「CLASSIFIED:REMIXED AND EXPANDED」(ROUNDER RECORDS 0011661917521)
JAMES BOOKER
眼帯をしたピアニストで、アル中、ヤク中、精神疾患……と、チャーリー・パーカー的な伝説で彩られたひとだが、正直、音楽はそういう暗さとは無縁だ。しかし、その奥底にあるものは「哀しみをめちゃめちゃかっこよくアレンジして演奏してる」といえばいいのか、そういうものもちらりと感じる。聴いたことがないというひとはただちにCD屋に行くべきだと思います。偉大なジェイムズ・ブッカー。本作はラストレコーディングでしかもリミックスされて音がよくなっているうえ、なななんと未発表が9曲も追加になっているということてこれは聴くしかない。あいかわらずピアノはすばらしく、左手強力、右手ファンキー、ボーカル艶めかしい……というわけでほんといいなあ。ときどきリズムがヨレたりつんのめったり指がもつれたりする瞬間はほんの少しあっても、それさえもなんだか楽しいし、彼の音楽が生々しく聴こえることにつながるのでなんら気にならない。めちゃくちゃテクニシャンで、すべてのリズムを自分で作り出している感じ。ピアノソロの曲もたっぷりあるが、基本的にはバンドで、テナーのアルヴィン・レッド・タイラーが入っている曲もある(ニューオリンズでサックスといえば、このひとかリー・アレン)。このレッド・テイラーのファンキーでエロいサックス(音は細いけど、ええ音なんですなー)がもう最高であります。曲は、ブルースあり、ニューオリンズもの(ロングヘアメドレーとか)あり、R&Bあり(レイ・チャールズとかプレスリーとか)、スタンダードとか(「エンジェル・アイズ」最高!)なんでもありで、スヌークス・イーグリンにしてもこのひとにしても歩く音楽辞典というか、レパートリーの広さに驚くが映画音楽まであって、「ワルソー・コンチェルト」とか「ゴッド・ファーザー愛のテーマ」(!)とか。もうあまりに凄いのだが、本作を録音する直前に倒れて、奇跡的に完成したアルバムだというのを聞いてビビる。そんな雰囲気は微塵もない。いや……絶頂期に比べれば……というひともいるかもしれないが、予備知識なく本作だけ聴いたら、やっぱりすごいですよ。
「AT ONKEL PO’S CARNEGIE HALL」(DELTA MUSIC MEDIA/NDR N77061)
JAMES BOOKER
例のヨーロッパのカーネギー・ホールでの録音シリーズの一枚だが、ジェイムズ・ブッカーが登場するとは正直思ってもいなかった。ウディ・ショウやエルヴィン・ジョーンズ、最近ではカウント・ベイシー・オール・スターズやマイケル〜ランディ・ブレッカーのライヴ録音が出ているのは知っていたが、ジェイムズ・ブッカーのソロが録音されていたとは……。調べてみると、ジョニー・ギター・ワトスンやアルバート・コリンズといったブルースマンたちの録音も上梓されているのだった。しかし、そういうなかでもジェイムズ・ブッカーのソロとなればこれは貴重である。というわけで聴いてみたら、めちゃくちゃ凄かった。ライヴで、ゲキ熱の演奏であり、ブッカーファンにはおなじみ曲が並ぶ。しかし、同じ時期の同じ曲をほかのアルバムで聴いてもまったく「同じ」ではない、生きもののようにそれは違ったものなのだ。私が思うすぐれたミュージシャンは、毎回CDと同じ演奏をするひとではなく、そのときそのときのノリでその曲を弾いてくれるひとであり、その意味でブッカーはまさに「即興演奏家」といえる。どの曲もブッカーの集中力とノリがすごくて圧倒される。左手でリズムを刻んでいなくても、ボーカルがリズムを担当し、右手が奔放に弾きまくる……みたいな神技がごく当たり前のように行われているのだ。4曲目のボーカルの凄さ、5曲目のイントロのファンタジーからブギウギになるあたり、6曲目のスローブルースかと思わせておいてノリノリの「ロッキン・ヒューモニア……」がはじまるその左手の強力さ、パーシー・メイフィールドの曲での弾けまくる右手の凄さ、まさにニューオリンズピアノそのものな8曲目(ファッツ・ドミノ)、イントロのすばらしさとそのあと出てくるボーカルの完璧な溶け合い具合に慄然とする9曲目「ノー・バディズ・ビジネス」、12曲目の右手のキラキラした弾きまくりのえげつなさ、13曲目、出たーっ! という感じの「ジュンコ・パートナー」での強烈極まりない左手……などなどなど、とにかく全15曲が聞きどころ満載で、たぶんこれを目のまえでライヴで聴いていたら終わったときには椅子から転げ落ちているだろうと思うぐらいのポテンシャルの演奏ばかりである。この音源が残されていてこうしてCD化されたのは本当にすごいことだ。録音も生々しくて最高で、目のまえでブッカーがピアノを弾き、歌っているようだ。なぜか14、15曲目が曲リストから外れているがこのあたりはよくわからない。単なる誤記か? ラストの「ロンリー・アヴェニュー」だけドラム(?)が入っているような気がするが、ブッカーが足でなにかを蹴飛ばしているのかもしれない。傑作!
「JUNCO PARTNER」(HANNIBAL RECORDS/RYKODISK HNCD 1359)
JAMES BOOKER
大傑作。名盤。最高。どんなに賛辞を費やしても言い尽くせないぐらいすばらしい。天才というのはこういうひとのことを言うのだろうと思う。初リーダーアルバムだが、ニューオリンズ音楽の延々の金字塔である。日本語ライナーノートは本当にすばらしく、これを読めばブッカーの伝記からなにからいろいろなことがわかるので必読である。ブッカーが自分のことを語るプロフィールの部分などはもう涙なくして読めまへん! 1曲目いきなりショパンの曲の強烈なブッカー流解釈からはじまり、そこからニューオリンズの豊穣な世界へとなだれ込んでいく。オールドスタイルのジャズあり、ストライドピアノあり、ベイシーやライオネル・ハンプトン的スウィングあり、ブルースあり、R&Bあり、クラシックあり、ジャンプミュージックあり、ポップスあり……ああ、それらがピアノでたったひとりのミュージシャンによって奏でられるのだ。プロフェッサー・ロングヘアも天才だと思うが、ジェイムズ・ブッカーはもっとべつの意味の、ギリギリの天才なのだ。つまり、この楽しく、力強く、最高のエンターテインメントにはつねに「天才を紙一重で乗り越えて、あっち側にいってしまいそうな」という危機感がつきまとっている。ヤバい。そう形容するしかない。バド・パウエルやグロスマン、チャーリー・パーカーなどにも若干通じるところがあるようなぴりぴりしたヤバさ。結局、この感じに取り憑かれてしまうのだろうな。たぶん一生ジェイムズ・ブッカーの演奏を聴き続けると思う。知ってしまった以上は聴くしかないのだ。そんなことを思わなくても、単に楽しい、かっこいい、バカテクでノリノリの音楽として聴くのもアリだが、そんなことを言いながら聴いているうちに、きっとあなたもブッカーの演奏に侵食されていくのだ。なお、タイトルの「ジャンコ・パートナー」というのはドクター・ジョンなどでもおなじみの曲だが、「ヤク中のダチ」みたいな意味か。ニューオリンズの曲にはヤバい歌詞のポピュラーヒットが多いな。この曲も内容とはかなりかけはなれた明るいリズムのノリノリの曲。とりあえず最初はなんにも考えず、素直に聞いてみてください。そのあとどうなっても知らんけどね。