robert bonisolo

「OPEN THE CAGE」(ALMAR RECORDS 009−07−07)
ROBERT BONISOLO

 まーったく名前を知らなかったひとだが、ディスクユニオンの紹介文を読んで興味を持ち、どうしようかなー、と思っていたところ、梅田の某店で見つけたので思わず買ってしまった。そして、聴いてみて、なるほどディスクユニオンの紹介文に嘘はなかった、と納得した。じつはこういうことってなかなかなくて、たいがいは、紹介文というかあおりの文章を自分のなかで咀嚼して、売り手側の意図を足したり引いたりしながら、まあこんなところかな、と着地点を決めるわけだが、今回はまさにそのとおりであった。長いけど、勝手に引用させてもらおう。「90年代にアントーニオ・ファラオの名盤『EXPOSE』(伊DDQ/SOUL NOTE)で主役食いとも言える豪快なブローを聴かせ、欧州ジャズ界の注目をさらった伊オリジン〜カナダ籍のボニソーロによる、待望の初リーダー作(2009)。バークレー卒業後、伊フェッラーラでクラシックを修士、話題沸騰のマックス・イオナータ(ts)が師事したことでも知られるが、その後際立ったレコーディング機会に恵まれることもなく、GERARDO FRISINA『JOIN THE DANCE』(2010 SCHEMA)で久々にその名を表舞台に知らしめたボニソーロの積年構想の自己名義作は、ピアノレスによってもたらされる音楽的開放感をもとに、スタンダードなサウンドを基調としつつも、文字通りデコンストラクティブな現代のテナー・マナーを体現した最先端のサックス・アルバム。恩師ジェリー・バーゴンジにも匹敵する、欧州随一のブ厚いテナー・トーンを堪能いただきたい」…………どうです? ここまで書かれたら聴いてみたくなるでしょう? これを書いたひとはだれかわからないけど、名文だと思う。つまり、あのマックス・イオターナの先生であり、ジェリー・バーゴンジの弟子なのである。私が聴いた印象では、たしかにバーゴンジ的な、中期コルトレーン的フレーズの使い手であるが、バーゴンジがグロスマンのような荒さを個性としているのに比べ、もっときっちりしているような感じ。言い方は悪いが、バーゴンジより「上手い」印象。音色が上から下まで一定で、太く、楽器が鳴っていて、アーティキュレイションも完璧で、スケールを均一に心地よく吹くスキルがあり、70年代的モーダルなフレージングを基盤にしているが、ビバップ的な演奏もめちゃめちゃうまい。こういうテナーは私のツボだ。バーゴンジというより、昔のボブ・バーグなどを連想する。なんだ、そんなテナーなんていっぱいいるやん、と思うひともいるだろうが、じつはそうでもなく、ジョシュア・レッドマンとかブランフォード・マルサリスもちょっとちがう。クレイグ・ハンディ、ラルフ・ムーア、デイヴ・シュニッター、ラルフ・ボウエン……いやいや、もうちょっとアブストラクトかなあ。きわめて個性豊かで、いわゆる教育者的な淡泊で没個性なタイプでもないし、メッセンジャーズの最後期に続出したなんでもできるけどなんにもできないテナーとも全然ちがう。(何遍も書くけど)表現にもすごい個性があるし、音も個性的で、アイデアも明確で(ジョー・ヘンダーソンのように、一筋縄ではいかぬ複雑なアイデア!)、いわゆるスクリームもできるし、8分音符をひたすら並べ立てるだけで聴き手をノックアウトするようなバッピッシュな演奏もすばらしい。低音の出し方が軽くなく重くなく、びしっとしている点も好きだ。まあ、これだけ人材の多いジャズテナー業界で生き残っていくのはたいへんだとは思うが、それにしても過小評価すぎる。本作が初リーダー作というのは信じられない。このすばらしいアルバムによって、正しい評価が与えられていくことを祈る。ライナーには、なんとリーブマン、バーゴンジ、パット・ラバーベラという偉大な3人のテナージャイアントが熱い讃辞を送っているが、それも当然といえば当然である。すばらしいアルバムなので、ぜひ聴いてみてください。