ray charles

「THE RIGHT TIME」(ATLANTIC P−6184A)
RAY CHARLES

 レイ・チャールズのアルバムはさほどたくさん聴いたわけではないのだが、これがいちばん好き。曲がいいですよね。一曲目の「サンゴナシャイナゲーン!」という曲がまず好きなのです。あと「サムデイ・ベイビー」(後年、だれかが歌っている「ウォリード・ライフ・ブルース」を聴いて、どうして聞き覚えがあるのかずっと悩んでいたが、レイ・チャールズで覚えていたとはうかつでした)とか「フィーリン・サッド」とか「ロンリ・アヴェニュー」(かっこいい!)とか「リーヴ・マイ・ウーマン・アローン」とか……。B面もいいんだけど、A面に私の好きな曲は集中しているので、ついA面を聴いてしまう。よく、レイ・チャールズがコマーシャルだ、といって非難するひとがいる。また、ピアニストとしてはたいしたことないよ、というひともいる。でも、レイ・チャールズのよさはそのコマーシャルさにあるわけで、「ジョージア」から「愛しのエリー」までやってしまう、その潔い、サム・テイラー的なコマーシャル感覚がブラックエンターティナーとしてすばらしいのでは? 彼の歌い方は、聴いているうちに覚えてしまい、つい一緒に歌いたくなるようなものが多いのだが、そんなところも広範囲な人気を得た理由だと思う。

「RAY CHARLES」(ATLANTIC 8006)
RAY CHARLES

「ザ・ライト・タイム」とだいたい同じかちょっとまえの、アトランティック吹き込み最初期を集めたアルバム。個人的には「ザ・ライト・タイム」ばかり聴いてしまい、このアルバムはあんまり聴かない。「ハレルヤ・アイラヴ・ハー・ソー」とかヒット曲も入っているんですが……。もちろん、けっして悪くないけど、これはたんに好みの問題ということですね。ところで、このころのレイの音楽って、非常に古くさいジャズっぽいイントロではじまったりするのだが、レイが歌いだすと、これがなぜか、いきなり都会的というか新しい感覚がぶわーっと広がっていく感じがする。そこにローリングするピアノと女声コーラスが加わって、レイ・チャールズ・ミュージックになっていくのだが、やっぱりレイは時代を先取りしていたのだろうな。

「THE GENIUS OF RAY CHARLES」(ATLANTIC 1312)
RAY CHARLES

 とにかくものすごい豪華メンバーのビッグバンドを従えてレイ・チャールズがピアノを弾き、歌うわけだが、バックバンドが豪華だからといって、それがイコール作品の良さになるわけではない。なにしろ、ベイシーとエリントンのええとこどりをしたようなメンバーにデヴィッド・ニューマンらアトランティック陣が加わった、ドリームバンドなのだが、いかんせん誰にもソロがまわらない。レイ・チャールズを聴くべきアルバムなのだから、それはそれでいいはずなのだが、それだったらなにもこんなに豪華にして期待を持たせなくても、誰だっていいんじゃないの? と思ってしまう。もちろん悪いアルバムではなく、逆にすごくいいんだけど、うーん、やっぱりこれだけのメンバーがいるのに、ほとんど使わないというのはどうもなあ……。ついついモッタイナイと言いたくなってしまうところが、この作品の欠陥といえば欠陥か。

「RAY CHARLES AT NEW PORT」(ATRANTIC RECORDING CORPORATION 1289)
RAY CHARLES

 レイ・チャールズのアトランティックのアルバムはたいがい好きだが、ビッグバンドものは綺羅星のごときメンバーを揃えているわりに管楽器のソロがほとんどなかったりして、そういう意味での楽しみ方はできないのだなあと思っていた。例えていえばブライア・セッツァーのビッグバンドをバックにした演奏のようなもので、本人がひとりで歌ってギターを弾いてそれで完結するのだから管楽器なんぞにはソロは回す必要がないのだ。しかし、レイ・チャールズのこのニューポートジャズファスティバルのライヴは例外的にメンバーにたっぷりソロスペースがある。ビッグバンドではなく、4管編成でギターなし、コーラス入り……という編成だからかもしれないが、これがめちゃくちゃかっこいいのである。それもそのはずで、その4管というのはハンク・クロフォードがアルトとバリトン、ファットヘッド・ニューマンがテナーとフルート、トランペットにマーカス・ベルグレイブとリー・ハーパー(リーダー作も複数あるひとらしい)。レイ・チャールズ本人もアルトサックスを吹いているのだが、たとえば1曲目はイントロがアルトソロで、それと同時にピアノのバッキングも聞こえ、ソロが終わった途端にボーカルも入るので、後藤誠氏によるライナーには「レイ本人の演奏するアルトサックスによるイントロ」とあるが、ちがうような気もする(バリトンはアルトソロが終わったあとに現れるのでハンク・クロフォードだとしても問題ない)。レイレッツのコーラスが盛り上げるが、レイのボーカルのあとに出てくるマージョリー・ヘンドリックスという女性ボーカルのシャウトはめちゃくちゃ凄い。2曲目はマラカスと男性陣のコーラスというか掛け声(?)が効いているユーモラスなラテンナンバーだが、トランペットがぎゃんぎゃん鳴っててなかなかの迫力です。3曲目は「アイ・ガッタ・ウーマン」で、ファットへッド・ニューマンのええ感じのソロがちらっとだけある。ライナーにはテナーとあるがこれはアルトでは? ソロが終わってすぐにバリトンの音がアンサンブルで聴こえるのでハンク・クロフォードではないと思う。まあ、そんなこんなを想像しながら聞くのも楽しい。あとはレイがひとりでひたすら盛り上げていく。4曲目は「ブルース・ワルツ」というタイトル通り、3拍子のブルーズでインストのソロ回し曲。ちゃんとバッキングのアレンジもある。先発のトランペットはライナーによるとリー・ハーパーだそうだが、高音中心の張り切った音色のかっこいいソロ。つづいてハンク・クロフォードのバリトンソロ。そのあとのトランペットがライナーによるとマーカス・ベルグレイヴだというが、こちらはけっこうよれよれになっていて、ほんとかなあと思う。最後はデヴィッド・ファットヘッド・ニューマンの圧巻のテナーソロ。もう、音色を聞いているだけでかっこいいのである(←贔屓しすぎ)。レイ・チャールズのピアノソロはブルーノートペンタトニックオンリーで俺は行くぜ、的なやつ。5曲目もインストのブルースでのソロ回し。ラストに出てくるアルトはたしかにレイ・チャールズだと思う(フレーズはいいけど、音がへろへろだ。でも、このアップテンポでこれだけ吹けたら十分)。六曲目はふたたびレイレッツ登場で盛り上がる。こういう曲がいちばんレイ・チャールズらしい。リフをバックにしたデヴィッド・ニューマンの引き締まったソロがかっこいい。7曲目はビッグバンド風のしっかりしたアレンジの曲でレイ・チャールズのピアノがフィーチュアされる……というよりアンサンブルを聞かせる曲か。ベイシーみたいでかっこいい。ラストはおなじみの曲だが、本人がMCで繰り返しブルースと言っているのだが、こういう進行もブルーズというのか。ゴスペルっぽい感じです。