「SAX NO END」(MPS RECORDS/SABA SB 15 138)
KENNY CLARKE/FRANCY BOLAND BIG BAND
本来はエロいジャケットのアルバムだが、うちにあるのは白いジャケットにマジックで「サックス・ノー・エンド」と殴り書きされていて、なぜかスウィング・ジャーナルの評が切り取ってそこに貼ってある、というわけのわからん中古のLPである。ちゃんとしたのが欲しかったのはもちろんだが、学生時代、本作があまりに好きすぎて、しかも、入手困難すぎて、ついついこんな中古に手を出してしまった(だから、情報が全然ないのです)。クラーク〜ボラーンビッグバンドのアルバムのなかでもいちばん好き。このバンドはモダンジャズのビッグバンドではあるが、サド・メルのほうが先鋭的で、よりストレートアヘッドな、スウィングジャズのテイストもあるバンドだと思う。キャッチーな曲調の曲と素直でかっこいいアレンジ、綺羅星のようなソロイストたち、彼らを力強くプッシュするリズム……というビッグバンドジャズの王道中の王道バンドである。とくに本作はストレート一直線で、あのロックジョウがゲストである。グリフィンがレギュラーメンバーなので、あの「タフ・テナーズ」チームがビッグバンドとして再現されたわけである。しかも、ふたりともギトギトと脂が落ちるぐらい元気な時期であり、もう言うことなしの演奏が繰り広げられる。1曲目はリフを3回繰り返すだけのブルース+8小節のリフというシンプルな曲だけどものすごくかっこいいのです。プランジャーミュートのトロンボーン→サヒブ・シハブのバリトン→溌剌としたアルト(たぶんデレク・ハンブル)→オープンのトロンボーン→ロックジョウの個性丸出しのブロウ→グリフィン……という展開で、そのあとアンサンブルになるが、ライオネル・ハンプトンか! と言いたくなるぐらいのシンプルでパワフルな譜面である。スタジオ録音だが、これ以上ないというぐらい熱い演奏だ。顔見せのソロ回しの曲ということだと思うが、それを越えている。2曲目は表題曲で、いきなりロックジョウの個性丸出しの(というのはさっき書いたなー)ソロからはじまる。パーカッションが利いている。そのあとサックスソリになるが、あー、これ、やってみたい、と学生や社会人バンドが思うような「ちょうどええ加減」なソリだ。その後のリフやらなにやらの展開も含めて、本当にかっこいい曲です。3曲目はグリフィンをフィーチュアしたミディアムテンポのブルース。最初にソロをするのはグリフィンで(ワンコーラスだけ)そのあとトランペットソロがあり、もう一度(たぶん)グリフィンのソロになる。かなりエグいソロだが、淡々としたテーマに戻るあたりもいいですね。4曲目はまたまたブルースで、ロックジョウをフィーチュアした曲。豪快にブロウするが、アレンジとばっちり融合していてすばらしい。B面に移って1曲目はマーチのリズムによるマイナーな曲で、アレンジもなかなか感動的です。トランペットをフィーチュアした演奏だが、非常に短い点もボーランの意図を感じる。。2曲目はトランペットとバンドの掛け合いによるブルースだが、ソロは(おそらく)ロニー・スコット、グリフィン、ロックジョウというテナー三人衆の順番。やはりロックジョウの個性が一歩抜きんでている。アンサンブルに続いてサヒブ・シハブのバリトン、トランペット……とソロが続き、テュッティになる。3曲目は「ピーターのワルツ」。マイナーでオールドタイムな雰囲気のワルツ。すごくいい曲。バッピッシュなトランペットソロ、グリフィンの超速いソロ、サヒブ・シハブのバリトンソロ(けっこう長い)。ラストのシハブの短いカデンツァもいいですね。ラスト4曲目はマイナーなリフ曲で、グリフィンとロックジョウが真っ向からバトルする。先行はグリフィンで、アーティキュレイションといい、音色といい、グリフィンの魅力のすべてをぶつける。ロックジョウはとにかくひたすら個性で勝負するソロで、めちゃくちゃかっこいい。まあ、キングコング対ゴジラですね。どっちがいいとか言ったら叩き潰される。すばらしい演奏であります。クラーク〜ボーランではいちばん偏愛しているアルバム。傑作。