「BLOWS A FUSE」(CHARLY RECORDS CRB1091)
EARL BOSTIC
ブロウアルトの雄、アール・ボスティックのキング録音を集めたチャーリー盤。ボスティックは、おなじみの「フラミンゴ」を高校生のときにラジオで聴いて、はー、こういう音のアルトがおるんやなあ、と感激したが、そののちいろいろとわかってきて、たぶんこのレコードを買ったのは会社に入ってしばらくしたころだったと思う。「ナイト・トレイン」「ハーレム・ノクターン」といった選曲が目につくが、正直、どの曲を聴いても同じなのだ。とにかく本人のアルトがすごい。ひたすらメロを歌い、ダーティートーンでブロウし、「どやっ」という感じ。メンバー的にも、ジョン・ハーディー、カウント・ヘイスティングス、ジャッキー・バイアード、エディ・ベアフィールド(なぜかギターで参加)、アル・ケイシー、ジミー・コブ、スペックス・ライト、ブルー・ミッチェル、ミッキー・ベイカー、スタンリー・タレンタイン、トミー・タレンタイン、ジョージ・タッカー、ジョニー・コールズ、ベニー・ゴルソン、バーニー・ケッセル、アール・パルマー……といったすごい名前が目に付くが、はっきり言ってほとんど意味はない。ボスティックはジャズ的には、コルトレーンが……とかドルフィーが……とかいった文脈で語られるだけで、その一アルト奏者としての巨人ぶりがまともに評価されることはあまりないし、あっても「あのボスティックが正面からジャズに取り組んだアルバム」みたいなものだけが取り上げられ(キング・カーティスとかとそういうとこ似てるかも)、とても悲しい。このひとはたぶん、サム・テイラー、シル・オースティン、ブーツ・ランドルフ、キング・カーティス、ハンク・クロフォード、グローヴァー・ワシントン、デヴィッド・サンボーン……といった系譜の総大将のような偉大なサックス奏者なのだ。ジャイヴというかジャンプ的なノベルティな演奏もあり、音色や演奏スタイル、フレージングなどにルイ・ジョーダンを思わせるところがあるが、ルイ・ジョーダンの方が少し先輩のようだ。チック・ウェブ楽団のリードアルト兼ボーカリストだったルイとライオネル・ハンプトン楽団のリードアルトだったボスティック……影響を与えあったのかもしれない。とにかくアルペジオ的な演奏、フラジオを使った高音部での演奏、そのスピードなど、信じられないぐらいの高度なテクニックがわしわしと詰め込まれていて驚愕するが、そのすべてが「エンターテインメント」としての音楽に貢献しているのがまたすごい。しかし、コルトレーンたちはおそらく(自身ではなんの貢献もしていないとしても)ボスティックの後ろで吹いていたことによって、数々の演奏技術やミュージシャン心得を習得しただろう。どの曲もひたすら心地よいものばかりで(芸術ではなく楽しませるために演奏されている)、B−2などは(おそらく)多重録音によるひとりバトルが行われているのだと思うが、まったく違和感がない出来映えである。早逝したので、基本的には同じようなタイプの曲ばかりが残されているが、もし長生きしたらどんなすごいことになっていただろうと思う。まあ、本作でもいいし、なにかベスト盤のようなものを一枚所持していればいいとは思うが、たまにボスティックを聴くと、サキソホンの可能性はまだまだ無限にある、と思ったりして。リッチー・コールがブーツ・ランドルフと初対面のときに、いかにボスティックが好きかということについて語り合った、というエピソードも聞いたことがあるが、さすがリッチー・コールは「わかってる」のだ。