「SEVEN REASONS FOR TEARS」(AGARIC RECORDS AGARIC1993)
BORBETOMAGUS
ボルビトマグースは、やたらとアルバム数が多くて、なにを聴いたらいいのかよくわからんので、とりあえず新着輸入盤のコーナーにあったこのアルバムを買ったら、1987年録音の作品だった。しかし、内容はやたらとかっこよく、ダウトからアルバムを出しているジム・ソウターと、もうひとりのサックスのドン・ディートリッヒにドナルド・ミラーというトリオが基本編成だが、このアルバムではベースが入ったカルテットとなっている。ふたりのサックスがエフェクターをかけたノイジーな音を吹きまくる。それはフリージャズのようにフリーキーな音色や音使いで演奏する、というより、エフェクターがかかった状態でのノイジーさにすべてを賭けているので、フレーズがどうのこうのというより、最終的にアンプから出た音がいかに歪んでいるかが大事なのだろう。ギターでわざとハウリングをさせたりといったノイズミュージックの手法に近いことをサックスをベースにしてやってしまおうというのが、このひとたちの頭のぶっ飛んだところであって、結果として非常にオリジナリティのある、コンセプテュアルな音になる。ここまでいったら、サックスでもギターでもサンプラーでもトランペットでも一緒やろう、という気持ちにもなるぐらい、とことんまで歪んだ音である。しかしですね、よく聴くとやはりサックスの生音というものがそこかしこに見え隠れしており、それがええ感じなのである。やっぱりこれはサックスでないとできないノイズなのだ。ウィキペディアによると彼らが「ベルス・トゥギャザー」と呼んでいるテクニックがあって、それはアンプリファイアドしたサックスのベルを演奏しながら向き合ってくっつける、ということらしい。そうやってハウらせたり音も歪めたりしてるのだろう。アホですな。まあ、なんにしても頭のおかしいひとたちで、ほんとすばらしいですよ。
「BOTH NOISES END BURNING」(VICTO CD 106)
BORBETOMAGUS & HIJOKAIDAN
おなじみのグループふたつが合体した、ひたすらノイズ、ノイズ、ノイズなライヴだが、ボルビトマグースにはサックスが2本いるので、それだけでも私はめちゃくちゃ聴きやすく感じる。こういう音楽のこういうセッションについて、ここがいいとか悪いとか細かくいうのはまったく野暮なことだと思うが、やはりエレクトロニクスのノイズの奔流のなかでときどき活躍する(ずっと吹いてるのだろうが、浮かび上がってくる瞬間がある)サックスの音に魅かれてしまう。あとは、演奏が単調になったとき、突然深淵から巨大なものが上昇してくるような低音がかっこいいし、ヴォイスをキャッチしたときはなぜかいつも「がんばっとるなあ」と思う。まき散らされている音のなかにも、耳障りなものと、快感なものがあって、それらがうまくブレンドして、また新しい瞬間を生み出しているというのが、ヒジョーによくわかる(最近ノイズに慣れてきて、そういうことが聞き取れるようになってきたのだ。ライヴに行くとやっぱりわかるなあ)。静かな即興と、こういうやかましい即興と、やる側の方法論はもちろん違うのかもしれないけど、こちらの聴き方としてはなんにも変らない。なるべくでかい音で浴びるように聴き、そのカオスのような音の塊のなかからいろいろなものを探し出し、食いつく。まったく同じだ。とにかくずーっと、頭のうえから慈雨のようにノイズが降り注いでいる状態なので、楽しくうれしく、宗教的法悦さえ感じる。一種のワイドスクリーンバロックみたいなもんですね。何千何万という粒子が衝突しあい、反応しあい、ハレーションを起こしている。そして、ちゃんとインタープレイがあり、全体としての流れもあり、盛り上がりもあり、なおかつそれを阻害したり、断ち切ろうとする動きもある。電化マイルスと同じだ。いや、マジで。