joe chambers

「PHANTOM OF THE CITY」(CANDID TKCB−30660)
JOE CHAMBERS

 ジョー・チェンバースというと、地味なドラムという感じのイメージがあるが、本作はライヴで、しかも超絶技巧のボブ・バーグと若手バッパーフィリップ・ハーパーの2管、ピアノはジョージ・ケイブルスということで、非常に派手な(?)演奏である。1曲目はいかにも60年代新主流派っぽい曲で、とても90年代の演奏とは思えないが非常にかっこいい(ジョージ・ケイブルスの曲)。管が入らないピアノトリオで、アップテンポでピアノがパターンをずっと弾き続ける。チェンバースはドカドカ叩きまくるわけではないが、シンバルワークが絶妙。2曲目から管が入る。ラテンっぽいリズムだがマイルスの曲だけあって、ただご陽気に、という感じではない。ボブ・バーグのテナーが入ると、ぐっとバンドに力がこもるような気がする。ジョージ・ケイブルスのピアノも美味しい。3曲目はジョー・チェンバース作のバラードでマイルスに捧げられたもの(もともとはそうじゃなかったらしいが、ちょうどマイルスが亡くなったということで、アルバム編集時にタイトルを変更したらしい)。チェンバースのコンポーザーとしての才能も確認できる。なんといってもボブ・バーグのすばらしいバラード表現が聴きもの。ええ音や〜。4曲目もチェンバースの作曲で、暗い曲調のボサ。ちょっとモードっぽい。ボブ・バーグのテナーもリラックスしたなかに鋭いフレーズを混ぜる。上手いよね。フィリップ・ハーパーのソロは若さ爆発で、ややバランス悪いかもだが、それでもいいのだ! ジョージ・ケイブルスのソロはテクニックが美しさに奉仕している。エンディングも渋い。5曲目はショーターの「エル・ガウチョ」。ブルーノートの「アダムス・アップル」に入ってる曲だが、あれのドラムがジョー・チェンバースだったわけです。シンバルのリズムで始まるが、テーマのハモリもかっこええなあ。先発ソロはハーパーで、ちょっとよれ気味だががんばっている。つづくボブ・バーグはさすがの貫録で、スクリームから超絶技巧からファンキーからモーダルまで織り交ぜて、「どやっ!」という感じ。すばらしいソロ。ボブ・バーグの面目躍如。ピアノソロのあとにけっこう長いベースソロがある。6曲目はスタンダードで、バラード。フィリップ・ハーパーのトランペットの無伴奏ソロからテーマに入る。この録音時25歳だったそうだが、なかなかええんちゃう。リー・モーガンみたいに思い切りの良さがあるわけではなく、あくまでしっかりと地に足のついたプレイをしていて好感が持てる。最後の7曲目はジョー・ヘンダーソンの「イン・アンド・アウト」。これもブルーノートのやつはチェンバースがドラムなのだ。ん? マイルスに捧げるとかいってて、実はチェンバースによるブルーノート再現企画だったのではないか? アップテンポのブルースだが、テーマがむずかしそう。ピアノソロが最初で、二番手はハーパーの律儀なソロ。そして、ボブ・バーグはソロの出だしからして「さすが!」。意表をつくだけでなく、かっこよさもある。そして、次から次へと魔法のように繰り出される多彩なフレーズと、低音から高音までを自在に駆使しためくるめくフィンガリング。凄すぎる。本作の白眉というべき演奏が一番最後の曲の最後のソロで来るとはなあ。ボブ・バーグファンはこの曲でのソロを聴くためだけにこのアルバムを買っても損はしないと言っておきましょう。そのあとの4バースも凄い。というわけで、やはり全体に、ライヴであるにもかかわらず、ドラムはほとんど派手に叩かないが、結局、随所を引き締めており、作曲も2曲提供していて、ジョー・チェンバースの音楽という感じにはなっている。ジョー・チェンバースのそういうところを、あのころ、ジョー・ヘンダーソンやハンコック、ショーターらは欲したのだろうなあ、ということがわかる一枚でした。