roy brooks

「DUET IN DETROIT」(ENJA RECORDS ENJ−7067−2)
ROY BROOKS

 こんなアルバムは知らなかったなあ。ドラムのロイ・ブルックスによる4人の奏者とのデュエット。それぞれ2曲ずつである(全10曲となっているのは、イントロダクションが2曲収録されているため)。デュオ相手はピアノが3人、トランペットがひとりという構成。しかも全員が曲者である。まずは、ランディ・ウェストン。ウェストンなのでアフリカ色が濃い。いや、濃いというか、アフリカ一色の濃厚なスープのような演奏。その名も「ズールー」。いきなり呪術的な左手の低音ではじまり、そこにブルックスのドラムがからむと、情景はいきなり南ア。ウェストンの重量級リズムのピアノはたしかにひとりでオーケストラとドラムをこなせるかもしれないが、そこにブルックスが入ると、やはり沸き立つようなスウィングが付与される。ドラムソロで一旦終了するが、そこからふたたびピアノが登場してエンディング。ふたりとは思えないリズミカルかつドロドロの演奏。かっこいい。2曲目もウェストンとのデュオだが、1曲目とはうってかわった「ワルツ・フォー・スイートケーキ」という可愛らしい演奏。ピアノソロのあと、ブルックスのブラッシュの至芸が聴ける。かなり長いドラムソロだが、歌いまくっているので気にならない。そのあと、間をいかしたふたりのからみになる。エンディングもかっこええわー。3曲目のお相手はウディ・ショウで、まずは「エレジー・フォー・エディ・ジェファーソン」。ひたすら熱く吹きまくるショウがとにかく凄まじいのでブルックスのドラムが控えめに聞こえる。これは83年の演奏でウディ・ショウが絶好調だったころ。ウディ・ショウの生涯のベストトラックのひとつといってもいいかもしれない。タイトルに引きずられたわけではないが、やはり警官に射殺されたというエディ・ジェファーソンに対する慟哭のようなものが伝わってくる。ブルックスはリムショットなどで軽い感じのリズムを提供し、ショウはメロディックなフレーズで応じているが、やはりなんともいえぬ哀しみが感じられる。つづくかなり長いドラムソロも、大きな周期で歌っていて見事としか言いようがない。ショウとの2曲目も「ジェファソ」というタイトルなので、同じ主旨の演奏だろう。こちらのほうが、ブルックスの銅鑼に乗ってショウが凛としたトーンながら哀しみを歌い上げる。続いては、ドン・ピューレンとのデュオで、まずは「フォーエヴァー・ミンガス」。ブルックス自身の曲である。8小節のリフが基本の、ミンガスといえばミンガス、モンクといえばモンクっぽい曲だが、すごくいい曲だ。半分ぐらいいったところでフリーになるが、ドン・ピューレンなので、インプロヴィゼイションというよりとにかくゴリゴリ弾くという感じでめちゃかっこいい。ドラムソロはいかにもジャズといった感じのストレートアヘッドなもの。つぎはピューレンとの「ヒーリング・フォース」という曲。タイトルからはアイラーを想起せざるをえないが、曲調からいうとあまり関係ないかも(もっと泣かせな感じ)。淡々と弾くピューレンのピアノに対して、ブルックスはライヴでよくやるミュージカル・ソウを弾きまくる。いわゆるアルコで弾くやつではなく、「おまえはあほか」形式だと思う。ピューレンのソロは過激なテクニックも交えてはいるが基本的には情感あふれるすばらしい演奏で、ちょっと感涙。そしてラストは先日急逝したジェリ・アレンとのデュオだが、最初の曲はブルックスのスティールドラムがフィーチュアされるへヴィなサンバ。かっこいい。ラストは同じくジェリ・アレンとのデュオで、なんともいえないスタイリッシュな演奏。ジェリ・アレン、かっこよすぎるやろ。途中、完全なフリーフォームになるが、そのあたりのかっこよさも筆舌に尽くしがたい。というわけで、今は亡き3人とあとひとりとのデュオ。全然知らんかったので、感動もひとしお。大推薦いたします。傑作。

「UNDERSTANDING」(REEL TO REAL RECORDINGS RTR−CD−007)
ROY BROOKS

 ロイ・ブルックス・クインテットのライヴ。ロイ・ブルックスがリーダーでウディ・ショウが入っているものといえばミューズの「フリー・スレイヴ」だが、あれはテナーがジョージ・コールマンだった(「「DUET IN DETROIT」というデュオ集でもウディとのデュオが収録されていて、それもめちゃかっこいい)。今回の発掘盤2枚組はカルロス・ガーネットがフロント。ピアノはハロルト・メイバーン、ベースはセシル・マクビー。どう考えてもお宝音源ではないか。1曲目MCにつづいてカリンバの短いイントロがあるが、そのすぐあとに飛び出してくるウディ・ショウの鮮烈で縦横無尽で溌剌としたトランペットはもちろんのこと、それをひたすら煽って煽って煽りまくるブルックスのドラムがあまりにすばらしくて聴き惚れる。ミディアムテンポの1曲目は10分にもおよぶウディの輝かしいソロ(はちきれんばかりの勢いのまま、イマジネーションも尽きることなく吹きまくっており、異常な昂揚感がある)を筆頭に、ハロルド・メイバーンのウディ・ショウとは別角度から攻めてくる豪快で楽しいソロ、セシル・マクビーのフリーリズムで最後まで突っ走るソロなど聴きどころ満載で21分があっという間。ロイ・ブルックスのドラムソロから2曲目に入るが、これがタイトルチューンであり、上記「フリー・スレイヴ」にも入っていた曲。しかも、さっきの21分の1曲目はこの曲への「プレリュード」だという。つまり、両方合わせると42分の組曲(?)ということで、なかなかの体力バンドである。1曲目はものすごくシリアスな雰囲気の曲だったが、こちらはボサ風のリズムで楽しげである。ウディ・ショウのソロは相変わらず快調で、軽快な感じで叩いていたブルックスがついついどしゃどしゃ叩いてしまうような激しいブロウを繰り広げる。そして、1曲目は出番のなかったカルロス・ガーネットが登場し、朴訥なフレーズとフリーキーなフレーズを交互に出すような感じでソロを展開していく。なんだかよくわからないが面白い。ハロルド・メイバーンはさすがの貫禄で落ち着いた調子で華麗に弾きまくり、聴き惚れるしかない。マクビーは本当に個性的なソロで、この曲調でこのソロかよ! という感じでめちゃくちゃかっこいい。テーマのあと全員によるぐちゃぐちゃっとした箇所が長々とあるが、ここもそれぞれの個性が出ていて面白い。メンバー紹介があってそのあとの3曲目はなぜか突然の「ビリーズ・バウンス」で、いきなりブルックスのビバップ的なドラムのイントロからはじまり、かなり速いテンポでの演奏となる。先発はカルロス・ガーネットだがテンポが速すぎるのかアーティキュレイションとかはけっこうへろへろだが、真摯で非常に個性を感じる武骨なソロ。こういうのは好きです。途中からフリーキーな感じになってからはどんどん盛り上がってすばらしい。やはり非凡なひとです。ブルックスも容赦なく煽りまくっていて、凄まじい。つづくウディ・ショウのソロはどこがチャーリー・パーカーやねん、という感じで最初から最後までひたすらウディ・ショウフレーズが炸裂しまくるえげつないソロで、ブルックスのドラムもただただ超激烈で、とてつもないエネルギーを感じる演奏になっていて言葉がない。いやー、これは凄いわ。目のまえで聞いてたら気絶していたかもしれないぐらいめちゃくちゃすさまじい。ハロルド・メイバーンも凄まじいのだが、スピード感はもちろん、このテンポでも歌心を感じさせる本当に最高のソロ。そして、ロイ・ブルックスはピアノが相手でも自分のソロのように大音量で激しいバッキングをしている。そのあとドラムとフロントふたりによるワンコーラス(12小節)ずつのバースになるが、このあたりになるともうブルースだかなんだかわからないような世界に突入している。このとてつもないエネルギーはどこから来ているのでしょうか。その流れでドラムソロになり、めちゃくちゃ正統派だが引きつけられるパワフルなソロ。そのあとテーマになるが、途中かなり走っていたことがよくわかる。この1枚目だけですでに失神状態になっているのに、このあと2枚目があるのか! という感じで必死で身構える。1曲目は……えーっ、「ゾルタン」か! ウディ・ショウファンにはおなじみすぎるような曲である。この曲も超アップテンポでウディ・ショウがとにかくぶっ飛ばす。7分に及ぶ壮絶なソロは、聴いている自分の心臓をぐさぐさ刺してくるような感じである。カルロス・ガーネットもめちゃくちゃハイテンションでフリージャズのテナー奏者か、と思うぐらいアグレッシヴにフリークトーンやトリルを連発していてものすごい。コルトレーンに影響を受けた世代でありマイルスとも演奏をした、ある意味新世代の旗手(?)だと思うが、こういう「場」に立たされて、聴衆をまえにすると、こういったメーターの振り切ったような演奏をする(してしまう)ところが、テナー奏者の身上だと思う。すばらしい。つづくハロルド・メイバーンのソロはどんなにテンポが速かろうと「任せてちょうだい!」という演奏で、なんの心配もない。そして4ビートをびしびし刻みまくるブルックスのシンバルワークにはまったくゆらぎがない。いやー、ジャズですねー(揶揄しているわけではない)。そのあとえげつない8バースが延々とあってブルックスが至芸を見せる。そのあと4バースになり、なんかぐちゃぐちゃになってエンディング(このあたり大好きですね)。この曲も走ったかもな。でも、いいんです。ここで、ショートブレイクになり、2曲目、「トーラス・ウーマン(おうし座の女)」はカルロス・ガーネットの曲で、あの「ブラック・ラヴ」でも演奏している有名曲(ブルース進行)。これがなんと32分以上に及ぶ。ジャズロック的な「時代を感じる」的リズムの曲で、作曲者のガーネットが先発ソロ。とにかくふたつしかないコード上をグジャグジャッ……とひたすらフリーキーに吹きまくる。あとはイマジネーションの世界になるわけだが、単調……といっては申し訳ないが、こういういなたい演奏もブルースを感じて私は好きです。上手い、とか、すごい、ではなく、全身全霊でブロウしているこの時期のガーネットの底力を見た思いがする。続くショウのソロは空間や間を意識しているすばらしい演奏で、急にリズムセクションがいきいきしてきて、ジャズロックからR&B的な、跳ねまくるリズムに移行したような気がする(あくまで「気がする」だけです)。いやはや凄まじい演奏である。ハロルド・メイバーンのソロも「わしゃなんでもできるんやで」的なとてつもないエネルギッシュでモーダルな演奏で、ピアノという楽器をなんと心得てるのや、と言いたくなるようなガンガンガンガン……というソロ。そのあとマクビーのかなり長尺なベースソロがあるのだが、これがまたかっこいいのよ! ビートは8ビートのままなのだがめちゃくちゃいい。そしてめちゃくちゃ長尺のドラムソロになる。28分ぐらいから全員が入ってテーマ。ラストはマイルスのおなじみの「テーマ」でエンディング(ここでのショウの鋭いソロにも注目。。とにかくウディ・ショウとロイ・ブルックスを聴くには最高の2枚組ライヴだと思います。ぜひぜひぜひ!

「THE FREE SLAVE」(MUSE RECORDS/32 JAZZ 32070)
ROY BROOKS

 発掘盤の「UNDERSTANDING」が凄かったので、久しぶりに聴いてみた。こちらは4月のライヴで、上記「UNDERSTANDING」は11月のライヴである。上記とちがうのはテナーがジョージ・コールマンでピアノがヒュー・ロウソンである、という点である。昔から思っていたのは、ジャケットがどうもヘンテコだという点で、ふたつのシンバルのせいでなんだかよくわからん感じになっている。1曲目はタイトルチューンの「フリー・スレイヴ」で、いわゆるジャズロック的な8ビートでワンコードのファンキーチューン(ちょっと変な構成)。ジョージ・コールマンのテナー、ウディ・ショウのトランペット、ヒュー・ロウソンのピアノ。ともにきっちりしたソロ。上記2枚組に比べると、破天荒な部分や刃物で切り付けられるような先鋭的な感じがまったくないので驚く。それが悪いと言ってるわけではなく、歌心あふれる演奏が続くのだが、ライヴなので、もうちょっとはっちゃけてもいいのでは……と思っていると2曲目(上記のタイトルにもなっている曲)。こうして続けて聴くと、この曲もジャズロック風である。というかボサノバか。なぜか上記アルバムにおける演奏に比べると、「ちゃんとしている」感じでもう少し破天荒というか破綻があってもいいのでは……と思ったりした。なぜか(ほんまに「なぜか」という感じで)ラストにドラ(?)が何発か鳴らされるのは面白い。3曲目はセシル・マクビーの曲で、なぜかウディ・ショウがひとりでテーマを吹く。ウディもコールマンもロウソンもすばらしいソロをしているのだが……短い! ライヴなのになー。そのあとドラムソロになり、ブルックスが叩きまくる。そしてマクビーのフリーな感じのベースソロ(めちゃかっこいい)のあとテーマ。ラストは「ファイヴ・フォー・マックス」という、おそらくマックス・ローチに捧げた5拍子の曲。コールマンのソロはへなへなしていてそこがいい感じ。ウディ・ショウはシンプルなブロウを重ねて盛り上げるが、ブルックスも本作では一番どしゃめしゃ煽っている。ヒュー・ロウソンのピアノのバッキングもすばらしいが、そのあとブルックスのソロは音階を上手く使った、本作のハイライトのような演奏。いやー、最高のクインテットですね。

「ETHNIC EXPRESSIONS」(JAZZMAN RECORDS LTD JMANLP 034)
ROY BROOKS AND THE ARTISTIC TRUTH LIVE AT SMALL’S PARADISE N.Y.C. FEATURING EDDIE JEFFERSON AND BLACK ROSE

 よくわからないが、もともとはイム・ホテップ・レコーズというレーベルから私家盤として出ていたものが、日本のブルース・インターアクションズから再発され、それがジャズマン・レコーズというイギリスのレーベルからまた再発された……というような経緯らしい(本当によくわからない)。内容は、73年にハーレムで行われたアフリカンミュ―ジックのフェスティバルに出演した大編成(13人編成?)のロイ・ブルックスバンドの演奏を収録したもの……のようである。フロントがソニー・フォーチュン、ジョン・ステイブルフィールド、セシル・ブリッジウォーター、ハミエット・ブルーイット、オル・ダラ……とものすごいが、リズムセクションもえげつないぐらいすごい面子である(ピアノにジョー・ボナーとヒルトン・ルイツ、ベースにレジー・ワークマンなどなど。ウディ・ショウがいないのが不思議なぐらいである)。そして、2曲にエディ・ジェファーソンがボーカルで参加していて、当時のハーレムの音楽シーンを支えていたのはこういうひとたちだったのだなあというのが間近にわかる。フランク・フォスターやクリフォード・ジョーダンらが行っていた無料コンサートなどにも通じるものなのだろうな。「エボネス」(エルヴィンの「ローンチ・リタ」みたいなベースラインのモーダル曲)という曲でボーカル(というかラップ?)を取っている女性はシスター・ブラック・ローズというひとらしいが強烈である。濃厚で、リズムを強調しまくった演奏ばかりだが、ソニー・フォーチュンが全編バリバリに吹きまくっていて、もうひとりの主役といっていいぐらいの活躍だ。フォーチュンにかぎらず、ソロイストは皆熱い。残念なことに、フロントの音量がかなりオフに録音されていて、もうちょっとまえに出てきてほしかったが、その分、ロイ・ブルックスのドラムはしっかり聞こえる。めちゃくちゃ凄い、というかエグい。かっこいい。とにかくかなり「濃い」ひとたちによる濃い演奏で、そのグルーヴに溺れる。同じくハーレムで1969年に開催された「サマー・オブ・ソウル」の映画を見たばかりなのだが、共通するものを感じる。傑作。