「GENTLEMEN OF SWING」(東芝EMI EWJ−8188)
AUREX JAZZ FESTIVAL ’80
私はこのグループの演奏を生で観たのだが、その瞬間まで正直言って、ベニー・カーターという名前もハリー・エディソンという名前も聞いたことがなかった。テディ・ウィルソンとシェリー・マンは知っていたが、ミルト・ヒントンもヘレン・ヒュームズも知らんかった。なにしろ高校生ですからね。すいませんね。というわけで、馬鹿でかい会場でこのグループの演奏を聴いたのだが、このアルバムではA面2曲目に入っている「ハニー・サックル・ローズ」のテーマのアンサンブルが、「なんか変な感じやなあ」と思ったことを覚えている。なにしろこっちはアルトサックスといえば、ナベサダか坂田明、ドルフィなどしか聴いたことがない人間だったのが、いきなりベニー・カーターではわかるわけがない。「はあ……?」という感じで聴いていたが、そのフレージングのシンプルさに、内心「もしかしたら俺でも吹けるんちゃうか」という気持ちもあったと思う(当時は、サックスを聴いて、これはできる、これはできない、という分け方をしていた)。しかし、その直後、ラジオやテレビでそのときのライヴ音源ががんがんかけまくられて、いつのまにか耳馴染んでしまった。そのうちに、ベニー・カーターってもしかしたらすごいんちゃうか、と思うようになっていったのだ(←あたりまえ)。そして、だんだん深みにはまって熱烈なファンになり、オールスターズでの来日公演も見に行き、感動しまくるという展開がその後に待っていようとは、このライヴの現場にいたときは知るよしもなかったのである。しかし、今から考えてみたら、このメンバーは異常なまでに豪華だし、しかも(ここが大事だが)実年齢とは関係なく、当時、現役バリバリの第一線のミュージシャンだったのだ。ベニー・カーターもテディ・ウィルソンもミルト・ヒントンも70歳前後だったはずだが、年齢とは関係なく、とにかく指がもつれたり、リズムが狂ったり、音がしょぼかったり、音程がおかしくなったりすることなく、楽器のマスターとして活躍しているひとたちだった。こういう大規模ジャズフェスだと、昔の名前で出ています的なスターが出てきてぼろぼろの演奏をする……といった悲劇もよくあるが、そんなことは微塵もないスウィングジャズのスーパーミュージシャンたちだった(シェリー・マンはスウィングというくくりに入れるのはおかしいかもしれないが、あまりにもぴったりはまっていたし、見事なサポートで溶け込んでいた)。ミルト・ヒントンの凄さにもびっくりしたし、とくにテディ・ウィルソンは絶頂期となんらかわらない音楽性の高さで開いた口がふさがらなかった(A3、4のトリオを聴けば納得していただけますでしょうか)。でも、なんといってもベニー・カーターです。このレコードを聴いてもわかるが、アホみたいにうまい。簡単そうにみえて、めちゃめちゃトリッキーなことやアイデアに満ちたアプローチを、歌心の
りげなく放り込んでくる。そして、音色ですよ! もう今となっては聴きたくても聴けない、パーカー以前のアルトの輝かしい音。あー、もうたまらん。というわけで、最近だと「なんや、日本のジャズフェスのライヴかい」という扱いになってるかもしれないが、信じられないほどいい内容なので、見かけたらただちにゲットしたほうがいいですよ。なお、第一回オーレックスのアルバムは4枚出ているが、本作とあと「ジャズ・オブ・ジ・エイティーズ」というアルバムが凄すぎるので、そちらもぜひ。