「STOMPIN’ WITH SAVOY」(SAVOY COCY−75853)
MARC COPLAND QUINTET
「サヴォイでストンプ」ではなく、「サヴォイとストンプ」というタイトルの意味は、サヴォイレコードが日本コロンビアの傘下にあったときに、新録として制作されたものだからだ。つまり日本企画のアルバムなのだが、やはり日き本企画の良さ悪さ両方併せ持っている作品だと思う。当時、ジャズバブル的な状態にあったのか、日本のレコード会社は海外の有名ミュージシャンを使ってさまざまな企画のアルバムを出したが、それらはあくまでその当時の日本人のジャズ理解による企画であって、今あらためて見直してみると、うーん……というようなものもなきにしもあらずだったように思う。○○の再現とか、あの○○にこんな曲をやらせてみましたとか、○○と○○の初顔合わせとか、○○トリビュート的なやつとか……なんじゃそれ的な結果に終わるものもあった(もちろんなかにはめっちゃ凄い結果を残したものもあるとは思う)。今となっては貴重な、というか希少な内容のものばかりだが、ジャズ史的には単にスルーされるあだ花というか日本人ジャズファンがちょっとだけ騒いだ「面白企画」の域で終わったものがほとんどだ……とか言うと怒られるだろうか(だろうな)。でも、そういったことは日本にかぎらずアメリカでもヨーロッパでもしょっちゅうあったことで、ノーマン・グランツの企画なんてもうめちゃくちゃですからね。スタイルとか関係なく順列組合せで演奏させてどんどんレコードにする。あるいは、このすばらしミュージジシャンになぜこんなやつを組ませる、みたいな人選とか……。それでも数撃ちゃ当たるで、名盤も山のように作っていてえらい。まあ、私はそういうスウィングジャーナル的日本の本道ジャズ界隈にはまるで関係ないのでどうでもいいのだが、本作はなにしろボブ・バーグがからんでいるので真剣に聴かざるをえない。というわけで、本作はどうなのかというと、正直、めちゃくちゃメンバーは凄い。なにしろ、リーダーがマーク・コプランド、テナーがボブ・バーグ、トランペットがランディ・ブレッカー、ベースがジェイムス・ジーナス、ドラムがデニス・チェンバースという……超オールスターバンドである。おそらく皆は「おおおっ、凄い。このメンバーならとんでもない演奏になるのではないか。なにしろボブ・バーグにランディに……え? ドラムが……デニチェン?」というあたりでちょっと内心危惧を覚えるのではないか。私もそうでした。プロデューサーの小川隆夫氏によるライナーノートによると、「最初に決まったのがボブとデニスだった」そうで、ドラムはデニチェンにはじめっから決まっていたのだ。ふーん、そうなのか。これもライナーによると「もともど4ビートジャズとはあまり縁の薄い、フュージョン系の達人をフィーチャーできたことは正解だった」とあり、じゃあこれは「ステップス」みたいなものなのか、とも思ったが、ああいう「ポストジャズ・ポストフュージョン」的なものとはちがって、ほんとにただ普通に4ビートジャズをやっただけなのだ。曲も、スタンダードがずらりと並び、ああ、日本企画だなあと思うが、しかし、その選曲センスはなかなかで、スタンダードこそ「アイ・ガット・リズム」「アイ・ラブ・ユー・ポーギー」「ラヴァーマン」「イージー・トゥ・ラヴ」と無難だが、バップ曲「ウディン・ユー」からマイルスの「ブルー・イン・グリーン」「オール・ブルース」、コルトレーンのブルース「イクノックス」、そしてショーターの「フットプリンツ」、ハンコックの「ワン・フィンガー・スナップ」と、大学のジャズ研あたりが食いつきそうな曲を並べている。そして肝心の演奏は……というと、これがはっきり言ってかなり面白い。とくにボブ・バーグはさすがのブロウで縦横無尽に吹きまくっていて、あいかわらず呆れるぐらい上手く、そして音楽的にも超ハイレベルでアイデア豊富でかっこよすぎる。そして、ランディのトランペットがええフレーズ吹きまくりで表現力も抜群で期待以上だった。また、リーダーであるマーク・コプランドのアレンジがおなじみの曲に新鮮さを与えているが、正直言って、このえげつないぐらい凄いメンバーだと、もっと凄い演奏を期待してしまうのはしかたないのではないか。全員、さすがのプレイだが、「めちゃくちゃ凄いっ」というものではなく、まあ、こんな感じになるやろなあという予想の範囲内である。それは、おそらくは演奏の尺によるものが大なのではないかと思う。ボブ・バーグなんか、ここから盛り上がるというところでやめてる感じもあるしなあ。惜しい。フェイドアウトの曲もけっこう多くないか? そして一番「うーん……」と感じたのはドラムだ。ジョンスコバンドやブレッカーブラザーズなどで聴かせてくれたヘヴィでスピード感がありグルーヴしまくる、あの感じは皆無で、ジミー・コブか?というぐらいの渋い演奏だと思った(5曲目でドラムソロがあるのだが、ものすごーくちゃんとしたジャズのソロではある)。もっとデニス・チェンバースが制約をとっぱらっていつもの感じでめちゃくちゃ大暴れして叩いたら、それはそれで面白いものになったのではないか、でもそれでは企画意図とは変わってくるのだろうな、それならこの企画は最初からあかんかったのか……などと考えているうちに演奏に没頭できなくなり、もう一回はじめから聴きなおす、ということになる。やはりオールスターを集めてきた感はぬぐえないアルバムでした。ではダメな作品かというとそんなことはなく、アマチュアミュージシャンが、こういった曲でのアプローチを勉強するには相当いいかもしれませんね。あとボブ・バーグファンとランディファンは必聴でしょう。