「SONNY CLARK TRIO」(TIME RECORDS ULS−1801−V)
SONNY CLARK
ピアノトリオというものにあまり関心がなく、ほとんど聴かないし持ってない。家にあるのは10枚ぐらいだろうか(バド・パウエルとモンクと明田川荘之と山下洋輔と本田竹廣を除く)。その10枚のうちの1枚が本作で、なぜか昔から好きでちょいちょい聴く。理由はよくわからないし、ソニー・クラークがめちゃくちゃ好きというわけでもない(ほかのリーダー作は持ってないなー。ブルーノートのソニー・クラーク・トリオも、クール・ストラッティンも持ってない。あ、ダイアルSフォーソニーというのを持ってるかも……)。とにかくこのアルバムがなぜか気に入っている。A面に4曲、B面に4曲の計8曲入っているが、全曲ソニー・クラークのオリジナルで、つまり意欲作なのだろうが、そういうアルバムはときとして意欲が前面に出過ぎたりするものだが、本作は非常にリラックスして楽しい。ええ曲書くなあ。まあ、ソニー・クラークについて私ごときが語れるのはこんなところでしょうか。傑作。
「SONY’S CRIB PLUS 3」(BLUE NOTE RECORDS/東芝EMI CP32−9509)
SONNY CLARK
なんで今このアルバムを聴いてるのか、というと……とくに理由はなく、CDの山のなかからたまたま出てきたからである。1988年に出た日本盤のようだが、3200円というのはなかなか高価である。こういうハードバップ(なにをもってハードバップと呼ぶのかはなかなかむずかしいが、本作はそう呼んでもかまわないでしょう)。一曲目はアップテンポの曲だが、いきなりイントロもなくドナルド・バードの張り切ったトランペットがテーマを吹き始めるというけっこう衝撃的な開幕。そこにコルトレーンがちょこっとオブリガードをつけたりするので、3管だがヘッドアレンジだと思われる。でも、雑な感じもなく、すごくまとまっていてかっこいい。しかし、コルトレーンというひとは本当にスタイリッシュですね。この音色、フレージング、リズムのノリ……絶対に聞き間違えないだろう個性が横溢している。こんな演奏をしていたコルトレーンが後年フリージャズの世界に足を踏み入れ、ドナルド・バードはあのファンクの世界に突入したことを思うと、ここで聴かれる演奏はほんの一瞬だけ成立した短い輝きだったのだなあと感無量である。この曲の別テイクもOKテイクとほぼ遜色ないのだが、後者は4バースがある点が異なっている。つぎは「スピーク・ロウ」だが、この曲は8+8+8+8ではなく、16+16+8+16という(ジャズとしては)珍しい構成なので、コルトレーンがソロのとき、ちょっと間違えている。しかし、そんなことはどうでもいい、と思えるほど、コルトレーンのソロは音色もフレーズも圧倒的しか言いようがなく、ひたすら聞き惚れてしまう。すぐに立て直したので音楽的にもまったく問題がない。ベーシックなトラックを先に録音するような形での演奏ではこうはいかないわけで、やっぱりジャズというのは顔を突き合わせてせーのでやるのがいいのではないかと思ったりしました。別テイクも悪くはないが、構成をまちがえている本テイクの方がずっと緊張感があっていい演奏だというのもジャズの面白さだと思う。つぎは「カム・レイン・オア・カム・シャイン」で、ここではバラード的に。フラーがワンホーンでテーマを吹く。このアルバムで感じるのはフラーのがんばりで、ジャズテットといい、やや茫洋とした演奏が多いフラーだが、このアルバムでは全編にわたってドスの効いたすばらしい演奏を繰り広げている。ソニー・クラークもアルバム中最高といっていいようなピアノソロではないかと思います。コルトレーンのソロも音色を見事に生かした最高のもので、「ブルー・トレイン」はもちろんすごいんだけど、素直なハードバップとしては本作の方を好むひとがいても不思議はない。最後はバードのカデンツァで締めるのだが、ここも見事な演奏だ。つづいてはタイトル曲である「ソニーズ・クリブ」で、めちゃくちゃシンプルなリフブルースにサビをつけたもの。いやー、いくらなんでも……と言いたくなるような、一瞬で考えたとしか思えないシンプルさ(まあ、「ブルー・トレイン」もそうだといっちゃあそうなんでしょうが)。しかし、先発のコルトレーンのソロがはじまると、突然ものすごい名演になってしまうわけで、このあたりもジャズの面白さ(そればっか)。それにしてもこのコルトレーンのソロはすばらしい。丸コピーして勉強したらさぞかし役に立っただろうなあ。もう、そんな根性はないけど。別テイクはかなりテンポが速い。不気味なフレーズではじまるコルトレーンのソロはまさに個性の塊。本テイクもこのテイクも本当にすばらしい。新時代のブルースのお手本のような最高の演奏だと思う。ラストはジョン・ゾーンで有名な「ニューズ・フォー・ルル」で、ちょっと聴くと変拍子にも聴こえるようなマイナーの2−5曲。ビバップ的にストイックなピアノソロが大きくフィーチュアされる。そのあと管楽器のソロが続くが、やはり聴きものはコルトレーンかなあ。いや、ほんと「聞き惚れる」感じなのである。珠玉の名ソロと言ってもいいとも思います。フラーも相当がんばっていて感動。
ソニー・クラークのリーダー作ではあるが、正直、管楽器の三人の方が目立つ演奏である。しかし、そういうことも含めて、クラークの音楽になっているわけだから、本作は大成功ということになるのではないかと思う。クラークのピアノソロは全編すばらしい。