marion brown

「LA PLACITA−LIVE IN WILLISAU」(TIMELESS RECORDS CDSOL−6446)
MARION BROWN QUARTET

 ずっとテナーしか吹いていなかったのだが、アルトサックスを30年ぶりぐらいに入手し、ときどきひとまえで吹くようになって、高校生から大学2年ぐらいまでのアルトを吹いていた時期のことを思い出した。あのころはアルトのフリージャズのひとのアルバムといえばなんでもいいから片っ端から聴いていた。当然のごとくマリオン・ブラウンもたくさん聴いていたのだが、あるとき(たぶんテナーに替わったときぐらい)突然、「アルトのフリージャズのひと」が嫌になって、持っていたアルバムをことごとく売ってしまった。まあ、学生で金が全然なかったというのが一番の理由だが、そのとき残したのはオーネット・コールマンや・エリック・ドルフィー、あとは日本人ぐらいのもので、アンソニー・ブラクストン、ヘンリー・スレッギル、アーサー・ブライス、ジョセフ・ジャーマン、ロスコー・ミッチェル、ジョン・チカイ、オリバー・レイク、ジュリアス・ヘンフィル……あたりは全部売った。たぶん理由は「音が嫌だった」ということだと思う。その後、改心(?)して一部のひとは買い直し、たとえばブラクストン、スレッギル、ヘンフィルあたりはめちゃくちゃ好きになった。なんであのとき「嫌いだ」と思ったのかわからないぐらい凄いひとたちだ。ああ、あのときの自分はアホ耳だったなあ、としみじみ思う。ティム・バーン、マーティー・アーリック、ジョン・ゾーン、チェイピン、チェカシンあたりはそのころも好きだったし、今でも好きだ。で……そういうなかで、ふと「マリオン・ブラウン」のことを思い出したのだ。すでに、「どんなんやったけ」という感じで、音も演奏も忘れかけている自分に気づいた。これはいかん。そう思って、とりあえず入手できるものを聴き直してみた。その第一弾が本作である。このアルバムもかつてはレコードで持っていたが売ってしまったやつだ。ほんと、久々に聴くが……なんじゃこれは? 唖然。まず、音色はたしかにこんなんやったなあと思い出した。へろへろっとした音だ。ポール・デスモンドやリー・コニッツを連想させる。そして、曲のテーマもめちゃくちゃ普通。フレーズもめちゃくちゃ普通。サイドマンもめちゃくちゃ普通。えーと、これのどこが「フリージャズ」なのかよくわからん。たしか学生のころもそう思ったのだった。ソロも、コードチェンジから外れたり、オーネットのようにべつの調整へ移行したりすることもない。といってバップフレーズが出てくるわけでもない。独特……そう、独特だ。なんとか「フリー」的なものを見い出そうとすると、なんとなく演奏全体(音色やアーティキュレイションなども含めて)から感じられる、揺蕩うような感覚ということになるだろうか。ジャズ批評社刊のアルトサックス本で批評家がマリオン・ブラウンのことを、「コルトレーン派のアルトのなかでももっともコルトレーンに近いサックス奏者」とか「ジョニー・ホッジスの影響がある(そのバンドに在籍していた)」とかいう意味のことを書いていたが、全然なんのこっちゃわからん。というわけで、しばらくマリオン・ブラウンを聴き直したいと思っております。今回、なるほどと気づいた点は、マリオン・ブラウンってあの時期のフリージャズのサックス奏者としては珍しく、ほぼどのアルバムもピアノを入れていて、ピアノにこだわってんただなあという気はする。本作はそれがギターになっているが、そういう意味ではちょっとテイストが違うかも。あと、ブルースやるにしても「サニー・ムーン・フォー・トゥー」はないんじゃないでしょうか。とか思ったり。

「JUBA LEE」(COOL MUSIC 2044773)
MARION BROWN SEPTET

 このフォンタナのアルバムに関してはなんの記憶もなかったが、おそらく30年ぶりぐらいに聴き返して、内容にちょっとショックを受けた。いやいやいや、めちゃくちゃええやん。マリオン・ブラウンもがんばってばりばり吹いているが、グラチャン・モンカー3世とかアラン・ショーターがこんなにいいとは。正直、このふたりにはほとんど期待していなかっただけに、感動もひとしお。とくにグラチャン・モンカー。バリバリ吹きまくっている。もちろんビーバー・ハリス、デイヴ・バレル、レジー・ジョンソンという猛者三人によるリズムもいい(けっして重くなく軽快で黒い)。マリオン・ブラウンは後期のような「渡辺貞夫か!」というような演奏こそみせていないが、いくらブロウしても爽やかだし、そもそも曲が爽やかだ。しかも、オーネット・コールマンのように曲のコードチェンジから離れていったり、ドルフィのようにコードのうえにそこから遠い音を持ってきたり奇矯な跳躍で緊張を演出したりアイラーやファラオのようにマルチフォニックスなどで攻撃的な空気感を出したり……といったことがほぼ皆無である。変な音を出したりしても、なーんか爽やかで「マリオンくんは本当はしっかり吹けるのに、よくこんな音が出せたね。えらいえらい」と思ってしまう。ひとの持ち味というのは本当にいろいろだ。マリオン・ブラウンのことをコルトレーン派アルトのなかでももっともコルトレーンに近いサウンドを作り出す、とある評論家が書いていたが、ここでのマリオンはたとえば3曲目ではアルバート・アイラー的に聞こえる。そう思って聴き直すと、マリオン・ブラウンって案外アイラーに近いのではないかと思ったり。このアルバムはほんとにすごい。全員すごい。なんといってもグラチャン・モンカーとアラン・ショーターの良さに開眼しました。傑作。

「THREE FOR SHEPP」(IMPULSE RECORDS UCCI−9181)
MARION BROWN

 本作は「ジュバ・リー」とほぼ同じメンバーによる演奏。「ジュバ・リー」ではあれだけ活躍していたグラチャン・モンカー3世は随所でフィーチュアされているが、「ジュバ・リー」ほどの凄味はない。でも、がんばっている。レコードでいうとA面3曲がマリオン・ブラウンの曲、B面3曲がシェップの曲。この時期、シェップ自体がデビューしてそんなにたっていないころだと思われるが、そこでこのコンセプト、というかタイトルというか……攻めてますなー。シェップはジャケットではドーンと写っているが、演奏には参加していない。「作曲家」という扱いなのか。マリオン・ブラウンのソロはあいかわらずジャズの王道を行く(ギミックではないという意味で)ものだが、ビバップでもなければモードでもない。つまり、クリシェがない、マリオン・ブラウン独自のアプローチであることはたしかだが、ギャーッとかヒエーッとかガオーッとかいう感じもなく、浮遊感はあるがオーネットのようにわざとそれを狙った確信犯というよりミュージシャンとしての資質によるものだと思われる。まさにワン・アンド・オンリー。たとえば5曲目のソロなんかなにかやりたいのかほんまにわからん。そんなことを言い出せば、このアルバム自体なにがやりたいのか分からないのだが。ジャケットから、このころのマリオン・ブラウンがセルマーのジャズメタルだったのだなあとわかる、そんな一枚。「フォー・フォー・トレーン」とか「ワン・フォー・ザ・トレーン」とかこの「スリー・フォー・シェップ」とか、そういうのが流行ってたのかなあ。時代です。

「OFFERING」(VENUS RECORDS VHCD−78119)
MARION BROWN QUINTET

 92年録音でギターの入ったクインテット。ジャズジャイアンツたちへの捧げものだそうだが、1曲目はこの時期にしてはハチロクのような3拍子のような感じで70年代ジャズ的なガッツのある曲調なので、おおっと思ったけど、マリオンではなくピアノのトム・マックランの曲。ギターやピアノはいいソロをするが(ベースソロとドラムソロもある)、マリオン・ブラウン自身はほぼサラッと流してる感じのソロ。テーマが「つーんつーん月夜だ〜」と聞こえる。2曲目はミンガスの曲で「ミンガス・アー・ウム」に入ってる「セルフ・ポートレイト・イン・スリー・カラーズ」。ミンガス盤では3管(?)のテーマのみの演奏でアドリブはなくそこがかっこいいのだが、ここではマリオン・ブラウンは単に甘いバラードとして処理しているように聞こえる。3曲目はマリオンの曲で「オード・トゥ・コルトレーン」。「至上の愛」のモチーフを使った(?)変則マイナーブルースだが、なんというか演歌っぽい。マリオンのソロは終始淡々としていて、コルトレーンに捧げるというタイトルとはうらはらに泣くでも吹きまくるでもない、軽い感じのソロ。そこにもしかしたら哀切や深い思いが込められているのかもしれないが、そこまで読み取れないぐらいあっさりした演奏である(マリオンのソロだけ、ブルースというより一発ものとして処理されているような気がする)。4曲目はギターのジェイ・メッサーの曲で複雑なテーマを持つブルース。ギターが張り切ってバリバリ弾いている。こういう超アップテンポでのマリオンを聞くと、雰囲気とかいろいろなものが消えて、たんに下手なアルトに聞こえてしまうが。5曲目はマリオン・ブラウンのオリジナルで、3拍子のバラード。ドラムも入ってるしギターソロもあるのだが、基本的にはマリオンとピアノのデュオ。クリシェを排しためちゃくちゃ美しい演奏。6曲目はなんとランディ・ウェストンのブルース。もともとちょっと変なコードがついてるらしいが、マリオンが吹くとこういう曲も「なーんか変」に聞こえる。ラストの7曲目はコルトレーンの「アフター・ザ・レイン」だが、コルトレーンのこの曲の演奏のあまりの荘厳さからするとマリオン・ブラウンのここでの演奏は相当スイートである。でも、これもありだと思う。