albert cirera

「BEFORE THE SILENCE」(NOBUSINESS RECORDS NBCD96)
ALBERT CIRERA HERNANI FAUSTINO GABRIEL FERRANDINI AGUSTI FERNANDEZ

 そもそも、まず、なんでこのアルバムを購入したのか覚えていないのだ。ある日、急にディスクユニオンから送られてきたのだが、買った覚えがない。しかし、履歴を調べるとたしかに注文している。どうやら夜中に酔っ払って、ディスクユニオンのサイトでいろいろ見ているときに、ふと欲しくなって発注したらしい。まあ、しゃあないなと思って聴いてみると、いやー、びっくりしました。めちゃいいじゃないですか。出会いというのはこういうものか。編成は古典的なワンホーンカルテットで、内容的にはフリーインプロヴィゼイションというより昔ながらのフリージャズ。でも、かなり上質。しかも、現代的な切り口や視線もあり、テクニックもものすごくしっかりしていて、大暴れして盛り上がる場面もやたらとあるのだが基本的には「俺は今なにをやっているのか」ということがわかっているクールネスがある……という、私にとって美味しいとこだらけなものだった。アルベルト・シレラ(と読むのか?)はテナーはソプラノもすばらしく、音色は太く、グロウルしてブロウするところはシェップ的でもあり、かといってダレることもなくテンションはずっと張りつめている。(フリージャズ的な)歌心もあって、たんにぎゃーぎゃー吹いてるやつとはまったくちがう、「心得た」演奏で、ボキャブラリーも多彩でしかも迫力もある。なかなか最近はいないタイプでは? ピアノもオールドスタイルなフリージャズ的だが、これがこのテナーのひとにばっちり合っているのだ(ピアノ、めちゃくちゃ上手いです)。どんどん昂揚していく演奏を聴いていると、こうした古い「フリージャズ」的な方法論は現在でもずっと力のある表現方法なのだと確信できた。古いというのはダメだということではない。私が一番好きなのが、こういう「ジャズのしっぽを引きずっているような前衛」であって、たとえばデヴィッド・ウェアやチャールズ・ゲイル、ブロッツマン、エヴァン・パーカーなどは、たとえ本人が「俺の演奏をジャズと呼ぶな」と言ってたとしても(言ってるかどうかはしらん)、どうしてもどこかに「ジャズ」という言葉を使わないとおさまりが悪い。パワーミュージック的で、マッチョでもある。1曲目のタイトルが「ビフォア」、2曲目が「ザ」、3曲目が「サイレンス」であることからもわかるように、全体がひとつの組曲のような流れになっているライヴである。体力勝負で、その頂点への持っていきかたなど中村誠一時代の山下トリオのおもむきもある。いやー、これは楽しい。傑作。ライナーは、いまいちよくわからないのだが、テナーのアルベルト・シレラがバルセロナからリスボンに移住して、ピアノレスのトリオ(リスボントリオ)を結成し、そこにピアノのオーギュスティ・フェルナンデス(と読むのか?)が加わったカルテットでのライヴ……ということでいいのかな。