「BUENA VISTA SOCIAL CLUB」(WORLD CIRCUIT/NONSUCH WPCR−5594)
BUENA VISTA SOCIAL CLUB
この手の音楽にはうといので、まあ、何度も何度も楽しんだということだけ書いておこうと思う。映画も見たし、このアルバムで演奏している老人たちからはたいへんなパワーをもらった。パワーというか、勇気といってもいいかもしれない。百歳まで演奏していいんだぜ、という楽観的な風みたいなものがこのアルバムから吹いてくる。すごいのは、全員が娯楽音楽に関してたいへんなテクニシャンであることで、たとえばトランペットの人、普通、金管楽器は早い時期に衰えがきそうなのに、ボーカルとボーカルのあいだに延々とオブリガードを吹かねばならない曲など、何度吹いてもちがったフレーズで、しかも、リズムも音のキレもよく、高音部も無理せず伸びやかなのは、これはものすごい蓄積あってのことなのだろうなと感心する。そのへんの若造とは鍛え方がちがう、という感じだ。おそらく、毎晩毎晩、五時間も六時間も仕事で吹き続けてきたのだろう。そういう音だ。いわゆる芸術とは無縁の演奏家たちだが、その深さたるや、芸術家が千人束になってかかってもうなうものではない。最高の音楽が、暗くて深い深淵からこんこんと、無尽蔵に温泉のようにわきあがってくる。人々を楽しませ、また、自分も愉しもうという、娯楽音楽と民族音楽の幸せな結婚がここにある。実は、長いから途中で聴くのをやめてしまうことが多いので、一曲目の「チャンチャン」とかいう曲とか、7、8曲目ぐらいまではほんとによく聴いたのだが、そのあとは、今回はじめて聴いたように思えた曲も多かった(そんなはずないのだけど)。次は、途中から聴くことにしようかな、いやいや、やっぱり一曲目はかっこいいからなあ、と思い悩んでいる。ほんとうはライ・クーダーの項に入れればよいのだろうが、それはしたくないので、グループ名(?)にした。でも、とかく言われるひとではあるが、ライ・クーダーはやっぱりえらい。
「LOST AND FOUND」(WORLD CIRCUIT WCD090)
BUENA VISTA SOCIAL CLUB
ブエナ・ビスタの未発表もの。いろいろな音源の残りテイクを集めたものだが、寄せ集め感もないし、正直、あまりに素晴らしくて言葉が出ない。こういう音楽はいつになっても色あせることはない。未発表だったことが信じられない、という言葉はこういうときによく使われるが、本作についてはそれがマジであてはまる。こういう音楽にはうとい私だが、リズムもすばらしいし、声も音程も表現力もあらゆるものが「演奏に年齢は関係ない」あるいは「年齢を重ねてこその表現」という感じで、1曲目の大観衆のとんでもない大歓声と、そこから力を得てどんどん瑞々しさを増すボーカル、サックスのつややかさ、ホーンセクションのゆったりしたスウィング……など、もう最高すぎる。しかも、歌詞もめちゃくちゃいい(ざっくりした対訳が日本語ライナーにはついている)。ブエナ・ビスタのファンのひとはもちろん、はじめて聴くひとも本作から入ってもなんら問題ないんじゃない? と思うぐらい充実の作品であります。主役はボーカルとリズムだが、いやいや、トロンボーンもヴァイオリンもサックスもトランペットも素敵素敵。あー、極楽極楽。こういう音楽を一日一回聞けば、なんとかやっていけそうな気がする。個々の曲について触れるような知識もないのだが、そんなことどうでもいいから丸ごと聴けばOKだと思う。ああ、ジジイ最高。