「MILT BUCKNER−ILLINOIS JACQUET−BUDDY TATE」(PROGRESSIVE RECORDS PCD−7017)
MILT BUCKNER
ミルト・バックナーのギター入りカルテット(ベースも入っている)に、イリノイ・ジャケーが入ったセッションと、バディ・テイトが入ったセッション、そして、バックナーカルテットだけのセッションの3つのセッションを集めたもの……ということになっているが、テナーが入っていないはずのセッションにも、ジャケーが入ってたりして、CDに記載されているデータについてはよくわからない。まあ、そんな細かい詮索は、おおらかで豪快なミルト・バックナーの音楽を聴くには不要なことだ。結果的には、13曲中、ジャケーは9曲でフィーチュアされており、テイトは3曲だけ、残り1曲がギターのジョープ・ショルテン(ヨープ?)をフィーチュアした演奏ということになる。録音場所は異なるが、バックナー、ジョープ・スホルテン、ソニー・ペインという三人+ベース+テナーひとり、という編成だ(一部の曲はエレベとウッドベースと両方入ってるらしいがよくわからん)。バックナーは、曲ごとにこまめにオルガンの音色を変えてプレイしており、豪快そうだがじつは繊細な性格なのかもしれない。1曲目は「アイル・リメンバー・エイプリル」ということになっているが、冒頭いきなりバックナーがノリノリで歌を歌い出し(「アイル・リメンバー・エイプリル」とは関係ない、食べ物のことを並べ立てていくようなめちゃくちゃな歌詞)、それが延々続いて、ジャケーのテナーが入ってようやくテーマ……という構成。うーん、やはりバックナー、ただものではないなあ。ハンプトンバンドでエンターテインメントのなんたるかを叩き込まれている感じだ。バックナーのオルガンももちろんすばらしいが、やはり私の耳はジャケーとテイトに吸いつけられる(ふたりが共演してくれてたらもっとよかったのに)。テイトの3曲は全部バラードだが、バディ・テイトのいやらしいバラードプレイの神髄が聴ける。ジャケーのバラードもベン・ウエブスター直系でかなり嫌らしいが、テイトのサブトーンを駆使したいやらしさは、ジャケーのざらざらした感じに比べるともっとスムーズで柔らかくてコクがある(なんのこっちゃ)。より、「ムードテナー」に近いような、ほんとにサブトーンのコントロールがすばらしいテナーの吹きっぷりに惚れます(この吹き方はスローブルースでも存分にいかされるが本作には入っていないね)。ジャケーはミディアム〜アップテンポの曲でゴリゴリ吹いて圧倒的存在感を示す。ギターのジョープ・スホルテンも、ソロにバッキングに大活躍で、かなりシンプルにだがソロイストの盛り上げのツボも心得ているし、ええ感じ。唯一の、サックスが入ってない曲「イエスタデイズ」でも泣きのプレイを披露している。聴くまえから、どんなすごいドラミングをしているのだろう! と期待大だったソニー・ペインは、このころはもう晩年ということか、それともコンボでの演奏に力を抑えたか、普通のドラマーって感じです。傑作。
「GREEN ONIONS」(BLACK & BLUE59.087 2)
MILT BUCKNER
何度も書いているように、ジャズオルガンが好きなわけではなく、ジャズオルガンとともに演奏するテナーが好きなので、こういうサックスが入っていないアルバムを聴くことはまずないのだが、ミルト・バックナーとなると話がちがう。好きですねー、このひと。ジミー・スミスが出てこようが、ジャック・マクダフやらなにやらがスターになろうが、われ関せず的に自分の音楽を貫いた、それものんしゃらんに、自由に奔放に演奏したひとというイメージがある。それはたぶんこのひとの持って生まれた資質というか性格によるのだろうが、このアルバムでもそれは存分に発揮されていて、1曲目はたぶんこのアルバム吹き込み時には超流行りの曲、という感じだったはずの「グリーン・オニオン」でそれを演奏する、しかもアルバムタイトルに持ってくるというあたりがもう、好きです。パリ録音だが、ギターが異常に上手いと思ったらロイ・ゲインズだった。オルガン、もしくはピアノのイメージが強いミルト・バックナーだが、ハンプトンの薫陶か、じつは他楽器奏者で、ビブラホンの腕前は早くも2曲目で発揮される。それにしても振動を抑えまくった固い音のビブラホンですね。すばらしい。3曲目のバラードでのゲインズの泣けるギターもいいっすねー。バックナーは(たぶん)オルガンとピアノを同時に弾いている。感涙必死。4曲目は唸り声・掛け声のふんだんに入ったブギ。ここでもオルガンとピアノ、そしてヴァイブを弾いている。多重録音なのか? それともオルガンを弾きながら同時にヴァイヴも弾いているのか(そんなことできるのか?)。5曲目はシンプルな「スウィート・ジョージア・ブラウン」で、スウィングのひとはこの曲好きねー。オルガンソロからのピアノソロというアクロバット。パナマ・フランシスとのすばらしい4バースも聴けます。つづく「アフター・ユーヴ・ゴーン」はオルガンソロからのビブラホンソロで、これもアクロバットだ。快調すぎる。狂気のようにスウィングする演奏で怖いぐらい。7曲目は、シャンソン風の小品。こういう洒脱で粋なのもできるからすごい。ピアノからビブラホン、そしてまたピアノというひとりソロ回し。発想が変過ぎる。8曲目はドラムをバックの会話(?)ではじまる変な演奏。ベースソロのときも会話がはじまる。なぜかガハハハハと常に笑っている。陽気すぎる。ラストの9曲目は、しっとりと「ザッツ・オール」をビブラホンで。とにかくミルト・バックナーの陽気さ、ほがらかさがぐいぐい伝わってきて、少々落ち込んでいても愉快になってしまうようなアルバムだ。傑作。
「MIDNIGHT SLOWS VOL.3」(BLACK AND BLUE/SOLID CDSOL−45900SSS)
MILT BUCKNER〜ARNETT COBB〜CANDY JOHNSON
第3弾。1曲目は、コブにしてははきはきした音でストレートに吹いてるなあと思ったらキャンディ・ジョンソンでした。2曲目、3曲目はコブとキャンディ・ジョンソンの2テナー。コブが右チャンネル。パッと聴くだけで絶対にわかるこの個性はすばらしすぎる。もちろんキャンディ・ジョンソンもいいのですが、コブは圧倒的なのだ。2曲目「ミスティ」はキャンディ・ジョンソンがリードする演奏。3曲目はスローというにはややミディアムぐらいのテンポ。4曲目の「イパネマ」はコブのボサノバを期待したが、これはキャンディ・ジョンソンのワンホーン。しかし、めちゃくちゃええ感じで、ジョンソンのテナーも見事。この曲のみゲイトマウスが参加している。5曲目もジョンソンのワンホーンでこれはスローでしっとり聴かせ、太く豪快な音から細く繊細な音までを完璧に操っている。バックナーとのコンビネーションもすばらしい。6曲目以降はコブのワンホーンで、6曲目「ゴースト・オブ・ア・チャンス」の個性を丸出しにしたブロウ、とくに高音部の表現のすばらしさは筆舌に尽くしがたい。7曲目はエリントンの「ムード・インディゴ」で、キャンディ・ジョンソンも加わっての2テナーによるアンサンブルが聴かれる。ソロは先発がキャンディ・ジョンソン(すばらしい)。バックナーのソロを挟んでコブの表現力豊かなソロが展開される。かっこいいわー。ラストの「ウェア・オア・フェン」はコブのワンホーン。ミディアムテンポの演奏。とにかくテナーサックスというものを堪能できるアルバム。