「TOYS」(WINTER & WINTER JMT EDITION 919 077−2)
URI CAINE
じつはこんなアルバムが出ていたことは知らず、ふとCDショップの店頭で見かけて、思わず購入。ユリ・ケインがハービー・ハンコックに捧げる(?)アルバム。1996年の録音だが、JMTのやつをマスタリングしなおしてウィンター・ウィンターで出し直したということか? とにかくメンバーが凄すぎ。ドラムにラルフ・ピーターソン(!)。ベースがデイヴ・ホランド、ダメ押しにドン・アライアスまで入っている鉄壁のリズムセクションに、フロントはゲイリー・トーマス、ドン・バイロン、デイブ・ダグラス、ジョシュア・ローズマンの4管。ひえーっ、凄すぎる。しかし、このメンバーをちゃんといかしてるのか、と聞いてみてぶっ飛び。もう、最高でした。おそれいりました。曲もいいし、アレンジもいいし、それぞれのソロもめちゃくちゃいいし、ジャズアルバムとしてこれ以上のものはない。メンバーが多いといくら豪華メンバーでもそれぞれのソロスペースが少なく、もったいないなあ、と思うことはあるが、本作ではそんなこともなく、十分堪能できる。11曲中ハービー・ハンコックの曲が4曲で、あとは全部ユリ・ケインのオリジナルなので、ハンコックに捧げるアルバムということなのだとは思うが、まあ、そんなことはどーでもいいぐらいすばらしい内容。1曲目はラテンぽいめちゃかっこいい曲だがが全体に漂う不穏な雰囲気がいいですね。デイブ・ダグラスの輝かしい音色のソロに続いて、ゲイリー・トーマスはソロの出だしこそ不気味な感じだが、そのあとリズムに乗ったところからはけっこうフツーのソロやなあ、と最初聴いたときは思ったのだが何度も聞くと(実際すでに10回ぐらい聴いております)、なかなかええやん……と感想が変わってきた。そして、ユリ・ケインのピアノも明るくていい。全体にラテンナンバーだけにドン・アライアスのパーカッションが大活躍している。2曲目はハンコックの「プリズナー」で、トランペットをフィーチュアしたテーマアンサンブルのあと突然ドラムソロになる。そして、ゲイリー・トーマスのモーダルなソロ。かっくいーっ。ハードボイルド! それに続くケインのソロはこれはもしかしたらケインにとっても会心のソロなのではと思えるぐらいのすばらしい長尺ソロ。ラルフ・ピーターソンのドラムもさえまくっている。そのあと一旦終わったかと見せかけて、トランペットソロがはじまり、そこにアンサンブルがかぶっていってエンディングに。3曲目はシリアスなバラード調の曲でピアノトリオ。ベースソロが大きくフィーチュアされる。4曲目はストレートアヘッドな4ビートの軽快な曲で、すごく耳なじみがいい。これもピアノトリオで、ベースソロのあとピアノが力強いビバップなソロを展開。5曲目はフリーなイントロからはじまり、トランペットが朗々とエキゾチックなテーマをルバートで歌い上げたあと、そのままずっとリズムはフリーのままトランペットを主体とした演奏となる(ピアノソロはなく、ずっとトランペットに絡んでいる感じ)。非常に幻想的で格調が高い。聞き惚れます。6曲目はラテンリズムの曲で、テーマのあとトランペット→テナー→ピアノとソロが続くが、ソロの最初の部分(はじまって少ししてから)だけ全員、パーカッションとのデュオになっている。そのあとホランドのベースソロになり、ここがめちゃくちゃかっこいい。ドラムとパーカッションのデュオになって、全員でコレクティヴインプロヴィゼイションになり(ちゃんとパーカッションとのデュオのパートもあり)、エンディング。7曲目はハンコックの「ドルフィン・ダンス」で、ベースとのデュオでのフリーな演奏。8曲目はタイトルにもなっているハンコックの「トイズ」で、いきなりのアンサンブルからのピアノソロ。そのあとのゲイリー・トーマスの自由なテナーソロ、鋭い槍で敵を突きまくるような、キレッキレで鋭角的なデイブ・ダグラスのトランペットソロ、それを受け継ぐジョシュア・ローズマンの構築的なトロンボーンソロ……どれもすばらしく、聴き応えあるものばかり。そのあとすぐにアンサンブルになってエンディング。9曲目もハンコックの「カンタロープ・アイランド」で、バスクラリネットとピアノがフリーキーに暴れまくるイントロから、バスクラがヴァンプのようなリズムを刻み出し、テーマに……という展開。おなじみの曲が古いブルースのように聞こえてくるデュエット。10曲目はユリ・ケインのオリジナルでリズムセクションのみの演奏。ハードに疾走する。こういう70年代的な感じというのは古びることなく永遠にかっこいいし、永遠に新しい。ドン・アライアスが最高で、ホランドのベースソロもこちらをえぐってくるようだ。ラストの11曲目は、ミュートトランペットとピアノのデュオによる1分41秒の短い演奏。音の跳躍が多い、ユーモラスな、モンク的な香りのする演奏。このとんでもない演奏ばかりがぎゅーっと詰まったすばらしいアルバムのエンディングにふさわしい。