「AFTER MIDNIGHT」(CAPITOL ECJ−50019)
THIS IS NAT”KING”COLE AND HIS TRIO
洒落てますなあ。こういうジャズがわかるようなひとになりたい、と思った時期もある(だからこそ買ったのだが)。何度も聴いているとじわじわ効いてくる。サラッとしているけど、じつはリズム感のすごいボーカル、味わいのあるピアノソロ、ゲストのウィリー・スミスたちも短くとも美味しいソロをする。何度聴いてもほっこりするが、今の自分が音楽に「ほっこり」は求めていないようで、聴いていて逆にイライラするときもある。たぶん、しばらくは聴かないほうが無難でしょう。キング・コールのアルバムのなかでは、かなりジャズ度の高いほうだとは思うが、一部のバップスキャットを除いてジャズボーカルにほとんど関心のない私には、本作ですらキツいのかもしれない。
「NAT KING COLE MEETS THE MASTER SAXES」(SPOTLITE SPJ136)
NAT KING COLE
ナット・キング・コールといえばジャズボーカルの巨匠だが、歌を歌いだすまえは、アート・テイタムの後継者的なピアニストとしてバリバリやっていたひとだ。しかし、だからといって私はナット・キング・コールにはなんの関心もない。持っているのは本作と、あと「アフター・ミッドナイト」というアルバムだけで、後者はボーカルも歌っているけどジャズっぽいという評価のある名盤だそうであって、(記憶ではたしか)スウィーツ・エディソンとかアルトのウィリー・スミスのソロもあって、なかなかボーカルファンでなくても聴けるアルバムだという……けど、私はまず聴くことはない。私にとってジャズというのは、とにかくテナーがギャーというというのが根本だからであって、ナット・キング・コールにはなんのうらみもない。そういう人間にとって、まさにぴったりというのが本作である。「ナット・キング・コール・ミーツ・ザ・マスター・サックシズ」とあるが、ここでいうサックスは3人ともテナーばっかりなのである。うはうはですね。しかも、レスター・ヤング、イリノイ・ジャケー、デクスター・ゴードンという面子はたいへん興味深いし、皆、そのキャリアの初期あるいは円熟期の吹き込み、という、案外お宝な作品なのである。まず、イリノイ・ジャケーだが、1942年の吹き込みというから、コンボ作品としてはほとんど初録音に等しいのではないか。なにしろあのライオネル・ハンプトン楽団での「フライング・ホーム」が1942年だからね(そもそもハンプトンにジャケーを紹介したのがコールらしい)。ジャケーはもともとアルトを吹いていたのを、ハンプトンオーケストラに入るにあたってテナーにチェンジすることを要求され、「唇が石みたいになるまで練習させられた」というが、つまりテナーに変わってから間もないころの録音のはずだ(それだと、コールとの録音ですでにテナーを吹いていることがつじつまが合わないけどなー)。しかし、驚いたことにここでのジャケーは太い、うねるような音色で堂々の貫禄ある吹きっぷりで、めちゃめちゃうまいのだ(ずっと昔からテナーを吹いていたみたいな音+吹き方なのですよ)。若干19歳のときだというから驚き桃の木山椒昆布(英文ライナーには21歳とあるが、それは間違いのはず)。つまりなんですな、ジャケーは最初からすごかった、ということですな。ブローテナーファンも喜ぶような、かなり暴れん坊な部分もある演奏で、ちょっと1942年とは信じられないほどのすごいタフなブロウをきかせる。トランペットのシャド・コリンズの快演にも言及しなければならないが、これは私の手に余る。つぎにレスター・ヤングだが、これも42年の録音というからレスターとしては絶頂期だろう。ドラムのいないテナー、ピアノ、ベースという変則的編成。「インディアナ」の最初のソロはスムーズなのだが、ピアノのソロのあとのテナーはまるでモンクのピアノのように木訥で、え? 調子悪いの? と思ってしまうが、これはギャグみたいなものらしい。4曲をなぜかA面のラストとB面のラストに2曲ずつ分けて収録してあるが、この時期は安心して聴ける演奏ばかり。デクスター・ゴードンは自己名義のクインテットで43年録音。これ以前にはジャケーと席を分けあったハンプトン楽団での録音があるだけで、コンボとしては初録音。しかもリーダー録音ということで、大丈夫かなと思ったが、このゴードンが超うまいのである。もう圧倒的だな。共演のハリー・スイーツ・エディソンは完全にスウィングスタイルなのだが、ゴードンは半ばバップ、半ばスウィングという感覚で異常にすごいソロをする。正直、ジャケーにも感じたが、まだ20歳だったはずだが、めちゃくちゃリラックスした悠揚迫らぬ演奏には驚くしかない。ウィントン・マルサリスがデビューしたとき神童と騒がれたが、いやいやいやいやジャケーもゴードンも神童っすよ。アップテンポでは破綻はないし、バラードでもめちゃくちゃちゃんと吹いてるもんな。呆れるばかり。ふたりともこの時点ではレスター・ヤングの影響を強く感じる(音色は太いんですが)。しかも、最後になってしまったが、ナット・キング・コールは(一切歌っていませんが)ソロにバッキングに絶好調の演奏なので、このアルバムはぜひ多くのひとにお勧めしたい。