乗ってデイブ・ビニーの凄まじいブロウが展開される。緊張感のあるアンサンブルが続いたあとのエンディングもすごい。4曲目はブレイスの曲で、現代音楽的な緻密なアンサンブルのなかから作曲者のバリトンが時々抜け出してめちゃくちゃジャジーなソロを吹く、という感じの演奏(こんな感想、めちゃくちゃ間違ってるかもしれんなあ、と思うけど、書かずにはいられないわけです)。それからまた重厚なアンサンブルが続き、最後はサブトーンの吹き伸ばしで終了。5曲目はビニーの曲で、最初はしずしずと始まるのだが、そのあと4ビート的でスウィンギーなテーマ(タタタッというリズム)がはじまり、ビニーのアルトソロが豪快に吹きまくる。このソロはすばらしいです。そのあとダニー・マッキャスリンがてなーのすべての音域を駆使したソロを吹き、ふたたびアルトソロになったあと、例のテーマとしずしずとしたアンサンブルになって終演。6曲目はリーブマンの曲で現代音楽的なアンサンブルの曲だがこれがめちゃくちゃかっこいいんですね! バリトン(とテナー)の硬い音での低音パターンに乗ってリーブマンが吹きまくり、アルトとともにテーマを吹き……といったあたりのアレンジの巧みさにはひたすら感服。全員が自己主張をしまくる展開にも興奮する。この四人でないとできないことですね。収録作中、一番ジャズ的な展開の曲かも。かっこいい! エンディングのアンサンブルもいいですねー。7曲目はビニーの曲で、まさに4管のアンサンブルが絶妙な曲。ちょっとずつずれたタイミングで同じフレーズを吹いていく、という場面からはじまる冒頭部がやがて溶け合っていき、アルトとテナーの吹き伸ばしによる別の展開になるが、ここのロングトーンの微妙なニュアンスの変化のつけ具合が本当に見事で聞き惚れる。そこからこのふたりのデュオになり、妙技をがっつり聞かせてもらえる。そして、テーマに戻る。8曲目はマッキャスリンの曲。4管全部をいかしたアレンジで、リーブマンのソロ、マッキャスリンのソロがフィーチュアされるが、どちらも超個性的なもので、こういう編成だからこそ、奏者の個性が露骨に明らかになる。かっこいい。9曲目はリーブマンの曲で、16分という長尺もの。「バッハのスタジオにて」という意味深なタイトル。なんとなく不穏な雰囲気ではじまり、その感じは最後まで続く。無伴奏ソロとアンサンブル(毎回変わる)交互に聞かせる趣向。リーブマンのサブトーンぎみの無伴奏ソロが圧倒的だ。最後にアンサンブルが雪崩れ込んでくるときの迫力もすごい。アンサンブルを挟んで、デイヴ・ビニーの無伴奏ソロ。これも、音色といい倍音といい全体の構築といい、めちゃくちゃかっこいい。そして、サミュエル・ブレイスのバリトンソロも、しっかりといい音でつづられていて、腹に応える感じ。すばらしい。ダニー・マッキャスリンのソロもマルチフォニックスとリアルトーンを対比させたり、タンギングのつけかた、サブトーンなどでニュアンスを細かく変えたり……という超絶技巧を駆使したもので、しかもそれが全然超絶に聞こえない、というところがすごい。作曲者であるリーブマンはアンサンブルをリードするだけで無伴奏ソロはないが、ラストにもう一度(?)、アルト→バリトン→テナーによる短い無伴奏ソロのリレーがあり、アンサンブルで終了。なかなかの大作。ラストの10曲目はサミュエル・ブレイスによる、いかにもジャズのサックスアンサンブル曲という感じのリズミカルなテーマのあと、全員によるコレクティヴ・インプロヴィゼイションがあり、ここで全員がすさまじいテクニックのかぎりを尽くす。めちゃくちゃかっこいい。全部で71分にも及ぶアルバムだが、ひとつの長い組曲のようでもあり、サックスしかいないのにまったくダレることなく聞きとおすことができる(というのは私がサックス吹きだからか? よく、ギターだけのトリオとかカルテットとか、聴いてると途中で飽きちゃうけど、ほかの楽器のひとが本作を聴くとそんな感じになるのかなあ……)。全体を貫く緊張感のようなものも貴重である。傑作。