「OKIE DOKIE STOMPERS」(ABC RECORDS YS−8058−AB)
CLARENCE GATEMOUTH BROWN
音はけっしてよくないが、すばらしい内容で、この一枚でゲイトマウスの魅力は全部わかるといっていい。リズムセクションのノリこそ、後年のゲイトマウスに比べるとやや古くさいが、キャッチーな曲想、伸びやかなボーカル、完全無欠なギター、そして、それらを煽るホーンセクション……とヒューストンジャンプの無敵の「型」はここにはじまった、といえるような、めちゃくちゃかっこよくて、めちゃくちゃ楽しい演奏ばかり。後年の代表的なレパートリーはだいたいこのアルバムに収められている。これだけの凄い演奏をしていたひとが、このあとずっと不遇をかこつなんて信じられない。ディスコグラフィカルなことはよくわからんが、「ゲイト・ウォークス・トゥ・ボード」という曲があって、そこでのテナーソロは最初の部分、どう聴いてもロックジョウだと思ったが、これがジョニー・ボードというひとらしい。ジョン・ボードと同一人物なのか? とにかくすばらしいソロである。とりあえずゲイトは、これを真っ先に聴かねばならぬ。さっきも書いたようにうちにあるレコードは音質はいまいちなのだが、CDはすごく音がいいという話もきいたので、買い直すべきかも……(後日、買ったhoodoo recordsというレーベルのやつはたしかにすごく音がよくてびっくり)。
「MORE STUFF」(BLACK AND BLUE 33.561)
CLARENCE GATEMOUTH BROWN
ゲイトマウスというひとはけっこうたくさんのアルバムを吹き込んでいるが、このアルバムがいちばん好きだ、というファンは少なかろう。しかし、私はじつは本作を偏愛しているのです。とくにB面。えーと、A面はですね、ピアノトリオをバックにした4人編成で、しかもピアノがなんとジェイ・マクシャンという、かなり「?」な人選で、これを聞くと、ブルースファンは「しょうもないメンバー組ませやがって。フランスのやつらは、ブルースマンはみんな一緒やとおもとる。あいつらはなんもわかってない」と怒るだろう。たしかに、聴いてみると、カンサスシティジャズのマクシャンと、ヒューストンブルースのゲイトは水と油で、しかも、新しいタイプのリズムの曲に関しては、マクシャンはほとんどバッキングをしていない。しかし、ゲイトとマクシャン、それぞれのソロの部分はなかなかよい。両者が溶け合っていない、という感じかな。まあ、A面はとにかく、B面です。これはもう死ぬほどかっこいい。一曲めの「ゴーイン・トゥ・シカゴ」から、もうあまりのかっこよさに「ギャーッ」と叫びたくなるほど。こういった曲はゲイトにあわないのでは、と思うひともいるかもしれないが、ゲイトマウスはブルースを素材として扱うこともできるブルースマンなので大丈夫。ホーンセクションのアレンジがどれもかっこよく、アル・グレイのトロンボーンソロ、ハル・シンガーのテナーソロがまたまた泣かせてくれます。しかし、なんといっても聞きどころはゲイトマウスのギターとボーカルで、これが完璧に、パリの空に炸裂しまくっている。後年の、ラウンダーなどのものよりもずっといいのではないか。惜しむらくは、A面、B面ともこのメンツでやってくれてたらなあ、と思う。何十回聴いたかわからん、大愛聴盤でございます。
「ALRIGHT AGAIN!」(ATLAS RECORD LA25−5004)
CLARENCE GATEMOUTH BROWN
かなり好きなアルバム。一曲目の「フロスティ」からはじまって、聴いているとあまりのかっこよさに手に汗握る。どの曲も、ゲイトマウスのギターによるさまざまなテクニックが聴かれて、えーっ、こんなのもありか、今度はこうか、とその多彩さにびっくりする。アルヴィン・タイラーのサックスソロも秀逸。ゲイトマウスをどれか一枚といわれたら、本作を推薦するのが適当かもしれないと思う。ピーコックのヴィンテージ録音よりもとっつきやすいんじゃないかなあ。本作とピーコックのちがいは、録音のこともあるが、リズムの新しさで、ゲイトマウスは新しいリズムに完全に対応しており、弾きまくっている。たいした「若さ」だ。まったく年齢を感じさせない。驚異的である。軽快さと重厚さが同居するゲイトの音楽。そして、ほぼデビューに等しいはずのピーコック録音において、すでにゲイトマウスの音楽性が完全にできあがっていることにも驚くし、その後、ずーーーーーっと進歩を遂げていることにも驚くし、結局はなにも変わっていないということにも驚く。とにかく驚きずくめの傑作である。
「REAL LIFE」(ROUNDER RECORDS 2054)
CLARENCE GATEMOUTH BROWN
悪くはないが、ライヴだというのでものすごく期待したが、どちらかというとおとなしめで、ゲイトもバンドもはじけっぷりは「オーライト・アゲイン」のほうが上かもしれない。逆に言うと、ライブにもかかわらず、スタジオと同等あるいはそれ以上のクオリティでの演奏をしているということでもあり、ゲイトの楽器マスターとしての腕がわかるというもんだが、やはりライブ盤にはある程度、ノリでガーッと行く特別な勢いがほしい。ゲイトは良くも悪くもいつものゲイトである。おそらく当時のショーの1ステージはだいたいこんな感じのパックだったと思われる。インストがあり、スローがあり、ファンキーな曲があり、ソウルっぽい曲もあり、ブルースではない曲もあり、フィドルなどをフィーチュアした曲もあり、ジャズもあり……ライブの現場にいる気持ちで楽しめるアルバムではある。
「GATE SWINGS」(VERVE INTERACTIVE 314 537 617−2)
CLARENCE GATEMOUTH BROWN
ゲイトのレコーディングアーティスト50年を祝うアルバム。ビッグバンドを従えて、往年のスウィングジャズやR&Bの名曲をやりたおす。ホーンセクション、ではなく、ちゃんとした編成のビッグバンドなので、じつにしっかりしているが、それでもアレンジは単純で、正直、アホみたいなシンプルさで古臭い譜面なのだが、そこにゲイトのギターが加わると、なぜか突然めちゃくちゃかっこよく聴こえるのだ。不思議ふしぎ。ゲイトのペンケレケーン! とかキュウッ! とかポキポキポキとかいうトリッキーかつイナタいギターは魔法のようにバンドをスウィングさせる。ジャズのようでジャズでない。ブルースのようでブルースでない。ゲイトマウス・ミュージックとしか言いようがない。この時期のゲイトは、私は詳しくは知らないが、同じ曲だとおんなじソロしかしない、とかいう意見もあるようだが、そんなこととは関係なく、ソロはものすごくかっこいい。弾いている内容ももちろんだが、このリズム感に魅せられたらもうアリジゴクから這い上がれないアリみたいなもんで、ただただこの魔の音楽のなかにずり落ちていくのみ。もちろんヴォーカルも最高で、ゲイトはインストだよねというひとも多いが、私は歌も好きです。とくに「カレドニア」の迫力は凄い(トーキング・ブルースみたいになる箇所も)。ボーカルからギターソロへのすばやい移行もかっこいいね! 各曲、ギター以外に管楽器がフィーチュアされるのだが、私が不勉強なせいか、知ってるひとはトニー・ダグラディぐらいのものなのだが、ほかのアルトももうひとりのテナーもトロンボーンもトランペットもみんなめちゃいいソロをする。とくにアルトのエリック・デマーというひと(「タフェン・アップ」「ゲイツ・ブルース・ワルツ」「ビッツ・アンド・ピーシス」のソロ最高。13曲中6曲でフィーチュアされている)とトロンボーンのリック・トロルセンというひとはいいなあ。「トー・レイト・ベイビー」でフィーチュアされるダグラディのドスのきいたテナーもめちゃかっこええ(この曲でのゲイトの歌い方のリズムの凄さよ!)。「ワン・オクロック・ジャンプ」では昔懐かしい正統派テナーバトルもフィーチュアされまっせ。「シンス・アイ・フィール・フォー・ユー」は本作唯一のバラード。なお「ビッツ・アンド・ピーシス」という曲は「ドラムブギー」と「バグス・グルーヴ」を足したリフ曲だが、この曲でのゲイトのギター最高よん。「リヴァー・インヴィテイション」のギターもめちゃくちゃ凄い。ラストの「フライング・ホーム」はイントロからゲイトのギターが爆発。ソロの冒頭は例のジャケーの有名ソロ。そのあとまたしてもテナーバトルになって異常に盛り上がる。衰えを知らない鉄人ゲイトマウス・ブラウンの傑作であります。
「SINGS LOUIS JORDAN」(BLACK & BLUE BB936.2)
CLARENCE ”GATEMOUTH” BROWN
ルイ・ジョーダンの大ファンで、ゲイトマウス・ブラウンの大ファンで、アーネット・コブの大々々ファンの私が、「ゲイトマウス・ブラウン・シングス・ルイ・ジョーダン・フィーチュアリング・アーネット・コブ」なるとんでもないアルバムがブラック・アンド・ブルーにある、と知ったのはもう何十年もまえのことだが、それ以来必死で探し続けた結果、オムニバス的なアルバムで断片的には聴けたのだが、全貌はわからない。そのうち日本のP−VINEがブラック・アンド・ブルーのゲイト(全部で5枚あるらしい)からピックアップしたものを1999年に2枚のCDにして発売した。「ザ・ブルーズ・エイント・ナッシン」に4曲、「ホット・クラブ・ドライヴ」に1曲と計5曲収録されていたので、まあまあこれで多少は聞けるようになった、と喜んだものの、逆に言うと、コンプリートな形での再発は遠のいたといえるわけで、あー、全部聞きたい、と悶々としているところに、2000年に、LPのCD化を進めていたブラック・アンド・ブルーからほぼオリジナルに近い形(別テイクとか入ってる!)状態でリリースされ、ゲイトマウスファン、アーネット・コブファン、ルイ・ジョーダンファン、そしてミルト・バックナーファンもが万歳三唱したのである。なんとジェイ・マクシャンとミルト・バックナーが共演しているトラックもあって、それだけでも「ブラック・アンド・ブルーはえらい」と思う。しかしなあ、このアルバム、何遍聴いても、めちゃくちゃ凄くて、文句のつけようがない。たしかに「ゲイトマウスとルイ・ジョーダンの接点がわからん。レーベルの企画に乗っただけではないか」とか「歌い方が愛想がない」とか、いろいろ文句もあるかもしれない。しかし! そんなこまごまとしたことはぶっ飛ばすぐらいの凄まじい内容がこのアルバムにはある。まず、主役であるゲイトの歌い方とギタープレイを聴いていると、企画ものとかそういう感じではなく、ゲイトマウス・ブラウンがルイ・ジョーダンの楽曲にものすごく自然に親しんでいることがわかる。めちゃくちゃトリビュートしているとかでなくても、普通に聴いてきていて、血となり肉となっているのだろう。それだからこそのこの歌い方である。ルイ・ジョーダンに似せようとか思っていない、自分の歌い方だが、基本的になにもいじっていない。ブラックエンターテインメントとして客に対してアピールしまくったルイの歌い方に比べると、ゲイトの歌い方はかなりクールに思えるかもしれないが、いやいや、それだったらそもそもこういう楽曲を取り上げないだろう。ギターは、いつものトンチのききまくったゲイトならではの演奏で、気合い入りまくりで、かっこよすぎる(しかし、それをサラリとクールに弾いているように聞かせるのがゲイトなのだが)。もちろん、ミルト・バックナーとジェイ・マクシャンという両巨頭の最高すぎる演奏もすばらしすぎる。ゲイトマウスというモダンブルース、テキサスジャンプのひとが、カンサスシティジャズの古老やハンプトン楽団のおもしろオルガン奏者とぴったり、しっくり合ったわけである。いやーすごいっすね。そしてそして、このことを私は書きたいがために本稿を書いているわけだが……アーネット・コブ! いやもうなんちゅうか最高です! ゲイトのレコードだが、コブの話ばかりになることを許してください。コブはおそらくこのころまでにたくさんのブルースシンガー、R&Bシンガーたちの伴奏を務めてきたはずで、そういう経験がここに結実しており、リラックスした調子ではあるが、コブの個性をまるごとぶつけたようなすばらしい伴奏ぶりを示している。まずはじめの「チュー・チュー・チ・ブギ」の豪快なテナーソロでぶっ飛ぶ(その後バックナーのほぼ1音だけで引っ張るワンコーラスのソロからマクシャンのワンコーラスへの豪華なリレーも聞きもの)。最後の歌につけるテナーのリフもかっこいい! 2曲目のスローブルース、イントロてのワンコーラスのソロも見事だが、歌にからみつくオブリガード、そして音数をぐっと抑えた必殺のテナーソロ2コーラスの凄さには泣くしかない。3曲目の「レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール」の、聴いていると心が煮えたぎるようなホットなブロウ。最高ですね。ゲイトはちゃんと「ミスター・ジョーダン」ではなく「ミスター・ブラウン」と歌っている。4曲目の「ソルト・ポーク・ウエスト・バージニア」のソロを(たぶん)バックナーが後ろでいろいろ叫んであおっているが、まさにそういう完璧なブルースのソロであります。5曲目「イズ・ユー・イズ・オア・イズ・ユー・エイント・マイ・ベイビー」のソロもコード進行に乗った、歌心とブロウ魂が合体したもの。6曲目はノリノリの「カレドニア」で、2コーラスのかなり激しいソロを聞かせる。かっこええなあ。だれがどう聴いてもコブだとわかる演奏だもんなあ。7曲目は「エイント・ノーバディ・ヒア・バット・アス・チキンズ」で、くつろいだテンポとノリの演奏(バックナーのオルガンがじつにいい働きをしている)だが、ゲイトのトンチのきいたソロを受けて同じくユーモアのあるフレーズではじめ、そこからブロウにつなげていく。すばらしい。8曲目は「エイント・ジャスト・ライクア・ウーマン」で、シャッフルのブルース。短いソロながらコブは相当気合の入ったスクリームを聞かせてくれる。9曲目もゆっくりめのシャッフルのブルース。コブはコテコテの極地のようなブルースを吹く。10から12は別テイク。ラストの「レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール」では機嫌良く演奏していたゲイトが、途中で(たぶん)プロデューサーにとめられて、不機嫌そうに返事する場面が録音されている。最後にゲイトの話に戻るが、ここでのゲイトは、はじめのほうにも書いたように「企画ものをむりやりやらされてる」感じはない。でないと、これだけたくさんのルイの曲を、アレンジも含めて短期間に録音することは難しいと思う。つまり、ゲイトをはじめ、参加ミュージシャンたちはみんな、ルイ・ジョーダンの曲やアレンジはよく知っていて、けっこうパッとできたのではないか、と思う。これは私の推測なので、本当かどうかはわからないが、なんとなくそんな空気感を感じるのだ。かつてのルイ・ジョーダンの黒人たちのなかでの立ち位置というかポピュラリティを考えるとそんな気がする。そして、ゲイトとルイには共通点があると思う。ゲイトはブルーズマンと呼ばれるのを嫌い、ブルース形式以外のさまざまなブラックミュージックを演奏した。その音楽は、アメリカ音楽のごった煮といってもいいほどである。ルイ・ジョーダンもブルースだけでなく、いろいろな曲を演奏していて、カリプソやラップ的な表現まで取り入れている。両者が接近するのはある意味当然ではないか……と聞きながらそんなことを考えたりした。めちゃくちゃ傑作。
「THE BLUES AIN’T NOTHING」(BLACK & BLUE/P−VINE RECORDS PCD−5529)
CLARENCE ”GATEMOUTH” BROWN
これも上記と同じ。ブルーズばっかり集めたもの。内容は、とにかくすばらしいのひとこと。ライナーで小出済さんが、ゲイトはブルーズマンと呼ばれることを嫌っていたが、ブルーズが嫌いだったわけではなく、やはりブルーズをやらせると最高だみたいな意味のことを書いていたが、こういう形で、オリジナルアルバムからブルーズばかり集めて一枚にしてしまう、という行為が、日本のファンに媚びた、とか、そのほうが売れるから、とかそういう風には思わない。日本での紹介が遅れていた(というか、まったくなかった)ブラック・アンド・ブルーでのすばらしい音源をなんとかCD2枚に収めて、日本のファンに、いわゆる空白期と思われている時期のゲイトを伝えようという気持ちなのだとは思うが、やはりそれはゲイトの意志に反することだったのではないかなあ。ここにずらりと並べられた曲はたしかにめちゃくちゃすばらしいものばかりで、どんな編成、どんな顔ぶれでもゲイトの音楽は突き抜けて光っているが、聴いているとどうしても「あれ? 循環の曲とかないなあ」とか「スタンダードもないなあ。あ、そうか。ブルーズばっかり集めた編集盤だったっけ」という違和感がつきまとう。そんな気持ちにさせられるブルーズマンはたぶんルイ・ジョーダンとゲイトマウスだけだ。でも、とにかく名演ばかり。歌詞カードもついているのでお得。それにしてもゲイトは「俺は家もない」とか歌ってもまるで暗さがなくていいなあ。
「HOT−CLUB DRIVE」((BLACK & BLUE/P−VINE RECORDS PCD−5530)
CLARENCE ”GATEMOUTH” BROWN
ブラック・アンド・ブルーでのゲイトマウス参加作品の音源を日本独自に2枚に編集したアルバムのかたわれ。結果的にええとこ取りをしたため、アルバムごとのコンセプトが若干薄らいだような気もするが、当時としてはこうするしかなかったのだろう。いろいろお世話になりました。「シングス・ルイ・ジョーダン」なども、オリジナルアルバムをそのころは持っていなかったのだが、このアルバムともう一枚の編集盤である「ブルーズ・エイント・ナッシング」で半分は聴けたわけだ。そういう聴き方は正直言ってもやもやするというかフラストレーションがたまるのだが、聴かないよりは半分でも聴けたほうがいいに決まっている。本作は、それ以外にも一見ミスマッチと思えるような顔合わせだが、じつは最高という演奏ばかりが詰まっているのだ。ゲイトマウスはジャズミュージシャンと相性がいいんだよなー。ラウンダー、アリゲーター、ヴァーヴその他でガンガンアルバムを連発するようになるまでのゲイトの姿がブラック・アンド・ブルーというフランスのレーベルによってちゃんと記録されたことの意義はでかい。嬉々として弾きまくるゲイトの勇姿がここにある。とかなんとか言うこともない。ただただ楽しい演奏ばかりです。
「COLD STRANGE」(BLACK AND BLUE CDSOL−46052)
CLARENCE ”GATEMOUTH”BROWN
ブラック・アンド・ブルーの録音はいろいろな形で分散してアルバムに収録されているが、1曲目はゲイトマウスファンにはおなじみの曲で、ゲイトのソロもトンチのきいた(それでいてブルーズフィーリングあふれる)テクニックが詰め込まれてる。それを受けるミルト・バックナーのオルガンも、ジャズのひとがバックをやってる感がまったくなく、むしろ、めちゃくちゃゲイトに合った豪快なソロを繰り広げている。2曲目はインストブルーズでゲイトの圧倒的なソロに対してこれもオルガンが超かっこいいバッキングをしている。後半のギターのブレイクなんか感動ものですよ。エンディングも凄い。「ゲイトが本気になったら猿がピーナツ剥くより凄いことやるよ」というだれかのインタビューを思い出す(だれやったっけ?)。3曲目の「チューチューチブギ」は「シングス・ルイ・ジョーダン」にも入ってたやつ。テイクがちがうのかな、と思って聞き比べたがおんなじテイクだった。さすがブラック・アンド・ブルー。でも、いい演奏なので問題なし。アーネット・コブのブロウもまったくもって私の好みです。オルガン(バックナーではない)のあとに出てくる短いピアノソロはジェイ・マクシャンで、あのマクシャンがゲイトのバックでルイ・ジョーダンナンバーを、しかもフランスで……とか思うと感慨もひとしお。でも、まったく問題なく溶け込んでいるのだから、ジャズだのブルーズだのいった境はないのだ。4曲目の「プレッシャー・クッカー」は同題のアルバムが出ており、それはブラック・アンド・ブルーのベスト盤みたいな感じで本作からも5曲ほど入っている(ので、以前はそればかり聞いていた)。けっこうハードでロックテイストのある曲。でも、ゲイトは引用フレーズ出まくりの楽しいソロを延々繰り広げている。コブも楽しげにブロウしている。そのあとのバックナーのオルガンもそうなのだが、ゲイト〜コブ〜バックナーって、なんともはやアクの強い連中を集めてしまったもんだと思う。それがうまくいったのだから奇跡のセッションといえるかもしれない。最後のギターカデンツァも見事。5曲目の「サド・サド・アワー」は1曲目とならんでこれもゲイトの古いヒット曲で、スローブルーズ。こういうスローブルーズをゲイトは軽く歌うことが多いが、ギターソロも思いいれとトリッキーなフレーズたっぷりではあるがいかにも軽く、それがまたクールでかっこいいんですよね。6曲目の「マイ・タイム・イズ・エクスペンシヴ」もゲイトの古いヒット曲。昔読んだ吾妻さんのインタビューにも出てきたような記憶がある。7曲目はコブのオブリガートがかっこいいスロウブルーズ。コブの渾身のブロウが凄すぎる! ラストの8曲目はゲイトのボーカルを前面に出したかっこいい曲だが、ギターソロも前の曲の激アツさをクールダウンするような落ち着きがあって、アルバムの締めくくりにふさわしい。マクシャンのソロはまさに玉を転がすようなコロコロした味わい。傑作!
「JUST GOT LUCKY」(EVIDENCE MUSIC ECD 26019−2)
CLARENCE GATEMOUTH BROWN
ブラック・アンド・ブルー(フランス)の音源を編集したもので、いろいろなアルバムのいいところが詰まっている。1曲目などゲイトのイケコロシを心得た、しかも変態的(本当に変なことをやりまくっているよなあ)なギターだけでなく「歌うのは得意じゃない」と言っていたゲイトの洒脱なボーカルも聞けるし、ジェイ・マクシャンのすばらしいピアノも聴けるし、アーネット・コブのワンアンドオンリーのテナーも聴けるし、アル・グレイの……という超ゴージャスなメンツ。こういうのがアルバム一杯続くのだ。ただの有名メンバーを集めました的アルバムではなく、全員一癖も二癖もある、ブルースというよりジャズ寄りの曲者たちが揃っており、こういうアルバムはヨーロッパで「ブルースっぽい連中を集めたらいいんでしょ」的なミスマッチな感じになったりするが、それがゲイトマウスの場合はもともとジャズその他の音楽への志向があるので逆にばっちりなのである。本当にめちゃくちゃハマリまくっている。しかも、本人が嫌いなはずのブルース形式の曲とかをけっこう、力を込めてやってくれているのもうれしい。ブラック・アンド・ブルーはときどきこういう大ホームランを打ってくれるのだ。とにかく本作はゲイトを聴いたことのないひとにも勧められる。これがゲイトマウス・ブラウンなのだ。今気づいたが「シングス・ルイ・ジョーダン」からの収録である「チュー・チュー・チ・ブギ」のテーマをゲイト「チュー・チュー・チ」ではなく「チュー・チュー・イ」とか「チュー・チュー・ウ」という感じに破裂音ではなく柔らかい歌い方をしているな。それにしても、ゲイトとアーネット・コブ、ジェイ・マクシャン、ミルト・バックナー……が顔を合わせたこの「チュー・チュー・チ・ブギ」はまさに世紀の「個性」のぶつかり合いというべきですね。曲順も絶妙で一曲目から13曲目まで楽しく聞かせてくれる。構成の妙ともいえるが、ようするにゲイトの至芸ということですね。
「STANDING MY GROUND」(ALLIGATOR RECORDS ALCD 4779)
CLARENCE GATEMOUTH BROWN
ゲイトのビッグバンドをバックにしたゴージャスな企画。ゲイトはギター、フィドル、ハープ、ボーカルに加えて、ピアノとドラム(!)を一曲ずつ演奏しており、八面六臂の活躍というやつだ。一曲目は「ガット・マイ・モージョ・ワーキン」だが、ゲイトのギターはボーカルはマディのイメージの強いこの曲をいきなり自分の世界観に引き寄せる。このタイトでシンプルなホーンセクションとリズムセクションに、ゲイトのギターとボーカルはじつに合うのだ。これはもっもと初期のピーコックレコーディングスのころから変わらない。二曲目は引きずるようなフィドルとボーカルがかっこよくて、なんともいえない。いかにもゲイトっぽいペンペンのギターソロもいいですね。なかなか重厚な一曲。3曲目は「クール・ジャズ」というタイトルだがぜったいクール・ジャズっぽくないだろうと思って聴いてたらやっぱりだった、という一曲。シャッフルっぽい4ビートのリズムにコロコロ転がるピアノ、そしてひたすらシンプル(クールジャズというとアレンジ過多なイメージがある)なリフ、そこに乗っかるギター、トランペット……というインストナンバー。4曲目はスローブルースでちょっと変わったアレンジ。歌詞を聞き取ろうとがんばったがよくわからない。でも面白そう(掛け合いになっている)。ゲイトのギターとデニス・テイラーというひとのテナーがフィーチュアされる。テイラーのテナーは柔らかい音色で、なかなかいい感じである。ゲイトのトークともボーカルともつかない歌とそれに応えるギターを聴いていると、トリッキーといわれるのも無理はないと思うが、でも、ピタッとはまっているのだからすごい。5曲目はおなじみの「シー・ウォークス・ライト・イン」だが、この曲でゲイトはドラムをたたいているらしい(つまりダビングということか?)。どうしてそんなことをしたのかはよくわからないが、とにかくシャフルっぽいビートで、ギターも爆発している。6曲目もスローブルースでテーマはちょっとひねったアレンジかと思ったが、そのあとはかなりオーソドックスな演奏。ゲイトもストレートに歌い、ギターを弾いている。ラストもちょっと明るいコードになる。7曲目は8ビートのブルース。けっこうのほほんとしている。コーラスも入っていて、タイトル通りルイジアナというかザディコ風味も感じられて楽しい。8曲目はスタンダード(?)で、トラディショナルな雰囲気のアメリカーナ的な演奏。フィドルが大活躍している。ゲイトのフィドルはもっと評価されるべきでしょう。ラストのブルースはソロ回し的な面もあるが、これもシャフルっぽいリズムで、ギター、トランペット、テナー、バリトン、ピアノ……とソロがつむがれていてき、ピアノソロでエンディング。アルバムラストにふさわしいと言うべきでしょう。それにしてもゲイトのアルバムジャケットってパイプを吸ってる写真が多いねー。
「AMERICAN MUSIC TEXAS STYLE」(POLYGRAM RECORDS/BLUE THUMB 314 547 536−2)
CLARENCE GATEMOUTH BROWN
タイトル通り、アメリカ国旗がデザインされたCD。いわゆるアメリカーナというものの先駆といっていいかも。一曲目はゲイトのボーカルが快調で、バリトンのあとエリック・トラウブというテナーのひとが炸裂している。2曲目はインストで、アルトのエリック・デマーというひともいいソロをしている(このひとのショウケースか)。まあ、古き良きジャンプ〜スウィングバンドという感じだろうか。3曲目はややスローなブルースでようするにジェイ・マクシャンの「フーティーズ・ブルース」なのだ。ここでのゲイトのソロの細やかさはすばらしい。でも、これもソロ回しっぽいか。……という感じに曲が進んでいくのだが、4曲目の「フロント・バーナー」には驚愕。ベイシーファンにはおなじみの「ベイシー・ビッグ・バンド」に入ってる曲で、ゲイトのソロも含めて全体がブルースとかR&Bというより「スウィング・ジャズ」の王道をゆく演奏。ダグラディやエリック・トラウブのテナーバトル(というほどではないけど)もカンサスシティジャズっぽい。つづく5曲目もスウィングジャズっぽいし、ゲイトのこのアルバムでの狙いはアメリカーナというよりスウィングジャズのジャンプブルースを通しての復興なのか……と思って聴いていたが、正直、ほんまもんのスウィングジャズにも聴こえる。6曲目はドボチョン一家的な変な曲。冒頭の笑い声が耳に残る怪作。豪快で力技だが大味にならないアルトソロがすばらしい。7曲目もシャッフルっぽいブルースで古き良きアメリカのビッグバンド的な曲。この「古き良き」というのは案外ゲイトの音楽の根幹になるような気がする。あいつはダメ、こいつもダメ、クソみたいなブルースにしがみついてる連中はあかん、シンセはいい、一台でホーンセクション全部まかなってくれる……みたいなことを言っていたゲイトだが、案外、4〜50年代のベイシー、エリントン、マクシャン、ミリンダー……などなどのブルースを「これがほんものの音楽やで」と聴かせたかったのかもなあ、と思ったりする。カントリー、ケイジャン、ブルーグラス……といったあたりの曲も少ないし、「ギターがリーダーのスウィングジャズ」といっても通るだろう、これ。というか、ゲイトの音楽が昔からずっとそうだったということではないのかな。8曲目(これが新曲であることを考えても)なんかを聴くと本当にそうじゃないのかなあと思う。これってカウント・ベイシーじゃん。9曲目のギターき弾き語りではじまり2コーラス目からホーンがずずずず……と出てくるゴージャスな感じもまさにそう。10曲目はなぜか(?)みんながやりたがるエリントンの超有名曲でトランペットがまさにスウィングジャズ的な溌剌としたソロをしている。11曲目はファンクっぽい曲だが、ゲイトのギターが決着をつけるギター本意の曲。12曲目はアップテンポの「ジャンピン・ザ・ブルース」でソロ回し的な構成だが、全体の音楽としてもごりごり突っ走る感じの迫力がある。ラストの13曲目はこれもシャッフルっぽいエリントンのブルース。めちゃくちゃかっこいいアルトソロでもりあがったあとゲイトはフィドルでクールダウン。これもまたいい感じ。全体にアルトもテナーもトランペットもすごくいいソロをしているのでそれを聞くだけでも楽しい。このアルバムでゲイトをはじめて聞いたひとに「つぎにおすすめは」と言われたら、ピーコック盤とかではなく、カウント・ベイシーとかをおすすめしたいなあ。傑作!