carla bley

「LIVE!」(ECM RECORDS/WATT J25J 20339)
THE CARLA BLEY BAND

 今聴いてみると、カーラ・ブレイが大変身した、と我々は驚愕したが、考えてみると「ディナー・ミュージック」とかがあるのでそれほど驚くことではなかったのかもしれないが、やはり当時は「うひゃーっ」と思った。その理由は、ひとつにはガチなフリージャズのひと(「エスカレーター・オーヴァー・ザ・ヒル」や「リベレイション・ミュージック・オーケストラ」などで)、とこちらが勝手に思っていたカーラ・ブレイが書く曲が(びっくりするほど)ポップになったこと、それにともなってソロイストの人選が変わったこと、リズムの変化……などであるが、こういう風な曲、アレンジ、ソロ……になってみると、カーラ・ブレイのアレンジというものの凄さがよくわかるようになった。ソロイスト的には、やはりゲイリー・ヴァレンテの参加が大きいだろう。このひとは衝撃だったなあ(2曲目の「ハレルヤ」は大原さんをフィーチュアして某バンドで演奏するはずだったらしく、うちのバンドはそのスコアを貸してもらって演奏するつもりだったのだが、結局断念。全パートをパート譜にしたのになあ……)。音圧といいフレーズといい、細かいコード分解のフレーズをいかに吹きこなすか、みたいなジャズのトロンボーンとは発想が全然ちがう。とにかくいわゆる「フリージャズ」的なソロイストをすべて排除したところが潔い。しかも、アンサンブルがめちゃくちゃタイトで、「ちょっとこんな感じのやつ、やってみました」的ではなく、ビシビシ決まりまくったアンサンブルである。そういうなかにマイク・マントラーやスティーヴ・スワローが自然に溶け込んでいるあたりもすばらしい。思い切ったジャケット写真もアンダーグラウンドなイメージを払拭したと思うし、日本盤タイトルが「艶奏会」だったのも今からしてみれば笑えるのだが、池上比沙之氏のライナーに「現在44歳(ジャケット写真を見て誰が44歳と思うか? 女は恐ろしい!)」とあるのはちょっと笑えないかもです(なんでこんなことを書いたのか?)。1曲目はハードなリズムに乗ってスティーヴ・スレイグルの溌剌としたアルトとヴァレンテのゴリゴリのトロンボーンソロがぶちかまされ、のっけからショックを受ける。2曲目はさっき書いたとおりでトロンボーンが祈りを捧げているようなマジのゴスペル(ゴスペルっぽい、とか、ゴスペルの影響がある、とかではなく、ゴスペルシンガーがトロンボーン奏者に変わっただけ、みたいな印象。ベン・ブランチみたいな……)で、これにびっくりしなかった、そして感動しなかったリスナーは当時いなかったのでは? とにかく私は衝撃を受けました。大原さんがよく言ってた「トロンボーンは神様の楽器」というのもこういう演奏を聴くとなるほどと思います。ヴァレンテの激熱のブロウを鎮めるかのようにカーラ・ブレイのオルガンが淡々と奏でられるのもよい。3曲目は一音一音を押し出すようにていねいにニュアンスをつけて歌いあげるスレイグルのアルトをフィーチュアした曲。非常に、オールドスタイルのビッグバンドジャズが思い浮かぶような演奏。カーラ・ブレイの訥々としたピアノもめちゃくちゃかっこいい。ええ曲や。4曲目はマイク・マントラーのトランペットをフィーチュアしたバラードとしてはじまり(マントラーってトランペット奏者としてもすごい実力ですね)、一転してラテンなリズムになってトニー・ダグラディのテナーソロがぶちかまされる(かっこいいーっ! ダグラディ、めっちゃ好き)。そして、ヴァレンテの短いが豪快なソロ、スティーヴ・スワローのこれもめちゃくちゃ個性的なソロのあとエンディング。見事すぎるアレンジ。5曲目は跳躍の激しいメロディの曲。ベースはオスティナート。最初に登場するのはヴァレンテのトロンボーン、そのあとスレイグルのフルート、どちらも最高。リズムの変化なども含めてとにかくアレンジの繊細さには感動。ラストの6曲目はストレートなビートで、ワンコードのベースに乗って、ヴァレンテのトロンボーン、スレイグルのソプラノ、ダグラディのテナー、ヴィセント・チャンシーのホルン……などのソロがチェイスされる。そのあとかなりいろいろ面白い展開になるのだが、これはもうごちゃごちゃ書いても仕方ない。聴いてもらうしかおまへんなあ、という感じなので、皆さん聞いてください。全体につわものを集めた感じではあるが、ゲイリ・ヴァレンテの個性がドーンと感じられる作品であり、カーラ・ブレイのアレンジのすごさもしっかり伝わってくる傑作だと思います。本作をきっかけに、というわけでもないだろうが、カーラ・ブレイはビッグバンドだけでなくさまざまな形態での演奏を展開していき、それぞれすばらしい成果があがっている。そして、アレンジャー、バンドリーダーとしてのカーラ・ブレイの手腕にも各方面から高い評価が寄せられていると思う。ええこっちゃ。

「FLEUR CANIVORE」(A WATT PRODUCTION WATT/21 839 662−2)
CARLA BLEY

 このライヴアルバム、めちゃくちゃ好きかもなあ。なにげなく中古で買ったのだが、もしかしたらカーラ・ブレイのアルバムのなかではいちばん好きかも。サックスはアンディ・シェパードは入っているが、全体にブラス系の充実感がすごい。もちろんルー・ソロフやゲイリー・ヴァレンテ、フランク・レイシー(トロンボーンではなくホルンとフリューゲルを吹いているが、ホルンの音色がすばらしい)、ボブ・ステュアート、スティーヴ・スワロー、ドン・アライアス……らもいるのだが、欧州のミュージシャンもすばらしい演奏をしている。こうしてみると、このメンバーはギル・エヴァンスのオーケストラと重なっているなあと思うが、ビッグバンドというのはそういう面白さもある。とくにウォルフガング・プシュニグというアルト奏者はすばらしいと思う。1曲目はそのプシュニグがブリブリ吹きまくり、ルー・ソロフがボブ・スチュアートのチューバをバックに高音中心の明るいソロをする、ビッグバンド本来の展開で盛り上がる演奏。これはみんなやりたがるだろうな。2曲目はゲイリー・バレンテの豪快でビッグトーンかつ濁った音色のボーンをフィーチュアした曲で、アレンジも絶妙だが、バレンテのソロがめちゃくちゃかっこいい。つづくテナーはクリストフ・ラウアーで、このひとも有名なひとだ。硬質な音でコルトレーン的なシリアスなブロウをする、私好みのテナーのひとである。3曲目はモダンなビッグバンド的にかなりオーソドックスな雰囲気の曲で、一発目に力強いソロをするのはルー・ソロフかと思いきや、フランク・レイシーのフリューゲルなのだ。つづくラウアーのテナーもめちゃくちゃかっこいい。エンディングが楽しい、と思ったらそのあとも続く、という趣向。4曲目もかなりストレートアヘッドなビッグバンドジャズでラテンリズムの曲。ルー・ソロフの完璧な楽器コントロールによるソロが炸裂。アンディ・シェパードの鋭いテナーソロ(すばらしいです!)、ソロフとシェパードのバトル(?)のあと、一旦終わって、拍手も起こるのだが、そこからべつの曲(パート2?)がはじまる。ゆったりしたテンポのくつろいだ曲で、カレン・マントラーのハーモニカによるゆったりしたソロがなじむ。そのあとまたまた一旦終わって、べつの曲(パート3)がはじまる。これはエリントン的といったらいいのか、ミンガス的といったらいいのか、小編成でああいう感じのハーモニーを醸し出すイントロのあとサンバっぽいリズムになり、プシュニグのアルトがフィーチュアされる。それからバレンテの圧倒的な音量、強いアタック、強烈なリズムによるトロンボーンソロが炸裂する。いやー、カーラ・ブレイバンドやなあ。エンディングも洒落てます。ラストの5曲目は重いロックビートの曲でバレンテのこれまた重いソロが展開する重量感あふれる演奏。スティーヴ・スワローのエレベと思われるソロがボブ・ステュアートのチューバなどを背景にフィーチュアされる。ここもすごくかっこいい。いやー、名盤ですね。全曲、イントロからエンディングまで気持ちの行き届いた、先鋭的な音楽性とポピュラリティーが見事に融合したカーラ・ブレイの傑作。

「EUROPEAN TOUR 1977」(A WATT PRODUCTION WATT/UCCU−90141)
THE CARLA BLEY BAND

 実はカーラ・ブレイのビッグバンドではこのアルバムがいちばん好きかもであります(え? 上記と矛盾する? いいんですよ、どれもこれも傑作なんだから)。あのライヴを出すよりも数年まえの演奏だが、これも名盤やなあ。カーラ・ブレイのゆるぎない演奏姿勢はこのアルバムでもめちゃくちゃはっきりと貫かれている。ヨーロピアン・ツアーとあるが、ライヴではない。1曲目のマイク・マントラーの時空を突き抜けるような朗々としたトランペット、それを受け継ぐラズウェル・ラッドのいかにもトロンボーンらしいソロ、ドレミファソラシドドシラソファミレドというおちょくったようなフレーズではじまるがそのあと幽玄の世界に突入するカーラ・ブレイの見事なソロ、そのあともう一度ラッドのトロンボーンがフィーチュアされる。リズムが変わってエルトン・ディーンのアルトが咆哮する。後半は前半とはまたちがった雰囲気でガンガン盛り上がる。本当に充実の一曲だ。2曲目はマントラーが無伴奏で吹くトランペットのリズミカルなパターンにほかの管楽器が絡んでいくイントロから、いろいろな要素が詰め込まれたテーマ(4+2)がはじまり(ちょっとギル・エヴァンス的な感じもある)、ベースのパターンに乗ってエルトン・ディーンがグロウルしながらフリージャズ的な演奏をぶちかます。このときのテリー・アダムスのバッキングもかっこいい(このピアノをカーラだとする意見もあるが私にはよくわからんです)。続くボブ・ステュアートのチューバソロではカーラ・ブレイのオルガンのバッキングが渋い。そのままエレベとオルガンがからみながら進んでいき、マイク・マントラーのリキの入ったソロになるが、これもかなり個性的な演奏で超カッコいい。3曲目は2ビートでテナー(たぶんゲイリー・ウインド)やトロンボーンがラフな感じのソロをする。めちゃくちゃすばらしい。4曲目は「星条旗よ永遠なれ」を短調にしたパロディではじまり、軍隊の行進を思わせるようなブラスバンド的曲調になっていく。こういう諧謔はカーラも噛んでいるチャーリー・ヘイデンの「リベレイション・ミュージック・オーケストラ」やレスター・ボウイなどを連想させる。いろいろなモチーフが出ては消える。しかし、この曲のアレンジは最高ですね(途中で声を出してるのは誰だろう)。このマーチングのドラムが、うーん、アンドリュー・シリルとは驚くしかないです。エルトン・ディーンのフリーキーなソロが盛り上がりかけたとき、後ろでオケがかぶっていくあたりも鳥肌たつ。そこから曲調が一変し、ジョン・クラークのホルンが美しい音を聴かせ、重厚なアンサンブルがはじまる。このあたりのアレンジもまさに天才的だと思います。何度聴いても聞き惚れる。ラズウェル・ラッドのルバートでの絶妙のソロもすばらしいし、ゲイリー・ウインドのソロもかっこよすぎる。最後にお祭り騒ぎ的なパートに雪崩れ込むとみせかけて、バシッと途中で終わるあたりも、なにかの主張がありそうで、すごいと思う。
 どの曲も、「このアルバムでいちばんいい!」と言いたくなるほどすばらしい演奏ばかり。最小限の人数でこの成果をあげたカーラ・ブレイには心底脱帽。そういうところはミンガスの、たとえば「黒い聖者と罪ある女」を思い浮かべたりする。このひとのすごいところは、とにかく「人選」やなあ。このアルバムでも、ちょっと驚くようなメンバーを採用し、組み合わせて、とんでもない音楽的成果を生んでいる。天才だ。エンターテインメントとシニカルな諧謔精神、皮肉、毒、主張などが決して相反するものではない、ということを教えてくれた大傑作であります。