joe carroll

「JOE CARROLL WITH THE RAY BRYANT QUINTET」(CBS/SONY INC.ECPZ12)
JOE CARROLL

表ジャケットにも裏ジャケットにも「ジョー・キャロル」としか書かれていないのだが、背表紙(?)に「ジョー・キャロル・ウィズ・ザ・レイ・ブライアント・クインテット」とあるのでそれに従っておく。1958年の録音だが、このひとは(私にとっては)ガレスピー楽団などで有名なバップシンガーなので、エディ・ジェファーソン、バブス・ゴンザレスと並ぶバップシンガー三羽烏(?)的なひとだと思っていたが、こうしてちゃんと聴き返してみると、なるほどなあ、ヴォーカリーズのひとではないのだ。スキャットも、(おそらく)その場の即興で歌っていて、だれか器楽奏者のソロをコピーして歌詞をつけて歌う、というタイプではなく、もっと普通の、いや、「普通の」はおかしいか、もっとちゃんとした……いや、それもおかしいな、とにかく「ジャズシンガー」である。岩波洋三のライナーでは、ビバップシンガーにも2通りあって、ひとつはスキャットを主にした自由なアドリブを目指す方向であり、もうひとつは器楽曲に歌詞をつけて歌うボーカリーズ派である、と書いているが、当のキャロルがどちらかは書いていない。しかし、前者であることは間違いないのである。なんで、書いてないんやろ。しかし、ヴォーカリーズでないからダメということはなく、いやいや、逆にめちゃくちゃ凄いやろ、と思うのがこのアルバムなのである。極上のジャズボーカルである。正直、私はジャズボーカルなるものをあまり聴かないのだが、これはいいっすねー。3つのセッションから成っており、ひとつはレイ・ブライアント、オスカー・ペティフォード、オシー・ジョンソンという極上のリズムセクションに、なんとアービー・グリーン、ジミー・クリーブランドという2トロンボーンのクインテットがバック(しかもその2トロンボーンが活躍する)というコンボで、もうひとつはブライアント、ミルト・ヒントン、オシー・ジョンソンにジミー・クリーブランド、そしてセルダン・パウエルというすばらしいメンバーのコンボ、そして、ジム・オリバーというテナーのひとが入ったコンボである。考えてみると、ジミー・クリーブランドや(私のだいすきな)セルダン・パウエルなどはこの時代における一種のスタジオミュージシャン的な辣腕のひとたちであって、どんな仕事が来てもバリバリこなすようなすごい連中なのだろうが、本作ではそれがすべて良いほうに働いて傑作となった。それらすべてをぐいぐい引っ張っているのがジョー・キャロルのボーカルであるのは言うまでもない。私も、本作をはじめて聴いたときは、なんや、ヴォーカリーズやないのか、と思った記憶があるが、このスキャットはすごいですよ。スキャットに関しては、いろいろ言いたいことがあるが、ここで文句を言ってもしかたがない。ジャムセッションで毎回同じ曲で同じスキャットをして帰るあのひとたちも、キャロルのすばらしいスキャットを聴けばいいのに。とにかく本作は手練れのリズムセクションとホーンに強烈にバックアップされた傑作であって、ジャズボーカル史に残るようなすばらしい作品だと思います。キャロル37歳という心身ともに充実した時期に吹き込まれたアルバムで、声の張りといい、リズムをみずから作り出すノリといい、スキャットの奔放さといい(「ハニーサックルローズ」とか凄まじいですね。「やってるやってるやってるやってる……」って)、本当にすごい。「ウー・シュビドゥビ」とかのバップ曲もめちゃくちゃいいんだけど、普通のスタンダードもいいんだよねー。

「JUMPIN’ AT JAZZMANIA」(JAZZMANIA RECORDS 41222)
JOE CARROLL

ジョー・ビバップ・キャロル59歳のときの録音だから(たぶん)まだまだバリバリの時期である。A面の共演者は、ロニー・キューバーとかターク・マウロとかカルヴィン・ヒル、ケニー・ワシントン(まだ若干20歳のはず)……と豪華である。1曲目の「ジャンプ・ディッティー」という曲はボーカル曲としては12分30秒とかなり長く、それぞれの奏者のショウケース的なところもあるが、アップテンポのブルース。小粋な雰囲気ではじまるものの、キャロルはとにかく冒頭から飛ばしていて絶妙なスキャットを延々披露しまくる凄まじいナンバーで(無伴奏でスキャットしまくる場面は圧巻)、ベースのカルヴィン・ヒルもそれにからみまくる(あとででて来るベースソロもいい)。ロニー・キューバーの濁った音色のバリトンもめちゃくちゃかっこいいし、そのあとのターク・マウロの腰の座ったブロウも心地よい。きっちりしたアレンジとかがあるわけではなく、一種のジャムセッションのような感じ。B面でテナーを吹いているマイク・モーというひとがバスクラを吹いていて、そのソロが最後に出てくるのだが、正直「なんでここでバスクラ?」とは思うけど、非常に上手い。しかし、途中でフリーキーなブロウになったりして、ジョー・キャロルの音楽に合っているのかどうかはよくわからん。とにかくバップボーカルとしてはとんでもない迫力の歌唱だと思う。2曲目の「ハニー・サックル・ローズ」も洒脱な感じで始まり、いわゆる正統的なジャズボーカルとは微妙にちがうバップボーカルの神髄がここで聴ける。つまり、遊び心というか、諧謔精神というか、鬼面ひとを驚かすというか、そういう感覚である。キャロルにかぎらず、エディ・ジェファーソンやバブス・ゴンザレスにもそれを感じる。B面は5分前後の曲が並んでいて、A面に比べるとバンドもこじんまりした感じもあるのだが(ベースだけカルヴィン・ヒルで共通)、B−1は「イエス・サー・ザッツ・マイ・ベイビー」という、これも洒脱なスタンダード(?)なのでしょうね、A面でバスクラを吹いていたマイク・モーというよく知らないテナーサックス奏者などなのだが(このひとのことはいくら調べてもよくわからん)、このマイク・モーというひとがずっとオブリガードをつけていて、すごく上手い。ハリス・サイモンのピアノもわかりやすく歌心のあるスウィンギーなピアノでキャロルに合っていると思う。2曲目は「ワー・ワー・ブルース」というスローブルース。曲名どおりキャロルが「ワーワーワーワーワー……」と歌う曲で、これはなんなんだろう、声質も変えているし、なにか管楽器を模しているのだろうか、よくわからんが、とにかく面白い。堂に入ったマイク・モーのテナーソロもすばらしいと思う。途中でフリークトーンを発したりして、このひとはいったいどういう経歴のひとなのだろう。ラストはもうヤケクソみたいな無伴奏のスキャットになる。キャロルすごい! 3曲目はおなじみの「ワッチ・ファット・ハップンズ」だが、正直、私はミシェル・ルグランの「シェルブールの雨傘」の原曲にはあまりなじみはないのだが(映画は観ました)、いろいろなジャズミュージシャンが取り上げているので曲はよく知っている。ここではやや変則的なボサノバ風(?)にアレンジされていて、テナーソロに続くピアノソロが軽快で心地よい。でも、キャロルがどうしてこの曲を……という気はしないでもない。ラストの5曲目はキャロルの代名詞ともいうべきルイ・ジョーダンの「スクールデイズ」をテーマ風に歌ってエンディング。