FREDERIC COUDERC
カークのそっくりさんであるフレデリック・クーデールによるカーク賛歌。1曲目はバッバババ、バッバババ……と水戸黄門か始まるのかと思ったら、エリントンの「ブラック・アンド・タン・ファンタジー」。3本くわえて、カークよりももっと荒々しい音色で分厚いハーモニーを吹く。一本だけで吹いたときのテナーの音やソプラノ(サクセロ?)、アルトなどの音などはめちゃめちゃいいので、きっとすごくうまいひとなのだろう。フレーズもびっくりするほど流暢で、アルトを吹かせるとパーカーマナーでばりばりのバップだが(3曲目など。ジャケットにはこの曲ではサクセロとテナーを吹いていることになっているが、最初の部分はアルトでは?)、途中で2本くわえて吹き始め、そのあとサクセロのみになり最後はテナーを吹くあたりの曲芸的な部分はほんと、必要ないような気もするぐらい。こんなにうまいのに、なぜこんなアルバムを作ったりするのか、と思ったが、おそらくとにかくカークが大好きなのだろうなと思った。気持ちはわかりすぎるぐらいわかる。ネットを探すと、普通のサックスやバスクラやフルートなどだけでなく、ストレートアルトみたいなやつとか(Cメロサックスを改造した「クードフォン」という楽器だそうです。4曲目はこの楽器によるバラードだが、見事な演奏)、スライドアルトという妙な楽器とかもいろいろ吹いてる写真があったし、鼻で笛を吹いている画像も出てきた。曲の最後を必ずサイレンの音で締めるのもカークオタクならでは。ほかにもバリサク、バスサックス、メゾソプラノサックス(ソプラニーノのこと?)なども本作で演奏している。このひとは根っからのサックスオタクらしい。ネットの画像ではクラリネット系も吹いているようだが、本作ではサックス類のみ。カークなんだからクラリネットも吹けばいいのにね。5曲目はテナー、アルト、サクセロによる3本吹きのイントロから、アルトでのまるでジョニー・ホッジスのような美しい音色でのバラード演奏になる。6曲目はモンクの曲らしい。ピアノもそれ風に弾く。サクセロとテナーの一人バトルを聞かせてくれるが、それぞれがキャラがちがうように吹くので、本当にバトルしてるみたいに聞こえます。7曲目はバリサクを、低音を強調するように吹くが基本はバップである。8曲目はメゾソプラノサックスという、よくわからんサックスを吹いていることになっているが、たしかにソプラノほどきんきんした音ではなく、かといってアルトでもないという、なかなかいい音色で、しかもプレイはバップ以前のスウィングスタイルのひとを思い出すような小唄っぽい吹き方でこれもグーです。9曲目はバスサックスで軽い感じで演奏する。バスサックスなので、普通はどうしても重くなるはずだが、それを小粋に聞かせる(途中から、バホバホいわせはじめるが、最終的にはやっぱり軽妙に終わる)あたり……そうだ、ここまで聴いてきてようやく思い至ったのだが、カークというよりスコット・ロビンソンに似てるんじゃないっすか?。あのひとも各種のサックスを操るオタク的サックスマニアプレイヤーだが、たしか8曲目の「インファハン」もCメロでやっていたような記憶がある。10曲目はテナーで吹いているが、テナーで普通に吹くと音も軽いし、すごく軽快な感じだ。カークのカの字もなく(つまりアクの強さがないということ)、歌心とテクニックで聴かせる洒脱なソロだ(最後はフェイドアウト)。めちゃめちゃうまい。このあたりはエリック・シュナイダーみたいだなあ。11曲目はなんだかよくわからないものです。というわけで、信じられないほどうまいサックス奏者であります。マジでカークをやってるのは6曲目ぐらいまでで、それも、このひとの個性はちゃんと発揮しており、あと循環呼吸を使っていないので、どうしてもカークっぽいあの息苦しい雰囲気にはなりません。そういうことはべつにしても十分楽しめるアルバム。