rusty bryant

「ORIGINAL QUINTET COMPLETE RECORDINGS」(LONEHILL JAZZ LHJ10136)
RUSTY BRYANT

 あのドファンクテナーのラスティ・ブライアントがまさかのスタンダードアルバム。しかも、ギター入りクインテットで腰をすえたドット原盤の全26曲。歌もののテーマをちょろっとやってるポップス風の演奏ではなく、ちゃんとしたアドリブがふんだんに聴けるし、正直言ってめちゃめちゃ上手いし、私好みの演奏。ものすごく軽く吹いていて、たとえばレスター・ヤングをほうふつとさせるような軽々したノリで歌いまくる。アーティキュレイションも、音程も、リズムもよくて、ブライアントの根本的なジャズミュージシャンとしての実力がよくわかる。ビバップというより、もう少し前の世代の影響も感じる。メンバーは、セッションごとに少しずつちがうが、基本的にはシェリー・マンがドラムで、レッド・カレンダーがベース、ピアノがジェラルド・ウィギンズ(ハンク・マーの曲もある)、ギターがハワード・ロバーツやジョン・コリンズ……といったいぶし銀的なメンバーである。いやー、これはすばらしいです。ブライアントの最初期のキャリアのアルバムかと思ったら、どうやらちがうらしく、最初はやはりあの「アメリカズ・グレイテスト・ジャズ」(うちにあるのは「アメリカズ・グレイテスト・ロックンロール」というタイトルになっていて、内容的にはそのほうがふさわしい)で、そのあと「オール・ナイト・ロング」がR&B的にヒットした。そのあと1957年にに吹き込んだのがこのアルバムらしい。ところがその後、ブライアントは田舎に引っ込んでしまい、ハンク・マーやナンシー・ウィルソンと演奏するようになる。我々がよく知っている彼のプレスティッジでの経歴は、1968年まで待たねばならないが、そこからはR&B〜ジャズロックでの快進撃がはじまるわけで、つまり、R&B〜ロックンロール→ジャズ→ジャズロックという経歴のひとだったのだ。本作はそのちょうど真ん中の「ジャズ期」の作品ということになる(もちろんライヴとかではなんでも演奏していたであろうが)。それにしてもめちゃくちゃ上手いなあ。なによりもこの軽さが、後年のあのヘヴィなブロウからは考えられない。テクニシャンだがそのテクニックを感じさせないような、楽々として吹きっぷりで、しかも、ジャズ的にもすごくクオリティが高い。たとえば、ワーデル・グレイやズート・シムズなどを連想するような洒脱かつブラックネスに満ちた充実の演奏ばかりでとても気に入った。ていうか、かなり驚きました(ただし、ボーナストラックとして入っているラストの曲(これとそのまえの曲だけニューヨーク録音)は突然完全なR&Bになる。聴くとやはりこちらが本領なのかなと思ったりして……まあ両方なのでしょうね)。でも、いくら軽快で楽しい演奏といっても26曲一度に通して聴くと疲れるので、3回ぐらいに分けて聴く方がいいかもです。

「FIRE EATER」(PRESTIGE RECORDSVICJ−23140)
RUSTY BRYANT

 タイニー・グライムズのバンドなどで名を挙げたひとで、ウィキペディアを読むと地元でカロリン・クラブ・バンドというのを率いていたらしい。ドット・レーベルと契約して数々のシングルをリリースしたが(いかにもジュークボックス向けという感じの演奏)、「オール・ナイト・ロング」という曲がヒットして、プレスティッジと契約することになる。ドットとの契約終了後、コロンバスに戻ってローカルミュージシャンとして活動していたが、グルーヴ・ホルムズのアルバムに参加したことがきっかけでプレスティッジに迎えられ、大量の作品を発表することになる。本作はその4作めである。アルトもテナーも吹くひとであり、ドットのころは本当にバリバリのホンカー的な吹き方をしていたが、プレスティッジのころは、時代ということもあったのか、ホンカーというより、ファンキーでメロウなソウルサックス的な演奏で、ギターやオルガンを入れたR&B的なサウンドも含めて、キング・カーティスやグローヴァー・ワシントン、ハンク・クロフォード、ファットヘッド・ニューマン……といったひとたちと互した活動をしたひとという位置づけなのかもしれない。本作は、アルトも吹くブライアントとしてはテナーにしぼった吹き込みで、私の好みである(なぜか裏ジャケットの写真ではアルトを持っている)。1、2曲目まではオルガンがビル・メイソン、3、4曲目はレオン・スペンサー・JRで、ドラムはアイドリス・ムハマッドである。ギターはウィルバート・ロングマイアというひと。全曲、ブルース的なシンプルなリフをファンクのリズムに乗せたような演奏ばかりで、まあ、一言で言うと「ノリノリ」な感じ、それもコテコテの黒いノリが怒涛のごとく押し寄せてくるような演奏であります。ブライアントのサックスのフレージングを聴くというより、全体のそういった濃いグルーヴを楽しむ感じなのだが、それでもそういうなかから屹立するブライアントのめちゃくちゃ上手くて暑苦しいサックス、オルガンのもっと暑苦しい響きなどは心臓に轟くような迫力である。バーナード・パーディーと並んで、こういうのをやらせると最高のアイドリス・ムハマッドのドラムもすばらしい。2曲目はリズムが面白いブルースで、オルガンが本当にディープなソロを延々と続け、ギターもコテコテだが、そのあとブライアントが登場すると、え? まだこれ以上やるか? というぐらいコテコテ度があがり、ギトギトなブロウに聴いているほうとしても拳を突き上げずにはおれない。3曲目はシャッフルっぽいゆったりしたブルース(こういうのを「曲」といっていいのか迷うほどシンプルなリフ)。この、ブルースペンタトニックしか俺は吹かないぜ、という意志表示のようなフレージングを聴いて熱くならないひとがいるだろうか。高音をぶっとい音で吹くのではなく、ちょっと息を抜いてか細くした感じにすることでブルースの歌心を感じさせるようなテクは、まさにホンカーやブロウテナーの常套手段である。とにかくシンプルで、オールドスタイルなブライアントの姿がこの3曲目に炸裂する。かっこいい! ロングマイアのギター(ものすごく有名なひとだそうですね)もスペンサーの頭のぶっ壊れたようなオルガンもすばらしい。ラスト4曲目はファンクチューンで、このイナタい感じがたまらんなあ。昔はこういうグルーヴに寄り掛かったような演奏は好きではなかったのだが(もっと気合い入れてブロウしろ! と思ってた)、今は大好き。大好きを通り越してべろべろしゃぶりたいぐらい好き(なんのこっちゃ)。ブライアントのテナーの音色、単純そのものなフレージング、豪快なノリ……すべてが愛おしい。傑作だと思います。

「AMERICA’S GREATEST ROCK−N−ROLL」(CAROLYN 101)
RUSTY BRYANT AND CAROLYN CLUB BAND

 ラスティ・ブライアント初期のキャリアで、カロリン・クラブというところのハウスバンドをしていた時期があったらしい。これはそのときのライヴ録音……なのか疑似ライヴなのか(後者の可能性が高いと思う)。レーベルも「カロリン」というどさくさな感じの名前だが、ジャケットの絵も、どう考えてもこんな持ち方ではサックスは吹けまい、という異様な持ち方の白人のサックス奏者が描かれている(曲名以外一切の情報がない……)。1曲目のヒットナンバー「オール・ナイト・ロング」(「ナイト・トレイン」のパクリ)もとにかく客が騒がしく、リフが入るたびに「オーナイロン!」と叫ぶ。どの曲もノリノリで、ブルースとかホンクというより、ロックンロールである。とにかく当時のジュークボックス向けだったであろうノリノリのダンス向けの演奏ばかりが収録されているのだが、ラスティ・ブライアントのホンキングがめちゃくちゃ上手すぎるので、むずかしいことはなーんも考えずに聴かされてしまう。フレーズとかも、ジャケーやコブのコピー的なものも多いのだが、完全に自分のものとしているのでまったく違和感はない。本当に上手いひとである。基本的にブルースと循環ばかりなのだが、それでいいのだろう。ジュークボックス向けの、短い時間にピークを迎えなければならない演奏だからしかたがないとはいえ、ひたすら根性根性ド根性……な欠陥の切れるような熱血ブロウが続くので、ずっと聴いているとしんどい。しかし、そのポテンシャルはとんでもないもので、ソロになると鉄砲玉のように飛び出していくホンカーの真髄ここにありという感じの演奏ばかりで、その道の愛好家にはたまらんと思う。しかし、プレスティッジ時代のリラックスしたグルーヴ、メロウなファンクネス……も美味しいと思うのである。ラスティ・ブライアント最高! と言わざるをえない「ロックンロール」の集大成である(「ORIGINAL QUINTET COMPLETE RECORDINGS」とは2曲ほどかぶっています(曲目レベルでの話で、同じトラックかどうか確かめたわけではない))。ベースがレッド・カレンダーで、ドラムがシェリー・マンというデータもあるがほんまかなあ(8曲目、16曲目、19曲目の女性シンガーは誰?)。とにかくブライアントはこうして聴くと、当時のホンカーのなかではサム・テイラーかキング・カーティスぐらい上手いので、正直、向かうところ敵なしだったのではないかと思うが、これぐらいのひとはいくらでもいた、ということなのか……。私には超上手いひとのように感じるのだが。「キャッスル・ロック」「ピンク・シヤンペーン」「フランキー・アンド・ジョニー」「ホンキー・トンク」「ハニー・ドリッパー」……など当時のヒット曲を並べ立てており、バラードを排してひたすらノリノリの曲ばかり詰め込んだ、正直、少々胸焼けするぐらいのコテコテのエンターテインメントアルバムであります(「ムーンライト・ガーデンズ・ストンプ」という、ちょっとバラード的な曲かと思ったら、メンバーが全員でえんえんと掛け声をかけまくるやかましすぎる曲だった。どこが「ムーンライト・ガーデン」やねん!)。17曲目などはピアノをフィーチュアして、自身は軽い音色でホンクする感じの演奏(それでも十分すごい)なのだが、続く18曲目の「フット・ストンピン」という曲は冒頭から太くて濁った音色でゴリゴリホンクしまくる、えげつない演奏で、プレスティッジでの吹き込みではこういう体当たり的というか全身から湯気が出るような火の玉ブロウはなくなっている(そのかわり、ぐっとファンキーさは増しているが、時代(あるいはレーベル)の要請か、それとも自身の考え方の変化か)。全体に録音もよく、ジュークボックス向けのせいか適度にエコーも強めで、雰囲気もばっちり。「ORIGINAL QUINTET COMPLETE RECORDINGS」がスタンダードナンバー中心のアルバムだとすると、こちらはブルース、R&B、ホンクナンバー中心だが、同趣向の両輪といえる。このころのラスティ・ブライアントはビッグ・ジェイ・マクニーリーと肩を並べるぐらいの激うまホンカーだったのだ。

「FRIDAY NIGHT FUNK FOR SATURDAY NIGHT BROTHERS」(PRESTIGE RECORDS VICJ−23145)
RUSTY BRYANT

 ぐにゃっ、と加工した写真が印象的なアルバム。テナーのマウスピースがラーセンのメタルだとわかるが、なんとなく、そのぐにゃっとした感じとラーセンのメタルがこのアルバムの全体の印象になっている気もする。裏ジャケットの写真はまるでアイラーのインパルス盤である(内容も似ているかも)。1曲目のタイトル曲からドスのきいたファンクな演奏。メロウというよりゴリゴリくる感じ。メンバーはおそらく若手の才能あるミュージシャンたちで、フィーチュアされているギターのハロルド・ヤングというひとは他でもリーダー作があるようだが、シーンからは消えてしまったらしい。イントロの雰囲気のあるエレピを弾いているオルガンとエレピのケニー・モスというひとは、なんとファラオ・サンダースの「ラヴ・ウィル・ファインド・アウェイ」に入ってるひとらしいです! ブライアントのソロもかつてのようなホンカー的なものではなく(つまり、ホンキングやフリークトーンなどを使わない)、時代に合ったファンキーなものになっている。つづくギターソロもひたすらブルースペンタトニックをいなたく弾きまくるだけだが、じつに「聴かせる」感じ。エレピのあざといバッキングもいい。そして、エレピのソロも「心得てます」というやつで、快調。ときどき瞬間的にアウトするのも美味しい。そのあとまたブライアントが登場してフェイドアウト。2曲目はドラムのフレッド・マッセイの曲で、ギターがイントロを弾き、そのままソロに移行する。タイトルにある「ダウン・バイ・ザ・クヤホガ」のクヤホガというのはオハイオ州にあるクヤホガ川とクヤホガバレー国立公園のことだそうである。タイトルが「ダウン・バイ・ザ・リバーサイド」に似ているが、曲調も似ている。ブライアントのソロもそのあともう一度出てくるギターソロもゆったりしたノリで、どこがどうというわけではないが聴いていて心地よい。オルガンのバッキングも、ゴリゴリに盛り上げる感じではなく、シンプルで抑制が効いている。エレピのソロは、どうやら同時にオルガンでバッキングしている感じ。ラストもサックスではなくギターがテーマのメロを弾く。3曲目は、こういう方面にはまったくうといので全然知らなかったが、チャイ・ライツの大ヒットナンバーだそうである。ブライアントは、チャイ・ライツのオリジナルバージョンが冒頭に長いトークを配したゴスペル〜ソウル的な雰囲気であるのと対照的に、やや遅めのリズムで全体に軽い感じの可愛らしいノリで演奏している。このころは、キング・カーティスといいデヴィッド・ニューマンといいハンク・クロフォードといい、こういう風な、「R&Bやソウルのヒットナンバーをサックスが吹く」というのがウケたのでしょうね。ある意味、サム・テイラーやシル・オースティンの70年代版という気もする。ビートルズの曲なんかもそういう扱いである。4曲目はキャノンボールの(というかザビヌルの)「マーシー・マーシー・マーシー」で、もともとはゆったりしたテンポでゴスペル的な味わいを全面に出した曲だが、ここでは速いテンポで16ビートの軽快なノリで演奏している。ブライアントのサックス奏者としての凄みと個性がここに結集していると思われる。めちゃくちゃ上手いし、今なにを表現すべきかを知っている。たぶんライヴだったらもっと延々とこの感じでブロウしまくっているのだろう。ラストの5曲目はブライアント作のスローブルース……ということになっているが、テーマはない。たぶん、スタジオでいきなりはじまったセッション。ギターのイントロからオルガンに導かれてブライアントがコテコテのソロをする。このエコーのかかり具合は最高ですね。ギャオーッと吠えることもなく、ただひたすらソウルフルな、ぎとぎとしたフレーズを積み重ねる。かっこええがな。ギターソロに一瞬、レイ・チャールズの曲のフレーズが顔を出す。オルガンもしっかり仕事をするが、最後のあたりのめちゃくちゃあざといロングトーンはすばらしいですね。そのあとギターがふたたび登場してフェイドアウトになる。ブライアントのテナー(アルトは吹いていない)が堪能できるアルバムです。