piero bittolo bon

「THE SAUNA SESSION」(LONG SONG RECORDS LSRCD 132/2014)
PBB’S LACUS AMOENUS

 ピエロ・ビットロ・ボン(と読むのか?)というアルト奏者のことはまったく知らなかったが(アルトなので)、札幌のJOEさんが推薦してくれたので購入してみたら、なんじゃこれめちゃめちゃおもろいやないの。このアルバムは、おなじみのピーター・エヴァンスをはじめ、ギター、チューバ、ドラムというクインテット編成なのだが、リーダーだけでなく、エヴァンスもギターもとにかく全員大活躍で、リーダーが出てこない場面もたくさんあって、本当に全員対等な立場での演奏に聞こえる(トランペットが若干突出気味ではあるが)。みんなすごい才能だよなーと素直に思います。とくにギターのひとはすばらしい(男性らしい)。チューバも随所でガンガン出てくるし(とくに6曲目とか。でもほかでの効果音的な使い方もすっごくかっこいい)、ドラムもええセンスしてます。たぶん私が知らないだけ、もしくは聞いたことがあっても名前を覚えていないだけで、皆すごく有名なのだろうな。でも、そういう彼らをまとめあげてこの演奏を作り上げたピアロ・ボンはすごい。アルト吹きとしても傑出していて、音もフレーズもパッションも私の好みのタイプなのだった。4曲目の「回転するチューブでどうやってピーター・エヴァンスを殺すか?」というむちゃくちゃなタイトルの曲でのトランペットとのバトル(?)や、6曲目での無伴奏ソロからのこれもエヴァンスとのデュオあたりで「あー、うまい!」と感嘆します。でも、本当に聴くべきは全体の音楽的な流れで、これはもう、おもしろいことを大量にぎゅーっと詰め込んであって、それがジェットコースターのように目ぐるしく移り変わっていくさまは、圧倒的な音楽ドラマだと思う。玉手箱っちゅうかおもちゃ箱っちゅうか……いや、もうヘンリー・スレッギルのようなとんでもないやつとちがうやろか。1曲目は集団即興っぽくて、おもしろいけどわりと普通だが、2曲目から加速度的に変態になっていく。途中で思わず、うーん、これはすごいなあと声をあげてしまった。それぐらい才能を感じた。こういうのっていわゆる「現代ジャズ」なのか? 例の本には載ってるのか? ネットで調べても、がっつり取り上げてるのはJOEさんぐらいでは? とにかくめちゃめちゃおもしろいのでぜひ聴いてみてください。ジャケット等も秀逸。

「MUCHO ACUSTICA」(LONG SONG RECORDS LSRCD 120/2011)
PIERO BITTRO BON & HIS ORIGINAL PIGNETO STOMPERS FEATURING JAMAALADEEN TACUMA

 大傑作だと思う。サックス、ギター、エレベ、ツインドラムという5人編成だが、ベースがジャマラディーン・タクーマというのがポイントで、このひとが徹頭徹尾弾いて弾いて弾きたおすのだが、ほかのメンバーがそれを食うぐらいの熱演・怪演・暴演で、とにかくたいへんなことになっている。といっても、むちゃくちゃな演奏ではなく、構成もコンポジションもしっかりしているし、個々の演奏もあらゆる意味でのテクニックを尽くし、音楽性を尽くしたストレートアヘッドなものなのだが、そういうなかでの熱気あふれるプレイが計算を越え人智を超えどんどんこちらのインプットの許容範囲を超えて行き、ついには凄まじい世界を作り上げ遥かな頂に達する……という、音楽としてはもっとも理想的な形のひとつにたどりついている。冒頭からタクーマのベースが爆走し、ギターが呼応し、ツインドラムが爆発し、アルトもしくはバリトンがメカニカルなフレーズ、スクリーム、フリー、歌い上げなどおよそサックスで考えられるかぎりのバリエーションを躊躇なく吹きまくり……ああ、もう快感。一曲一曲はそれほど長くないのだが、一曲のなかにさまざまな展開を詰め込んであり、それがつぎつぎと紙芝居をめくるように、いや表現が古いか、スライドショーを見せるように、これも古いか、とにかく場面展開がすごくて、一曲聴きおわるとかなりの長尺の演奏を聴いたみたいにへとへとになる。この濃密さはすごいよ。私はカルロ・アクティス・ダートのアルバムを連想した。ダートの演奏を、ファンクリズムやエレベによる音楽性に移し替えるとこんな風になるかもな、とも思ったりして。あ、どっちもイタリアか。もしかしたらマジでなんらかの影響があるのかも。スティーブ・リーマン的なものやティム・バーン的なものも感じるが、この渦巻くような狂気と熱気はM−BASEにはあまり感じない質のものだ。まあ、それはさておき、こないだ聴いたサウナセッションというのも凄まじい演奏だったが、あれはピーター・エヴァンスの力もかなりあるよなあ、と思っていたが、本作を聴いてますますこのボンというひとに惚れ込みました。ギターのひとだけは同じで、このひともめっちゃ才能あるわー。最近、タワーとかの現代ジャズの新譜コーナーに行くと(フリージャズの新譜コーナーなんか存在しないもんね)、アルトのひとの新譜はどれもこれも良くて、へえー、こんなひとがいるのか、すげーなーと思うのだが、逆にテナーのひとはみんな、空間を意識した演奏というか、浮遊感のある演奏というか、そういう感じで、悪くはないけど、突き抜けるような個性とかほとばしるような激情……というタイプのひとはあまりいないし、新しいことをやっているようでどうしても古いジャズの尾をひきずっているような演奏が多い(それがテナーの宿命かも)ように思うが、そういう現代ジャズのひとたちはさておき、このピエロ・ビトロ・ボンやペーター・ヴァン・ハフル、吉田野乃子といった、ややフリー系のアルト奏者たちはものすごい才能がいっぱい出てきて、うれしいかぎり。そっちの方面でがんばっているテナー奏者についてもいいひとがいたら教えてほしいものです。

「JARUZELSKI’S DREAM」(CLEAN FEED CF211CD)
JAZZ GAWRONSKI

 ポーランドのヤルゼルスキーをジャケットに使った、タイトルも「ヤルゼルスキーの夢」という、政治的なプロパガンダなのかと思えるアルバムだが、聴いてみたところでは、ただただひたすらかっこいい演奏の連発である。バンド名になっているGAWRONSKIというひとについては知らない。イタリアのひとなのか? なにかのギャグなのか? とにかく、内容はこれまで聴いたピエロ・ビトロ・ボンのアルバムのなかでは一番シンプルな編成で、それだけに彼のアルトのすばらしさが堪能できる。いやー、これもめちゃくちゃ気に入りました。ベースが全編にわたってかなり自由に動き回り、それがアルトと微妙にずれることで大きな世界ができあがっているように思える。しかも、全体としてはものすごくリズミカルなグルーヴがあるのだから、3人ともよほどの手練れだろう。狙っている音がめちゃくちゃハイレベルなのに、非常にポップで、感心するしかない。ダンサブルでファンキーでフリーキーでプログレで……まあ、極楽の音楽ですね。主役のボンは、同じフレーズの反復やリズミックなブロウだけで、超個性的なフレージングを作り出し、この奇妙なトリオをぐいぐい引っ張っていく。全曲、コンポジション、演奏ともに良かった。彼が本作で使用している楽器はアルトサックスとスマートフォン(!)らしくて、三曲目にはいってるカリカリカリカリ……という音がそれなのか? とにかく一曲のなかでいろんな場面が詰め込まれていて、しかもそれが躊躇なく、一心不乱で潔いので、その充実度は半端ない。まるで3人のパーカッションがいるような演奏や、完全フリーな部分や、現代ジャズ的な演奏、ストレートアヘッドなパワージャズ……など、バラエティ豊かで聞かせどころも多い。M−BASEのようにぐねぐね、ぐずぐずしている感じもなく、ぎょえーっという咆哮の快感も心得ている。奏法もきわめて多彩で、14曲目の女性の悲鳴のように聞こえる延々と続く部分はマウスピースだけで吹いているのか? ベースもドラムもすごいが、なんといっても彼らをまとめあげているリーダーであるピエロ・ビトロ・ボンのボンなのに非凡な才能が突出している。どの曲でも、ひたすら感心しながら聴いておりました。すごいひとがいるもんだなあ。ジャケットだけ見たらぜったいこんな演奏だとは思わんだろうな。傑作です。

「OHMLAUT」(EL GALLO ROJO RECORDS 314−51)
PIERO BITTOLO BON JUMP THE SHARK

 これまで聴いた3作品はどれもめちゃくちゃ気に入ったピエロ・ビットロ・ボンの新作。もちろん(と言ってしまってもいいと思う)期待は裏切られることはない。いやー、音楽的に高度で、テクニックもばっちりなのだが、それらがすべてこの変態的な音楽に奉仕していると思うと泣けてくるというか笑けてくるという感動するのだ。今回はスーザ&トロンボーンのひととヴィブラホンがめちゃくちゃええ味を出しており、しかも、どの曲もアレンジが相変わらず涙が出るほどかっちょよくて(アレンジだけぼんやり聴いていても楽しいのだ)、やっぱりボンはすばらしい。今年来日するといってたけど、ほんまかなー。来年の1月には来てほしいなー。ボンと正月が一緒に来る、というやつで……とか言ってる場合ではない。シンプルかつグルーヴしまくりのドラムも、バンドの変態性をぐっと持ち上げているギターもいい感じ。ベースは目立たないが、じつは大仕事をしていると思う。トロンボーンとスーザのひとは、アンサンブルにソロにベースラインにと大活躍だし、ヴィブラホンはこういう音楽だとときにはノンシャランな感じになってしまうがこのひとはそういうことは一切なく、このサウンドには必要不可欠になっている。メンバーにしたうえからはとにかくひたすら使いまくれ、というのがボンのポリシー……なのかどうかはしらないけど全員休みなく働かされていてご苦労さまである。いやー、しかし楽しいし面白いなあ。当分はピエロ・ビットロ・ボンの活動からは目を放せない。なんど聴いてもいろんな発見がある。つまりそれぐらい仕掛けが詰まっている。個々の曲について語り出したらめちゃくちり長くなってしまうのでやめときます。とにかく一曲ずつまるで性格がちがう曲調だからなあ。軽快でスカスカに聞こえるがじつは相当濃密な傑作。

「SUGOI! SENTAI! GATTAI!」(EL GALLO ROJO RECORDS 314−27)
PIERO BITTOLO BON JUMP THE SHARK

 ジャンプ・ザ・シャークの新譜が出たので注文したけど、延々待っても送ってこない。しかたないから旧作を聞き直したのでレビューすることにした。ピエロ・ビットロ・ボンは今年来日の噂(というか本人がそう言っていた)があったのに来なかったが、彼はクリス・ピトシオコス、吉田野乃子らと並ぶ世界の若きアルトの雄であると思う。アルト界の活況は、ティム・バーン、マーティー・アーリッヒ、トーマス・チェイピンらが若手としてぶりぶりいわしていたころに匹敵する豊作状態で、フリー系でも正統派ジャズ系でもその他でも、ちょっといいサックスが登場したなあと思うとたいがアルトなのである。テナーもがんばってね……というような愚痴はまあ置いといて、このジャンプ・ザ・シャークバンドというのはチューバとヴィブラホン、ギター、ドラムにサックス……というちょっと癖のある編成だが、それを目いっぱいいかした音楽が詰まっており、強烈なソロイストであるボンが作曲やアレンジ、アンサンブルなどにも強い関心があることがわかる。これは最近のアルト奏者(というかミュージシャンみんな?)の特徴でもあり、ひたすら即興だけにまい進するとか、フリーしかやりません、とかそういうことではもう自分の表現が全部できないわけで、すべてを自己表現の機会ととらえているのだと思う。それこそ自然な状態ですよね。で、本作は前作の「ウムラウト」からトロンボーン〜チューバ(スーザホン)のひとが抜けた5人編成で、ハモンドオルガンとボーカルが一曲ずつゲストで入る。曲はどれも考え抜かれていて、めちゃかっこいい。そして、アルトとギターは双子のように呼応しあう、というのも前作と同じ。エレクトリック色の強いギターに対して、ヴィブラホンのアコースティックさがなんともいえない好対照となっている。アルトはハッチャキなブロウでガンガンいくが、よく聴くと、フレーズはもちろんのこと、音色からピッチからアーティキュレションから……隅々にまで気が配られていることがわかる。つまり、めちゃくちゃ上手い。スピード感がものすごくある演奏なのだが、それだけではなく、ちょっと表現しづらいが、スピード感と「もっちゃり感」が同居しているような、ええ感じなのである。ひたすら、いけいけどんどんな演奏ではなく、グループ表現として一番心地よいところをちゃんとコントロールしてる。そして、ゲストのふたりがものすごくいい効果を上げていて感動。とくに8曲目に入るボーカルというか女性のヴォイスのひととのユニゾンはめちゃくちゃかっこいい。いやー、早く来日してくれんかなあ。そして、3枚目、早く送ってこいアマゾン。

「BIG HELL ON AIR」(AUAND AU09060)
PIERO BITTOLO BON

 サックス、トロンボーン、チューバにピアノ、ドラムという変な編成であいかわらず凄いことをやってくれる。1曲目はボンのフルートとチューバで奏でられるテーマ(トロンボーンはなんだかわからないノイズを出している)が続くだけの短いプロローグ的な演奏で、この曲のために全体がひとつの組曲のようにも思えてくる(もしかしたら、もともとそういう意図なのかもしれない。ラストにヘンリー・スレッギルの曲が入っているが、まったく違和感なし)。どの曲も、みっちりと作り込まれた魅力的で変態的なテーマとアレンジ(変拍子多し。しかも複数の楽器が別の変拍子をするパターンも)、そして強烈極まりないソロとそれをあおり立てるリズムセクション……という、血沸き肉躍るものばかり。しかも、だれかがソロをしているときもほかのメンバーは休むことなくリフを吹いたり、ややこしいアレンジをこなしたりで大忙しである(トロンボーンもチューバもピアノもドラムも全員めちゃくちゃ上手い。とくにボントロのひとは凄いっす)。一曲一曲に詰め込まれた情報量が多すぎて、ものすごく濃密なのである(こういうのって、私はカルロ・アクティス・ダートのバンドを連想するのだが、イタリアのひとってやっぱり気質が似てるのかなあ……)。すごいのは、そういうふうにテーマは変態的、アレンジはがっちりしている……にもかかわらず、全体にものすごく自由でいきいきした雰囲気があふれかえっていることで、一部の隙もないのに聴いていてものすごくのびのびするのだ。これはすばらしいことではないか。これは想像だが、ボンはきっとひとを驚かせることが好きなのだろう。このアルバムの曲でも、随所に聴いているひとを「おおおっ」とびっくりさせる仕掛け(?)が施されている。そして、さっきも書いたが1曲1曲が濃いので、何度聴いても、こんな箇所があったのか、と感心する。つまり、何度も何度も何度も何度も何度も楽しめるのだ。私が音楽に求める快感のほとんどがここに凝縮しているといってもいい。大げさ? いやいやそんなことないっすよ。タイトルの意味は英語がわからない私にはよくわからないし、ジャケットも可愛いような変態的なような……だが、内容はもうめちゃくちゃいいので、大推薦したいと思います。ピエロ・ビットロ・ボンを聞かずして、なにが現代ジャズか。とにかく楽しいし、わくわくするし、めちゃくちゃ濃厚で深い。みんな聴いて聴いて聴いてっ! 傑作! とはいえ、これがボンの最高傑作というわけではなく、おそらくこのあともどんどん進化・深化していって我々を楽しませてくれるのだろうと思うと怖いような気がするぐらいである。ゴー、ゴー、ピエロ・ビットロ・ボン!