creative music studio

「ARCHIVE SELECTIONS VOL.1」(INNOVA 805)
CREATIVE MUSIC STUDIO

 不勉強でよく知らんのだが、要するに、ニューヨークのウッドストックにあるクリエイティヴ・ミュージック・スタジオというスペースがあって、演奏活動や教育活動を行っており、そこでの演奏アーカイブが膨大なものがあって、それを順次発表していく……というようなことらしい。クリエイティヴ・ミュージック・スタジオは、71年にオーネット・コールマンとカール・ベルガーとイングリッド・セルツォ(と発音するのか? 女性ダンサー)によって設立され、84年までアクティヴに活動した。本作はそのアーカイヴ第一弾で、3枚組。1枚目は、まずエド・ブラックウェルとチャールズ・ブラッキーンのデュオではじまる。4曲入っているが、ソプラノ2曲、テナー2曲。ソプラノでは、ベースもピアノもいないのに、ひたすらコード感のあるフレーズを吹きまくる。テナーでは、けっこうフリージャズっぽいアプローチをみせる。ブラックウェルはどのトラックでもすばらしい。この3枚組を買った理由は、このデュオが聴きたいというのが一番だったが(チャールズ・ブラッキーン、めっちゃ好きなんです)、たいへん満足いたしました。つぎは、デヴィッド・アイゼンソンのトリオで、イングリッド・セルツォのボーカルとカール・ベルガーのピアノという変則的な組み合わせ。1曲目は(おそらく)アイゼンソンのジャズっぽいベースとヴォイス(?)が掛け合いをするという、なんだかよくわからないけどシニカルなユーモアを感じる演奏。たぶんソロだと思う。2曲目はセルツォのボーカルがメロディを美しく歌う。どうも、アイゼンソンというとオーネット・コールマン・トリオのイメージがあるが、こういう演奏もするんだなあ。3曲目は(クレジットにはないが)ベルガーはヴィブラホンに持ち替えて、セルツォの語りのようなヴォイス、そしてアイゼンソンの弓弾き……これが一番、我々の知っているアイゼンソンっぽいかも。すごく雰囲気があって面白い。つぎは、クラシック〜現代音楽〜インプロヴァイズドを股にかけるふたりのピアニストのデュオ。作曲家として有名なフレデリック・ジェフスキーと、カーラ・ブレイやジュリアス・ヘンフィルのコンポジションに取り組むこれも有名なピアニスト(女性)ウルスラ・オッペンスによる演奏……と書いたが、ふたりとも私は知りません。ネットで検索すると、たいへんな大物ふたりなのだと分かったが、知らんもんは知らん。カール・ベルガーの曲を演奏している、とのことだが、非常に抑制されたパフォーマンスで、クールネスを感じる(でも、ときどきぶわーっと盛り上がる)。1枚目のラストはリロイ・ジェンキンスとギターのジェイムズ・エメリーのデュオ。まさしく「フリー・インプロヴァイズド」な演奏で、1曲目はゆったりした、ヴァイオリンを存分にフィーチュアした美しい即興でギターも実に見事。2曲目は速い、力強い演奏で、ギターが痙攣したようなパルスを弾きまくり、緊張が持続する。というわけで2枚目ですが、こちらはオーケストラパート。CMSオーケストラという、まったくメンバーも人数も楽器編成もわからない、おそらくはそこで学んでいる生徒によって組織されたのだろうオーケストラを、3人のミュージシャンが指揮する。まずは、オル・ダラ作曲・指揮による「アンタイトルド」な3曲。1曲目はブルースで、それもほんとにシャッフルのドブルース。オル・ダラはブルースハープ(下手)を吹く。トロンボーン、サックス(バスクラ?)、ピアノ、ベース、ドラム……とブレイクでワンコーラスずつソロが回ったあと、べつのテーマリフ(ブルースではない)が登場するが、めちゃくちゃいいかげんで、ちゃんと練習した形跡もあまりなく、初見かも。このテーマをかなりしつこく繰り返して終わり。なんのこっちゃねーん、という曲。2曲目はアップテンポで、いきなりオル・ダラのトランペットソロからはじまる。そこにいろいろなリフがバッキングで入るが、かなりどさくさな感じ。そのあとビートがなくなってちょっと混沌としたなかを和風(?)のテーマが奏でられ、そのなかからまたビートが復活して、アルトサックスのソロ。フリーキーにがんばっているが、バックのリフやドラムのせいで、あまり聞こえない。またしてもビートが消えて和風アンサンブルになって一旦終了。そこからゆったりした3連のリズムでトランペットがリードするべつのテーマのあと、全員が止まってフルートの無伴奏ソロ→いきなりアップテンポになって、オル・ダラとアルトサックス、フルート、トロンボーン、バリトンサックス、バスクラ……などが順番に短いソロをしていく(長さは決まってないらしいくてよくわからない)。リフが入って全員が合わせ(このあたりは指揮だろう)、また曲調が変わって、べつのリフになる。感じからして、オル・ダラが指示を出して、皆が合わせているのだと思うが、音楽としての成果はいまひとつよくわからん。3曲目は、変態レゲエ的なリズムに乗ってゆったりした吹き伸ばしのテーマがかぶさる曲。ただそれだけで、だれかのソロがあるわけではないのだが、なかなかおもしろいといえばおもしろい(?)。続いては、オリバー・レイクがリーダーのオーケストラで、これはもう文句なくおもしろい演奏。1曲目はギター無伴奏ソロ(マイケル・グレゴリー・ジャクソン)ではじまり、ドラムソロ、ギターソロが交互になって、オリバー・レイクの無伴奏アルトソロになり、ベースとドラムが入ってアルトサックスがフリーに吹きまくるトリオになる。そこから変態的なテーマアンサンブルがはじまって、ドラムが叩きまくる……という展開。いやもう、かっこいいです。2曲目はビート感のないフリーフォームなアンサンブルがめちゃくちゃいい。いかにもオリバー・レイクという雰囲気の不穏な曲で、どういう譜面になっているのかよくわからないが、メンバーもぴしっと合わせていて、オル・ダラのときとはちがう。非常に浮遊感のあるギターソロになり、アルトとバスクラが現れてより浮遊感を出し、テーマアンサンブルになる。最後はたぶんレイクの無伴奏ソロ吹きまくりになって、そのまま終わっていく。この曲もかっこええな。3曲目は全員でのゆるゆるとした集団即興で始まり、そのままのテンションでだれが主役というわけでもなくずっと続いていく。それが最後の最後で、バーン! とテーマに入って、さっと終わる。スタイリッシュですね。4曲目は、これもまたジャズロック風のリズムに、もろにR&B的なテーマが乗るブルースナンバーで、トロンボーンのジェイムズ・ハーヴェイが豪快に吹きまくる。うまいけど、めっちゃ普通ではある。つづいて(たぶんレイクの)アルトサックスソロ。ブルースであることを踏まえつつ、自己表現を行っている。でも超短い。ラストテーマのあと混沌としたフリーな状態になり、またテーマが現れる(これは常套ですね)。2枚目の最後を飾るのは、1曲だけだがロスコー・ミッチェルがリーダーのオーケストラ。ピアノとほかの楽器の吹き伸ばしが不穏な雰囲気をかきたてるイントロ的な部分が延々続き、そこにロスコーのアルトがときどき妙なノイズを入れる。その度合いが激しくなっていき、そこにトロンボーン(ギャレット・リスト)が加わり、バックが消えて、ふたりだけの掛け合いになる。これがけっこう長くて、いやー、ロスコー・ミッチェルやなあ、と思っていると、ついにはひとりでフラジオ(というかリードのきしむような音)でキーキーいいだし、そのあと唐突にアンサンブルになる。といっても、ビート感のない、混沌としたもので、底辺にずーっと吹き伸ばしがあるのだが、そのうえでクラリネットなど数本の管楽器がフリーにソロをしている。このあとどうなるのかと思って聴いていると、それらが自然発生的に一種のアンサンブルを構築していき、突如、わけのわからないテーマが始まる。なんやねんこれと思っていると、またしても突如終わるのだ。さすがにロスコー・ミッチェルである。わけのわからなさにかけては天下一品だ。CD3枚目は、ワールドミュージック。最初の3曲はイスメット・シラールというトルコのジャズミュージシャンのグループで、ドン・チェリーとも演奏していたひとらしい。クリエイティブ・ミュージック・スタジオを介してさまざまな先鋭的なミュージシャンとも交流があったようだが、ここでは伝統的な民族音楽をベースにした演奏を繰り広げていて、めちゃかっこいい。本人はソプラノやらダブルリード楽器やらフルートやらを吹いていてスティーヴ・ゴーンというバンスリフルート奏者やパーカッションと共演しての演奏。とくに2曲目のパーカッションのピキピキいう心地よさとその上で展開する笛の繰り返しは癖になる。モロッコ同様、一種のトランスミュージックなのかも。即興の要素が強いというのは門外漢の私でもわかる。3曲目の柔らかなソプラノのモード反復による世界は、チンドンの手法にも似ているようにも思える。ベースとかいなくても、管楽器によってベース的なものを聴き手に感じさせることはできる。つづいてはおなじみのナナ・ヴァスコンセロス。1曲目はビリンバウのソロ。かっこよすぎる。2曲目は客の手拍子とシェケレ(?)かなにかだけを使って、コールアンドレスポンスだけで音楽を作っていく。こういうのもチンドンを感じるのだ。つまり、反復による音楽構築。なお、CDの裏ジャケットには先の曲が「コール・アンド・レスポンス」(そのままやんけ)、つぎの曲が「ビリンバウ・ソロ」となっていて、逆です。最後はフォディー・スーソとマンディンゴ・グリオ・ソサエティというグループで、フォディ・ムーサ・スーソというひとはガンビアの生まれで、なーんか聞いたことある名前だなあと思っていたら、CDを持ってました。超有名人じゃん。ハンコックとの演奏(サウンド・システム)が有名だが、私はファラオ・サンダースと一緒にやってるひとなので知ってるのだった。グリオというのは、マンディンゴの口承伝承家や音楽家のことだそうで、演奏したり歌ったりしながら歴史や娯楽や知識を提供する……とウィキペディアに書いてある。たぶんコラを演奏しているのがスーソで、めちゃめちゃうまい。ドラムは、めちゃうまいと思っていたらなんとハミッド・ドレイク。というわけで、あまりにバラエティに富み過ぎているぐらいの3枚組。フリージャズ好きも現代音楽好きもブルース好きも民俗音楽好きもみーんな楽しめる(か?)。一度聴いても損はないです。