francois carrier

「JAPAN SUITE」(NOBUSINESS RECORDS NBCD 125)
フランソワ・キャリリール/纐纈雅代/不破大輔/井谷享志

 カナダのアルト奏者でインプロヴァイザーのフランソワ・キャリリールが来日し、日本のミュージシャンと共演したときのライヴ。「日本組曲」というタイトルだが、全編即興。キャリリールの念頭に最初から「組曲」的な発想があったのか、収録曲をチョイスする段階でそういう気持ちになったのかはわからないが、たしかに全体を通して聴くと、ひとつの流れを感じる。ただ、各曲のタイトルが「花鳥風月」とか「落葉(らくよう)」とか「風と雲に登る」とかになっているのはだれが名付けたのだろう。おそらく全編即興である。左側でメロディアスに細かいフレーズを吹きまくっているのがキャリリールで、右側でそれにノイズ的にからんでいるのが纐纈雅代だろう。全体に不破大輔のベースが絶妙で、いわゆるベースの役割を放棄しているようでじつはすべてを根底から支えている。ドラムというかパーカッションの井谷享志もすばらしい。叩きまくる、という感じではなく、ぐっと抑制した演奏だが、要所要所に入る一撃一打の「効き方」はすごい。まるで禅寺での座禅で棒でぴしりと肩を叩くような、目がバッと覚めるような瞬間がある。ソロも空間を感じさせてすごい。こういう「全員すごい」ような即興は、正直書くようなことはなにもないのだ。ただただ聴くだけである。しかし、本作はやはりフランソワ・キャリリールのリリカルで耳に残りまくるフレージングが全体を引っ張っている感があり、耳をそばだてられる。纐纈雅代のフリーキーな演奏との対比のバランスがすばらしいと思う。キャリリールは激しいフリージャズ的なブロウをほとんどしないが(2曲目後半などにノイジーなブロウはあるが、基本的には「音」ではなく「フレーズ」でコミュニケートするひとだと思う))、演奏全体に及ぼしている影響力は半端ではない。ちょろっと吹くだけで耳をそばだてられる。こういう「存在感」みたいなものは一朝一夕で得られるものではないだろう。このひとの音色は、小さい音で吹いてもしっかりと我々聴き手の魂をつかむ。この4人はただものではない。キャリリールというひとについてはJAZZ TOKYOのインタヴューがめちゃくちゃ面白くて、キャノンボールが使っていたというアルトのこととか、正直、そんなに「ジャズ」につながるひとだとは思っていなかったので新鮮に読んだ。傑作。