dollar brand(abudullah ibrahim)

「EKAYA(HOME)」(BLACK HAWK RECORDS BKH50205)
ABDULLAH IBRAHIM

 アブドゥーラ・イブラヒム(ダラー・ブランド)の「ンカヤ」は、メンバーをちょこちょこ変えながら長く続いた(続いている?)大型コンボで、本作がその第一作(なのか?)。南アフリカの音楽を、アンサンブルとソロで表現しようというひとつの舞台であり、プロジェクトなのだと思うが、そういう趣旨はともかくとして、このグループの演奏を聴いて顔をしかめるひとはまずいないだろう。とにかくキャッチーでストレートでわかりやすくしかも適度にアバンギャルドなのである。そういった「締めるところは締めるけどラフ」という、いかにもジャズっぽい空気はリーダーが醸し出しているのだろう。カルロス・ワードのアルト(A3のアルトはマジすばらしーっ。でもフルートはヘタウマな感じもあって好ましい)とチャールズ・デイヴィスのバリサクはめちゃかっこいい。じつはリッキー・フォードというテナーはかなり前乗りで、それにひっぱられてリズム隊が走ることもしばしばなので(今は知らんけど)私は苦手だったのだが、なぜかこの「ンカヤ」でのリッキー・フォードはめちゃ好きなのである。本作でせ活躍しまくっているし、音はいいし、言うことはない。もちろんディック・グリフィンのトロンボーンもいいし、セシル・マクビー、ベン・ライリーというリズムもすごい。でも、個々のメンバーが変わろうが、音楽性がほとんど変わらないというのがいちばんすごい。ダラー・ブランド・マジックですなー。表面的にはものすごくはじけた明るい音楽なので、なーんにも考えずにも聴ける。そういえば、このバンド、大原さんがすごく好きだったなあと今思い出したりして。

「THE THIRD WORLD UNDERGROUND」(TRIO RECORDS POCS9101)
DOLLAR BRAND DON CHERRY CARLOS WARD

 ドン・チェリーのリーダー作と思ってたけど、よくよく考えるとダラー・ブランドのリーダー作なのだろうな。A面は「ドンズ・ソング」という曲(アフリカっぽい)と「チェリー」という曲(ゴスペルっぽい)の2曲で、あわせるとドン・チェリーになる。「ドンズ・ソング」のほうは、ブランドが例によってアフリカンピアノ的な重厚なオスティナートを弾いているなかを、チェリーが身をよじって突撃ラッパのような演奏を繰り広げる。「チェリー」のほうは超シンプルな明るいコードをブランドがひたすら弾くうえで、カルロス・ワードがペンタトック的な(ほぼ)同じフレーズをひたすら吹く。7分45秒あたりで曲調が変わり、祝祭日のような雰囲気になり、チェリーが力強くシンプルなフレーズを吹きまくる。多少、音がよれようがかすれようが関係ない。アイラーの音楽に通じるような、極端に単純化され、しかも聴くひとのハートをつかむ、民族音楽的なパワーに満ちた演奏。たしかにアフリカやニューオリンズの精霊たちがここには集っているかもしれない。B面に移ると、こっちはもうダラー・ブランドの世界。ピアノソロで、5拍子系の呪術的なオスティナートのうえにちょっとファンキーさも感じられるような打鍵が少しずつ形を変えながら盛り上がったり盛り下がったりすることなくほぼ同じようなテンションでずーっと続く。この緊張感をともなった「一息」がすごく長い、というのがなんとなくアフリカ的だと思うのは私だけでしょうか。最後のところでチェリーが急に出てきてちょろっと吹いて、そのまま2曲目に突入する。これもアフリカの祝祭日を思わせるようなリズミカルで明るい曲調。テーマが終わると、チェリーのソロになったり、ワードとチェリーの即興的な掛け合いになったりする。解説の清水俊彦さんはこの部分を、「オーネットとチェリーのコンビを連想させるようなひらめきさえ感じる」という、よくわからない文章で表現しておられるが、私はどっちかというとアイラーとドン・アイラーあるいはドン・チェリー的な雰囲気を感じました。3曲目はアフリカの民謡かなにからしく、ピアノのバッキングにあわせてみんなで歌う。これはただひたすら楽しい演奏。続く、チェリーのトランペットが登場するところからは別の曲らしいのだが、まったく切れ目がないので、同じ曲の続きとしか思えない。そして、一旦終了感があって、3人のユニゾンでテーマを吹くがこれも別の曲らしい。でも、同じをメロディを何回か繰り返すだけで、それで終わりなので、まあ、B面はほぼ1曲と思ったほうがいいかも。

「BUDDY TATE MEETS DOLLAR BRAND」(CHIAROSCURO RECORDS CDSOL−45433)
BUDDY TATE〜DOLLAR BRAND

 全編良い演奏だが、なによりも驚くのは1曲目だ。本作は実質的にはダラー・ブランドのリーダー作だと思うが(制作の経緯からして、ブランド側が「最適な共演者」としてテイトにアプローチしたらしい)、その1曲目にブランド抜きのピアノレストリオをぶつけてきたというのもびっくりである。しかもブランドの作曲なのだ。そのうえ、この曲はこのアルバムのなかで唯一といっていい、アフリカ的なテイストの色濃く出た曲である。それを自身は抜けて、テイトにやらせるというのはすごくないですか。テイトといえば、レスター・ヤングの後釜的にオールド・ベイシーに入団したというキャリアの持ち主であって、まさしくスウィング時代の生き字引というか筋金入りのスウィングテナーである。そのひとが南アフリカから来た、フリージャズにも手を伸ばそうかというアグレッシヴでモダンなスタイルのダラー・ブランドと共演、というのもすごい話だが、その1曲目で、アフリカンモードな曲を完璧にやりこなしてしまう(しかも、何度も言うようだがブランド抜きで)テイトってどれだけすごいねん、と驚いてしまった。このアルバムは、所持していなかったがジャズ喫茶やらなんやらで何度も聴いたことがあったのだが、そのときは「いいアルバムだ」とは思ったけど、1曲目に関してそれほど衝撃は受けなかった。今回廉価で再発されたのを機に購入してみて、はじめて「おお、よく聴くとこれは凄いなあ」とショックを受けたのだ。いやー、あまりにすらすら吹いているのでどんなにすごいことか気づかなかった。テイトにとって、おそらくはじめて挑戦するようなタイプの曲のはずだが、落ち着いてゆっくりじっくり盛り上げていくその貫禄のブロウには、まったく隙がないし、まるで動じていない。年下のセシル・マクビー、ロイ・ブルックスという当時最先端だったと思われるリズムセクションを従えて悠々と吹いている。その吹きっぷりは、とうていテキサステナーのスウィンガーとは思えないモダンさである。いやー、すごいわ、このひとは。だって7拍子ですよ。やっぱり、ちゃんと音楽と真摯に向き合ってきたミュージシャンにとっては、デキシーだスウィングだバップだモードだフリーだ……というようなジャンルは無に等しいのだと思った。すぐれたミュージシャンは世代を超える。いや、時空を超えるといったほうが正しいか。ほかの曲もすばらしいが、それらはどれもテイト寄りの選曲で、スウィングスタイルである。だからこそ1曲目が浮かび上がるのだ。ブランドはもちろん、セシル・マクビーとブルックスもすばらしいサポート。そして、CD化にあたって追加された、当日、バディ・テイトが帰ってから録音されたというピアノトリオの2曲も見事である。傑作。バディ・テイトの名が先にあるが、ダラー・ブランドの項に入れた。

「THE JOURNEY」(CHIAROSCURO RECORDS CDSOL−45448)
DOLLAR BRAND

 随分前に一回だけジャズ喫茶で聞いたことがあって、そのときはすごく面白かった記憶があったので、いつかもっかい聴きたいと思っていたら廉価盤CDが出た。ブランドとしては編成が大きく、エカヤ(ンカヤと読むんじゃないの?)を連想するが、本作はドン・チェリーやハミエット・ブルーイットなどが入っていてメンバーは豪華である。1曲目はコンガではじまる、いかにもアフリカンテイストの明るいリフ曲。思索的ともいえるアルトソロはタリブ・ライニー(TKブルー)か? とにかくひたすらリフを吹き続ける曲。短くて、このアルバムのオープニング的な位置づけか。2曲目は管楽器によるオープニングのあと祝祭日的でリズミカルなテーマ(バリサクが効いてる)のあと突如ブルーイットが荒れ狂うフリーキーなブロウを延々吹きまくる。ジョニー・ダイアニのベースも唸りをあげてブルーイットをサポートし、いきなり本作の最初のクライマックスが訪れる。続くドン・チェリーのソロも激しく八方破れで超かっこいい。アルトソロはたぶんカルロス・ワードだと思うけどわからん。とにかくダイアニのベースが、バッキングにソロに大活躍しており、めちゃくちゃ凄い!このダイアニのベースソロが第二のクライマックスか。そのあとロイ・ブルックスのドラムソロ(かなり派手なパートからフリーなソロに……)。そのあとブルーイットのバリトンを中心にしたフリーな集団即興演奏になる(つまりグチャグチャ)。そして唐突にテーマに戻り、最後の音をサーキュラーで延々吹き伸ばすのを背景にドン・チェリーが訥々とエンディングを先導する。ダラー・ブランドのピアノはまるでフィーチュアされない。3曲目はダラー・ブランドのピアノが5+4のパターンを弾きまくるアフリカン・ピアノ的な曲。このイントロ部分を聴いているだけで血沸き肉踊る。テーマを吹いているのはTKブルーのオーボエなのか? 最初はソプラノサックスっぽかったが、だとしたらダラー・ブランド? でも、ピアノのオスティナートも鳴ってるからなあ。まあ、ここは私のアホ耳では、ピアノ=ダラー・ブランド、オーボエ=TKブルーとしておこう。だれがソロを取るというわけでもない、オスティナートとアフリカンパーカッションとオーボエによるメロディが醸し出す一種の空気感のなかを皆がいろいろつけ加えたり、退いたりしながら音楽を形作っていく。ついでドン・チェリーのソロとなる。大河の流れのようにゆったりと乗るおおらかなソロだ。そしてアルトソロ(カルロスワード?)のあと出てくる楽器はなんだ? ライナーにはオーボエとなっているが、ちがうような気がする。では、なんだといわれるとわからん。民族楽器? そして、やっとピアノソロになるが、呪術的な、やはりアフリカンテイストのソロで、聴いているうちにだんだん音楽のなかに埋没していきそうになる。最後はピアノのオスティナートのうえに、ソロピアノも聞こえるが、これはオーバーダビングなのか? まあ、そういう細かいことは言わんとこ。面白かったです。