「GO TELL ON THE MOUNTAIN」(SILKHEART RECORDS SHCD−114)
BOOKER T.TRIO
ブッカーTというひとは、その名前からあのブッカーTアンドメンフィスのオルガンのひととよくまちがわれるのではないかと思うが、こっちはブッカーT.ウィリアムスというフリージャズのテナー奏者。サイドで入っているのは何枚か持っているのだが、リーダーアルバムはこれしか持っていないし、ほかにあるのかどうかも知らない。本作は出てすぐに(20年ぐらいまえだ)、たしかデヴィッド・ウェアの同じくシルクハートの新譜とともに三ノ宮の「JR」というフリージャズ(ほぼ)専門のレコード屋で買ったのだが、めちゃめちゃよくて、びっくりした。それ以来、このグレイトなテナーマンがどんどん有名になっていくのを見届けようと思ったのだが、まるで有名にならないどころかこの一枚しか入手できぬまま、どないなっとんやろなあとずっと思っていた。調べてみたが、本作のライナーにもほとんど経歴らしいものは書かれていないし、ネットでもよくわからないが、どうやら最近もちゃんと活動しているらしいし、どうやら日本にも来たことがあるようなことを書いてあるページもあり(どんなメンバーでいつ来たのかなあ……)、謎のひとだ。まあ、とにかく本作はドラムに大物のアンドリュー・シリルを迎え、ベースのサヘブ・サービブとともにピアノレストリオで豪快にテナーを吹きまくっている(一曲だけアルトもあり)。表題曲はゴスペルっぽいがブッカーTのオリジナル。だが、この曲名からわかるように、全編フリージャズ的絶叫系ゴスペルアルバムのようなおもむきで、最後に突然「セント・トーマス」が入ってるのがすごく変に感じるほどだ。基礎が非常にしっかりしているひとのようで、音もぶっとく、上から下までよく鳴っているし、スクリームしてもめちゃかっこいい。つまり……そうなのだ、デヴィッド・ウェアに似ているといえば似ているのだった。ウェアものちに「ゴスペライズド」というゴスペル+フリーのアルバムを作ったが、そのあたたも似ている。もちろんフリー系テナーがゴスペルをやるというのはアイラーが先駆者なので、どちらもそのあたりを意識しているのだろうが、これはあくまで想像だが、ブッカーTがいまいちシーンで大活躍しなかったのはウェアがいたからかもしれないなあと思ったり、いやいや、そうではなくて単に引っ込み思案なだけかも、と思ったり、イラストレーターも本業としてやってるらしいからそっちが忙しいのかなあと思ったり(ホームページで見れます)……とまあ、いろいろ想像させられるほど、私としては気に入ってるひとである。さて本作だが、1曲目、2曲目が彼のオリジナルで、3曲目はマイナー系のトラディショナル。4曲目は童謡の「シャーボン玉とんだー」に似てるのんきな曲。5曲目はたぶん讃美歌の「いつくしみ深き友なるイエスは……」というあの曲(曲名は知らん)をブッカーTがものすごくアホみたいな曲調にアレンジしたもので、こういうのを聴くと、あんたほんまに敬虔なクリスチャンかいなと疑いたくなるほど笑えるアレンジ。そして最後が「セント・トーマス」……と全6曲、かわらぬ熱さで楽しませてくれる全力投球のアルバム。冒頭にも書いたが、本来はブッカー・T・ウィリアムズなのでWの項に入れるべきだとも思ったが、本作をはじめ主要な参加作で上記の芸名(?)になっているので、一応便宜的にBの項にいれてあります。